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米国の医療に憧れ、渡米後研究者から臨床医に転身。フィジシャンサイエンティストを目指すが、その後、妻が米国での内科研修を開始したため、家庭のサポートに回ることを決意。子育てにも積極的に参加。現在、日系人の多いカリフォルニア州モントレー郡で、心臓病診療に従事。内科医の妻と子供二人の四人家族。研修終了後の医師の生活、家庭のあり方、子育てなど、米国の生活に密着した情報をお伝えしたいと思います。

齋藤 雄司

新潟県出身。新潟大学医学部卒業後、同大学内科研修、大学院修了。血管生物学の基礎研究に従事するためポスドクとして渡米。その後、ロチェスター大学関連病院内科レジデント、カリフォルニア大学アーバイン校循環器フェロー、カリフォルニア大学サンディエゴ校心臓電気生理フェローなどの臨床トレーニングを行う。バッファロー大学内科クリニカルインストラクターを経て、現在は、カリフォルニア州モントレー郡の開業循環器グループに所属。不整脈を含む心臓病診療に従事する。

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2014/07/13

医学部の差別化が進む?2023年問題

記憶に新しいところに2000年問題というのがありました。1999年から2000年に変わるときに、コンピュータが誤作動して大変な事が起るのではないかと言われた問題です。莫大なお金が投入されて(そのおかげかどうかわかりませんが)事なきを得、まさに「大山鳴動して鼠一匹」とう感じの事件でした。さて、今度は2023年問題です。これは日本の医大関係者の間で大騒ぎになっている問題です。私はいつも情報には疎く、これを知ったのもつい最近の話ですが、もう四年前(2010年)からの懸案事項だそうです。

外国医大卒業生がアメリカで研修するためにはECFMGという機関に認定してもらう必要がありますが、そのECFMGが「2023年以降は、世界医学教育連盟(WFME)で認定された医大の卒業生しかECFMG認定の対象としない」と2010年に発表しました。2023年問題はそこに端を発しています。「あー、そーですか」と感じですし、「それがどーした」とも思います。何と言っても、先進国であり、長寿国でもある日本の医学教育が、世界基準に達してないとはとても考えられませんから。

ところが、驚くべき事に日本にはWFME認定医大が一校も無いのです。ということは、2023年以降は日本の医大を卒業しても、アメリカで医学研修を受けたり、医師として働く事はできないというわけです。「アメリカで研修なんて考えてないからそれでも関係ないね」と言う声も至極もっともです。私も学生時代はECFMGなど雲の上の人がとる資格で、自分にはまったく関係ないと思っていましたから。

しかし、日本の医大関係者は事の重大さを敏感に察知して、対策を立て始めています。何がそんなに重大かというと、今後WFMEに認定された医大かどうかで、大学の序列化が進む可能性があるからです。国際化の流れの中で、受験生たちが「国際規格の進路(WFME認定医大)を選ぶようになる」と想像するに難くありません。すると非認定の医大は、あくまで「国内向け医大」として二流校に転落してしまう可能性があります。この問題を解決するには、2023年の卒業生が医大に入学する2017年までにWFMEに認定されている必要があるので、あと三年しかありません。日本の医大関係者が焦るわけです。

日本の医学教育カリキュラムは欧米諸国に比べ臨床実習期間が短く、医学生の扱いも「見学者」の枠を超えないため、医学教育の「質」を重視するWFMEの認定を受けるのは現状のままでは不可能と思われています。「アメリカ基準のカリキュラムを組めば、WFMEも文句ないはずだ」ということで、日本の多くの医大が、アメリカの医大を手本にして教育カリキュラムの改正に乗り出しています。一番の変更点は臨床実習です。たとえば、カリフォルニア州の医師免許取得条件は、72週以上の臨床実習を修了していることですが、一年間に52週しか授業週数の無い日本の医大では、これまで通り一年間だけで臨床実習を終わらせるわけにはいきません。それで、急いで72週規格を作ろうとしているわけですが、臨床実習が二学年に渡る事態になります。そうすると、一学年100人の医大であれば、二学年分の200人が一気に臨床実習に出る時期が必ず出てきます。(http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02989_01)今までの実習生数の二倍ですから、大学病院だけではさばききれません。市中関連病院などの協力が必要です。実習時間が長くなっても講義時間は減らせませんから、最初の二年間の教養課程を削って医学教育に充てないとダメかも知れません。WFME認定を勝ち取るためには、形式だけでなく教育の「質」も問題です。質の良い教育者を確保できるでしょうか。アメリカのように医学生をMedical Clerkとしてチーム医療の一員に組み込むのでしょうか。だとしたら、医学生の医療過誤保険は誰が払うのでしょうか。医学教育全体を再構築する大手術が必要で、私などはちょっと考えても頭が痛くなりまが、日本の医大関係者の方々は、この変化に対応するため着々と準備を進めておられます(本当に素晴らしい!)。

私の頃は、医学生は病院で完全にお客様(見学者もしくは邪魔者)でした。臨床実習の前にガイダンスも何も無く、聴診の仕方も分からないまま病棟に放り出されました。いてもいなくても良い状態だったので、二日酔いのときは気軽に休めましたし、実習グループ全員で平日にスキーに行ったこともあります。日本の医大がWFME認定を受けて世界規準になり、それによって日本の医学教育の質が向上するならば、それほど喜ばしい事はありません。ECFMGを取得してアメリカで臨床研修すること自体に意味が無くなってしまうかも知れません。私のような不真面目な医学生も淘汰されていくことでしょう。少し寂しいですが、それは多分とても良い事です。

19件のコメント

  1. 蒔田芳男 より:

    国内対応済みの件です。

  2. 佐々木 潤 より:

    これは知りませんでした〜!日本以外ではどれくらいの医大が認定されてるのですか?
    例えば、インドの医大はどうなんでしょう?インドの学生にとっては大打撃になる可能性があるのでは。

    • 齋藤 雄司 より:

      日本の行政の動きは素早いですが、そうでない国もたくさんあるはずですよね。認定に関しては、WFMEのホームページ(http://www.wfme.org)を見てみましたが、今ひとつはっきりしません。「WFMEは、国際認定のためのガイドラインを作るだけで、認定機関そのものではない」というような事が書いてあります。しかし、「ECFMGと協力して新しい認定機関を作る」というような事も書いてあります。2010年にECFMGが、突然WFMEガイドラインを盾にした認定制限を発表したため、WFMEの方でも困惑しているような印象を受けますが。現実はどうなんでしょう。

  3. コルビン麻衣 より:

    知りませんでした!最近こんな記事(http://www.bmj.com/content/348/bmj.g3766)を読んだのですが、先生の記事を読んだ今、これもこういった変化に対応するためなのかな、と思います。日本で医学教育を受けたことがないので、日本とアメリカの医学教育の違いはとても興味深いです。

    • 齋藤 雄司 より:

      これもすごい話ですね。麻衣先生のおっしゃる通りかも知れません。私は正直、日本のゆるい医学教育が結構気に入っていたのですが、もうそんな時代ではありませんね。

  4. 平井理栄 より:

    初めまして。夫がシカゴで循環器内科のフェローをしている平井と申します。お聞きしたいことがあってコメントさせて頂きました。私は内科レジデンシーに今年応募しているのですが、齋藤先生の奥様は内科レジデントになられたときビザはどうされましたでしょうか?グリーンカードお持ちでしょうか。

    • 齋藤 雄司 より:

      理栄先生、ビザの問題は本当に厄介ですね。私が研究者として働いているときにグリーンカードをとったので、妻はレジデンシーを始めるときにはグリーンカードを持っていました。でも、J−1ビザで研修を始められてもまったく問題は無いと思います。フェローシップもJ−1で大丈夫です(フェローシップに関してはH−1BビザよりもJ−1の方が良いようです)。研修後にアメリカに残るのであれば、大学に残ってO-1ビザをサポートしてもらうか、3年の僻地診療でウェイバーをやるか、退役軍人病院のポジションを見つけるか、というオプションがあるかと思います。もし、現在までに研究実績があるのであれば、O-1ビザで研修を始めるという手もあります。ご存知と思いますが、ステップ3まで合格していれば、H−1Bビザでの研修も可能です。

  5. 平井理栄 より:

    丁寧なご回答ありがとうございます。グリーンカードを持ってらっしゃるのですね。私は今J2で3年経ちましたが、レジデントに採用されたらJ1に切り替えればいいのかと漠然と思っております。それが可能なのか、そうされた方は他にいらっしゃるのかわからなくてコメントさせて頂きました。研究業績などはありませんのでJ1の方向でやってみようと思います。ありがとうございます。

    • 齋藤 雄司 より:

      J2ビザからClinical J1ビザへの変更は、恐らくは可能と思いますが、移民弁護士にお聞きになるか、ウェッブ上の質問コーナーなどで尋ねられると良いと思います。内科レジデンシーのマッチが上手く行くようお祈りしております。

  6. 平井理栄 より:

    ありがとうございます。確認してみます。キャリア再開を目標に我が家も家族で協力しあって頑張ります。

    • 齋藤 雄司 より:

      そうですね。家族の協力は大切ですし、またそのための家族であるとも言えます。ご主人様と一緒に頑張ってください。応援しています。

  7. 萩原義也 より:

    聖マリアンナ医科大学の学生萩原と申します。
    2023年問題の検索をしていて、先生のブログに出会いました。
    現在、私が所属する医大でもいうまでもなくカリキュラム改訂が進められています。
    無論、現在のままでは非常に厳しい状況であることは理解しております。
    ただ、日本の6年間の医療教育の中に、アメリカ型の8年間教育を押し込めることは大変難しく、困難を極めているのが現状です。
    先生のいらっしゃる新潟大学、教育で先進的な大学と聞いております。
    具体的に、先生のご意見を頂戴したいのですが、可能でしょうか?

    • 齋藤 雄司 より:

      新潟大学は、JACMEの認定を受けるべき最初のトライアル6校の1つに選ばれたに過ぎず、カリキュラム改定のために関係者は他大学同様に苦労されているようです。国立大学では、教育、研究、臨床の三本柱という建前の中で、伝統的に教育が一番軽視されてきた印象があります。大学側は「そんなことはない」というでしょうが、2004年に開始された初期研修制度の結果を見ると、国立大学へのマッチ率は目を覆いたくなるほどで、医学生が国立大学での研修をどう思っているかを如実に表しています。聖マリアンナ医大の方が、学生、研修医教育ではよほど先進的なのではないでしょうか。

  8. やながわ より:

    アメリカの真似をしても見学が長くなるだけになるような気がするのは私だけですか?
    今のままにして行きたい人だけ行ってその人が知識を持って帰るというスタンスでもいい気がしますが。

  9. 齋藤 雄司 より:

    まさにおっしゃる通りです。アメリカの形ばかり真似して中身が伴わなければ、見学が長くなるだけでしょうね。日本の医学部の研究、臨床、教育の三本柱の中で一番軽視されてきた「教育」がいかに変わっていくか、注目したいと思います。

    • やながわ より:

      返信ありがとうございます。
      入試制度から医療制度から文化から何から何まで全く異なるのに
      表向きだけアメリカの真似事して意味あるのか?ていうのが正直な感想です。それに加えて、日本(特に地方)は医者足りないですし。
      向こうは結局8年間大学に通って医者になるわけですから、日本も研修医期間含めば8年間かけて医者になるって考えたら、無理にBSL長くしなくてもいいと思いますけどね。BSL二年+研修医二年て考えたら向こうの医学生と実習量的には変わらない気がします。

  10. 大角 より:

    2023年問題を検索している際にこちらのページを見つけてました。
    現在医学科4年で2020年3月卒業予定です。将来、米国で臨床留学がしたく、USMLEの勉強を始めました。2020年卒業の場合、2023年までにUSMLEのすべてを受験し終わらなければECFMGは取得できないのでしょうか?それとも、2023年以前に卒業なのでECFMG取得はそこまで焦らなくても大丈夫なのでしょうか?あまり日本では情報がなくこちらのコメント欄に投稿させていただいています。よろしくお願いします。

    • 齋藤 雄司 より:

      この2023年問題は、非常に不可解しかも不明瞭です。これを発表した当のECFMG自身も、どういう基準で外国の医学部を認定するか決めていなかった感があります。WFMEに全て下駄を預けた(dumpした?)ような発表の仕方になっていますが、WFMEも寝耳に水、とんだとばっちりを受けたような感じです。ECFMGのウェッブサイト(https://www.ecfmg.org/about/initiatives-accreditation-requirement.html)によれば、認定するためのagency(恐らくは第三者機関)を認定したとあります。(当初の発表のようなWFMEではなく)そのagencyに認定された医学部卒業生が2023年以降のECGMGの受験資格になるようです。しかし、そのagencyなるものが、一体どのような組織かも明言がありません。この2023年問題に対するECFMGの対応はまったくお粗末で、すべて後手後手に回っている感があります。さてご質問の答えですが、残念ながら、私にもよくわかりません。ECFMGのウェッブサイトで発表されている文面からは、非認定医学部の卒業生は、2023年以降は受験資格がないような印象を受けます。ただ、日本の関係各位が多大な努力されているので、日本のすべての医学部が恐らくは2023年問題をクリアするのではないでしょうか。楽観的に考えて良いかと思います。

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