初期研修制度は何のために作られたのでしょうか?「プライマリ・ケアを中心とした、幅広い知識を身につける」ために創設された制度ではなかったでしょうか?少なくとも、「地域格差を是正するため」や「医師配置を適正化するため」の制度ではなかったと記憶しています。
当初の制度設計自体にも議論はありますが、僕自身はこの制度の導入により、日本の医療界にとってメリットがデメリットを上回ったと思っています。この制度のメリットの根幹は何か、それは「病院で一人当直でもなんでも、何とか一晩患者さんを診て、翌日朝に専門医に引き継ぐ」もしくは「一人診療所でもなんでも、とにかく一次的に患者さんを適切に処置して、高度の医療施設に引き継ぐ」ための、基礎能力の養成にあると思っています。
「一人当直はするべきではない」「専門医のさらなる拡充を」といった意見もあるかと思いますが、日本の現状ではその部分の急激な変更は難しいでしょう。また、徳田安春先生(筑波大水戸地域医療教育センター・水戸協同病院総合診療科教授)が実施した調査では、二次救急の内科疾患を想定した症例の処置の正答率に、初期臨床研修制度必修化前後で有意な差(必修化後でより高い正答率)が認められています (1)。
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/series/tokuda/ (記事を読むには、日経メディカルオンライン会員である必要があります)
当初の目的に立ち戻り、これが日本の医療にとって望ましい方向性だと仮定すれば、夜勤制の導入可否の議論にも少し幅が出てきます。ここで設定すべき問いは恐らく、「二年間の初期研修で、上記の目的を達成するために最大の効果を得るには、どのような制度設計が必要だろうか」であり、その文脈の中で「夜勤制」が一つのオプションに上がってくるのだろうと思います。
研修医の働き方はどうあるべきか、どれくらいの患者数をカバーするのが適切か、疲労と研修効果のトレードオフをどう捉えるべきか?その結果として、研修病院に必要な規模はどれくらいか、どれくらいの研修医数がどれくらいの病床数、指導医数に対して適切か?このような本質的な議論は、特に医療界が牽引する必要があると思います。ハーバードで行われた研究では、研修医あたりの患者数を制限(介入群で平均3.5人(!) vs コントロール群で6.6人)した結果、患者に対するケアの質を落とさずに、研修医教育の時間が増え、満足度が上がったとされています (2)。もちろんこれが日本にそのまま応用できるとは微塵にも思っていませんが、ベストの研修を模索しようとする教育病院の姿勢から学べることは多いのではないでしょうか。
研修医の箸の上げ下げまで規定するような、詳細な制度設計が望ましいと思っているわけではありません。むしろ夜勤制の実施など実際の適応部分は、現場の判断に委ねる方が望ましいと考えます。そのような現場の判断を可能にするような、原則に基づいた制度設計が検討されるべきでしょう。
(1) Tokuda Y, et al. The New Japanese Postgraduate Medical Education and Quality of Emergency Medical Care. J Emerg Med. 2011 Mar 11. [Epub ahead of print]
(2) McMahon GT, et al. Evaluation of a redesign initiative in an internal-medicine residency. N Engl J Med. 2010 Apr 8;362(14):1304-11.
初期研修では夜勤の救急診療が大きな教育的意義を持っています。色々の症例を経験するのには欠かせません。適度の回数は必要です。楽できるものでは鍛えられないと思います。自分で判断することや、責任を持つ事も大切な研修内容です。
おっしゃる通りだと思います。僕自身の経験でも、夜間当直の方が学びと経験の密度が濃かったです。その経験の密度を最大化させつつ、ご指摘の「適度の回数」を探る継続的な作業が必要なのかなと最近は感じています。