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ハワイは温暖な気候と全米一のCultural mixが見られ、医師としての幅広さを養うにはいい環境と感じています。
旅行だけでは見えない、ハワイ在住の魅力もお伝えできればいいなと思います。

野木 真将

兵庫県出身、米国オハイオ州で幼少期を過ごす。京都府立医大卒、宇治徳洲会病院救急総合診療科の後期研修を修了。内科系救急を軸とする総合診療医として活躍したい。よきclinical educatorとなるため、医師としての幅を広くするため渡米。2014年よりハワイで内科チーフレジデントをしながらmedical education fellowshipを修了。2015年よりハワイ州クイーンズメディカルセンターでホスピタリストとして勤務中。

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2018/08/27

米国ホスピタリストの黎明期とRobert Wachter氏

(この記事は、2018年6月21日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)
 
 あめいろぐ「ホスピタリスト」本、好評いただいております。私はスタッフホスピタリストとして、米国ハワイ州クイーンズメディカルセンターに勤務して3年が経ちました。この経験を踏まえ、ホスピタリストの話題を中心に投稿していきます。
 今回は、米国でのホスピタリスト・ムーブメントの立役者であるDr.Robert Wachterについて書きたいと思います。彼自身、「自分はホスピタリストのDean(学長)」とも表現していますが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)でホスピタリスト部門を立ち上げて全国的に有名にした立役者として知られています。米国ホスピタリスト学会(Society of Hospital Medicine: SHM)の総括講演はここ数年連続で彼に依頼されています。
 筆者が個人的に思うDr.Wachterの素晴らしさは、その先見の明にあると思います。彼はいち早く、電子カルテシステムの進化に携わりました。今後の医療は「量よりも質」に転換していくと予想し、High Value Care(エビデンスに基づいた費用対効果に優れた病棟管理)を科学的に研究してきました。医療安全が最優先課題になると予想して、ホスピタリストを中心とする各種院内委員会のあり方を検討してきました。そして、山積みの課題に対する変化(イノベーション)を実践できるのはホスピタリストであると信じてパイオニアとして活躍しました。内科系の有名な学術雑誌 New England Journal of Medicine (NEJM)に彼が1996年に投稿した論説から「Hospitalist(ホスピタリスト)」という名称が普及したと言われています。彼の名前でYoutubeを検索すると、情報科学のテーマでの先進的な講演(筆者の大好物)がいくつもあります。
● 1990年代の米国病棟管理の実情と変遷
 米国では1990年頃まで、地域で診療所を開業するプライマリケア医の患者が入院した際には、そのプライマリケア医が入院主治医として病棟管理をしていました。これは専門医であっても同様で、例えば呼吸器内科専門医が外来でフォローしている喘息患者が急性増悪で入院した際には、その専門医が入院管理をしていました。ここには患者ー医師関係の強い絆が存在し、患者側は心強かったと思います。
 反面、入院主治医は外来診療の合間にしか病棟に来られないため、日中に何らかの問題が起こった場合、病棟スタッフは電話で相談するしかなく、実際の対応は院内にいる研修医(レジデント)が担うことが多かったようです。昼間の検査結果の把握と次の治療計画への修正なども夕方遅くになり、在院日数が長引く原因になりました。その後、時代の流れとしていわゆる予定入院が姿を消し、ほとんどの入院が緊急入院となる中で、入院指示のために夜間も病院に呼び出される医師の疲弊も大きかったようです。
 そこで、数人の医師がグループを組み、外来をしない日には病棟にいる時間を増やし、お互いの患者の管理をこまめにできるように協力しあう動きが民間病院で始まったのが1990年代前半です。これがホスピタリストのプロトタイプになります。
 こうなると、これまで課題が山積みであった病棟管理がスムーズに行くようになり、病棟スタッフからの評判も上がります。研修医にとってみれば、これまで電話でしか相談できなかった指導医が常に院内にいるため、回診がはかどります。病院としても、マネジドケアと呼ばれる疾患名ごとの定額支払い(日本ではDPC, 米国ではDRGと呼ばれるシステム)へ医療政策が移行する中、無駄な検査と在院日数を減らせて助かります。
 筆者は米国でのレジデンシートレーニング中に2種類の診療体制(旧体制:外来医が入院主治医 vs 新体制:ホスピタリストが入院を管理)を経験することができました。旧体制の方が院内での自律性があってよかったのですが、コミュニケーションは大変だった記憶があり、ホスピタリストが指導医であることのアクセスの良さを実感しました。
 研修医の長時間労働が問題視され、労働時間と担当患者数に制限を設ける病院が増えたことも、ホスピタリストによる病棟管理を普及させる一因となりました。研修医が関わらない入院患者も増加し、それらを管理するホスピタリストが必要となったからです。
  今では全米の75%もの病院がホスピタリスト制度を導入しています。ホスピタリスト数はたった20年で50,000人に増え、登録数 22,000人の循環器内科医を超える集団に成長したのです。
ホスピタリスト増加の要因
 ホスピタリストが爆発的に増えていったのは、こうした時代の要請の他にも大きく2つの要因がありました。
 1つ目はシフト制を組むことで休みを定期的にとるようになったことです。これは外来から解放されることと、数の強みで可能となったことです。筆者も50名近く在籍するホスピタリストグループで7日間連続日勤したあとは、7日間休暇という勤務体系の恩恵に預かっています。このような働き方を志向して、ホスピタリストになる医師は少なくありません。7日間の休暇(オフ)の間に、病院の委員会活動、学術活動、教育活動に従事することでホスピタリストの価値と生産性は高まります。私の所属施設の研修医教育責任者の多くがホスピタリストなのも納得です。
 2つ目は、ジェネラリストの“裾野”が広かったことです。米国では、医学生の臨床実習で外来診療と病棟管理のどちらも経験し、卒後すぐのレジデンシーでも外来と病棟をバランスよく担当する「総合内科教育」が行われてきました。そのため、病棟管理ができる素地を持つ医師が開業医の中にも多かったのです。これは、病棟管理よりも外来診療に教育の比重を置くカナダやイギリスでホスピタリスト制度が普及しにくいことからも分かります。
 ホスピタリストが普及して行く過程では、開業医や専門医などから領域侵害の批判を受けたり、シフト制のため担当医が固定しないことに対して患者から不満や不信感などをぶつけられたりする事態がきっとあったことでしょう。こうした批判や反発に臆することなく、医療経済面、医療安全面、医師と患者満足度などの観点から多面的にデータを集めてホスピタリストの有用性を科学的に証明していったのがRobert Wachter氏らを中心とするUCSFのチームであり、その後構成された米国ホスピタリスト学会(SHM:会員数約5万名)なのです。
誕生から20年、ホスピタリスト制度の”副作用”とは
 1996年に論説がNEJM誌に掲載されてからから20年経った2016年に、再びWacher氏は“Zero to 50,000 – The 20th anniversary of Hospitalist”と題する特別記事を同誌に寄稿しています。彼は、ホスピタリスト制度の誕生と発展という変化(イノベーション)の成功の陰に、以下の3つの副作用があることに言及しています。
  1)外来と病棟の管理が分断される(このシステムのアキレス腱と表現)
   → 対策:急性期病院のホスピタリストに、病棟管理に加えて再入院リスクの高い患者に限定した外来管理も行ってもらったり(このようなホスピタリストは「Comprehensivistと呼ばれています)、急性期後の患者を受け入れるナーシングホームを巡回させる。
  2)専門医や臨床研究者が研修医教育から遠ざかる
   → 対策:ホスピタリストとの病棟回診チームに専門医も加わってもらう。
  3)ホスピタリストが学術活動から遠ざかる
   → 対策:ホスピタリストを対象に、基礎医学知識の更新講座や分子標的医療コンサルトサービスを提供したり、プロセス改善活動研究(例:トヨタの品質管理システムの医療への応用)への参加を促す。筆者の施設でも、ジョンズホプキンス大学の医療の質改善研究フェローシップにホスピタリストが参加しています。
 これらの考察も素晴らしいものであり、現状に満足しないで常にシステムと診療の質を改善して行くホスピタリストの姿勢を表しているのではないでしょうか。
▲2017 米国ホスピタリスト学会(ラスベガス)の会場入口(筆者撮影)
▲2017 米国ホスピタリスト学会での基調講演を行うWachter氏(筆者撮影)
● まとめ
1)米国ホスピタリストの黎明期は1990年前半から始まり、20年間で約5万人という集団にまで発展した。
2)ホスピタリスト発展の背景には、品質重視の医療改善(High value care)、医療安全への国民の注目、在院日数削減への病院努力、研修医教育のニーズ労働時間制限、外来から解放されることで実現されるシフト制勤務、病棟管理を医学生時代とレジデント時代に学んできたことでジェネラリストの裾野が広かったこと、などが挙げられる。
3)ホスピタリスト制度の影の部分も指摘されており、その改善に向け各地で努力がなされている。
*筆者は1週間単位での米国ホスピタリスト実務観察のシャドウイングを承っています。詳細希望の方はコメントを通してご連絡ください。
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