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野木真将

ブログについて

ハワイは温暖な気候と全米一のCultural mixが見られ、医師としての幅広さを養うにはいい環境と感じています。 旅行だけでは見えない、ハワイ在住の魅力もお伝えできればいいなと思います。

野木真将

兵庫県出身、米国オハイオ州で幼少期を過ごす。京都府立医大卒、宇治徳洲会病院救急総合診療科の後期研修を修了。内科系救急を軸とする総合診療医として活躍したい。よきclinical educatorとなるため、医師としての幅を広くするため渡米。2014年よりハワイで内科チーフレジデントをしながらmedical education fellowshipを修了。2015年よりハワイ州クイーンズメディカルセンターでホスピタリストとして勤務中。

 今回は自分の経験を踏まえての、教育の過去と未来の話です。

 ● 1980年代後半の米国での経験

 私は小学校3年までは米国の公立校に通い、3年生の途中から日本の公立小学校に編入した経歴があります。帰国子女として当時は色々と戸惑いましたが、小学生ならではの柔軟性でうまく適応したのではないかと思います。
 米国の小学校での自分の記憶も薄れていますが、今思えばとても先進的なカリキュラムの中で育ったのではないかと思います。当時通っていた小学校では教科ごとに年度の途中からでも飛び級が可能でした。私も2年生の時に算数だけ5年生の教室に行っていた記憶があります。教室の机には教科書が常備され、個人で購入する必要もありませんでした。宿題はそれほど多くなく、自由課題レポートやプレゼンテーションに重きをおいた授業でした。
 とてもよく覚えているのは、Discovery classと呼ばれる特別科目でした。一部の子供達が授業中に校内アナウンスで呼び出され、図書室横の部屋に入ると壁には課題が書いたカードが並んでいました。例えば、「新しいボードゲームを考案して、ルールを5つ書いて盤面をデザインせよ」とか、「Turtleというプログラミングソフトを使って4種類の図形を書いて、1つは色を加えよ」などでした。年度の最後には自由研究発表がありました。1年生から自分でテーマ(曖昧な記憶ですが、中世ヨーロッパの武器、ロボット工学、ウィルスの進化などを選んでいたような気がします)を選択します。準備にはおよそ2ヶ月をかけ、インターネットが普及する前の話なので、学校がスクールバスでダウンタウンの中央図書館まで定期的に連れて行ってくれました。ポスターや工作展示物を作成して保護者を読んで盛大に発表会を企画していました。工業が盛んな街だったので、地元企業と協賛する上級生もいました。
 当時(1980年代後半)は特に疑問も持たずに参加していましたが、今思えばそれは自由な発想を鍛える訓練のように感じます。
   日本に帰国したのが1990年でしたが、大きな戸惑いの原因は自由度の低い授業、たくさんの宿題、自由な発想やディスカッションの機会の少なさではなかったかと思います。「よく窓の外を見ている」と保護者面談で注意を受けていたと親から聞いています。今では日本の小学校でも私立や公立を問わず、私の知らないところできっと先進的な取り組みがあるとは思うのですが、経験して来た範囲でお話をします。
 現在(2018年)の自分の子供たちの学校生活を見ていると、1980年代に自分が米国で経験した「楽しい小学校生活」は今も継続されていると感じます。娘は4年生、息子は2年生で地元の公立小学校に通っています。宿題は驚くほど少なく、放課後や週末は好きな事をする時間が結構あります。塾に通わずとも、授業時間内に学習は完結している感じもあります。

 ● 教育は10-15年先の未来を見越して

 この違いはどこから来るのでしょうか?
   簡潔にまとめるならば、
「何を目指すのか」というアウトカム設定に集約される
と思います。
 職業訓練は別として、小学校のような最初の頃の教育は「今」必要なことよりも、その子が社会人になる頃(10-15年先でしょうか)に必要な知識、態度、技術(KAS: Knowledge, Attitude, Skills)が大事だと聞いたことがあります。
 さらに言うと、20年、30年先でも必要であり続けるものを見据えた教育を次世代に伝えるべきです。マスデータを蓄積して瞬時に呼び出すことのできる人工知能が普及していく未来において
「知識の暗記(習得)」が得意な子は重宝されません。
 では、何が必要になるのか?

 ● 21世紀型学習の”4C”

 この大事な問いかけに真剣に取り組んで来た団体が”Partnership for 21st Century Skills (P21)”です。
 これは2002年に創設された非営利団体(NPO)で、ビジネス界(アップルコンピュータ、マイクロソフト社、デルコンピュータなど)、教育界(National Education Association: NEA、米国教育省など)と政界の重要人物たちを多数含んでいます。
 21世紀を生きる子供たちに教えることの柱として、次の4項目が挙げられました。
 “4C”
    1. Creativity (創造力)
    2. Communication(会話力)
    3. Collaboration(協働性)
    4. Critical Thinking (批判的吟味)
 これを初めて聞いたときは「なるほど!」と納得しました。
 人工知能は膨大な「過去のデータ」からパターンを抽出して作業するのには強いのですが、過去のデータがないこと、すなわち「新しいこと」は弱点となります。なので、創造力(項目1)は大事です。「型にはめる」よりも「型を破る」ことが重視される時代になるかもしれません。
 ここで言うコミュニケーション能力(項目2)とは、直接会っての会話に限ったことではありません。電子メールやソーシャルネットワーキング(SNS)などを使って面識のない人にも話しかける人物が成功を収める時代になってきています。「ソフトスキル」とも呼ばれる能力ですね。
 そうしてグローバルな人間関係を活かして作業する能力(項目3)で大きなプロジェクトをする人物がより生産性が高くなります。私が初めてボストン小児病院を訪れた時に見たOPENPedriatricsというオンラインの教育ツールの製作オフィスを見学する機会をいただいたことを思い出しました。そこでは、小児集中治療医が監修した内容で、映像作成やアニメーションの専門家がコンテンツを作り、広報専属のスタッフが運営を管理して、研究グラントを活かして無償で提供することに成功していました。医療現場も多職種で協同して働かないといい結果が出ないどころか、ミスが起こりやすくなります。
 インターネットを検索すればなんでも見つけられる時代になってきます。そうして得た有象無象の情報を上手にフィルタリングして真偽を見極められる能力(項目4)も大事になってきます。私も「インターネット上の情報過多は改善されない。むしろ情報フィルタリング不全が問題だ。」と教わってきました。これは医学界でも科学論文の発表数の増加に見られる現象です。もう1つ、組織の中で「安定しているように見えても、改善を要するもの」に注目して「より良い方法」を見いだせる能力も含まれます。医療界でいうところの品質改善(Quality Improvement)に見られる能力ですね。

 ● 我が子に見る”4C”の実践

 最後に、これら4Cが自分の娘の宿題にどう影響しているのか、という観察で締めたいと思います。
 娘は地元の公立小学校に通う3年生なのですが、クラス全員にグーグル社のクロームブックというノートパソコンが配布されています。
 ある日、娘が家で宿題をしている様子を覗くと、グーグルアカウントを利用してクラスの班員と「グーグルクラスルーム」という仮想教室にログインしており、「アナコンダについて調べて発表する」という課題をこなしていました。そこではプレゼンテーションの準備に必要な項目が掲載されており、班員で分担した部分をそれぞれがアップロードしていました。オンラインではグーグルスライドでスライドショーを共同で作製し、教室ではアナコンダの模型を作製しているようでした。
 つまりはオンライン上で仲間と会話(Communication)しながら協同作業(Collaboration)をしているのです。単なるスライドショーだけでなく、模型を作製して触れてもらうことで理解度を高める工夫は自分たちで検討したもの(Creativity)でした。そうしてお互いの発表を見て意見や改善点を話し合う(Critical thinking)もあるようです。
 小学校の現場からこのように、知識の伝達を目的とする講義から脱却して、4Cを鍛えるチーム作業を練習している様子は頼もしく感じられました。
 私もなるべく子供には答えを教えるのではなく、「インターネット上で検索する能力」を育てたいと思い、自由に使えるパソコンを準備してあげています。

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