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宮田(野城)加菜

ブログについて

日本の医療、在米邦人の方々の医療に少しでもお役に立てるよう、情報を発信していきたいです。

宮田(野城)加菜

東京医科歯科大学医学部を卒業後、腎臓内科研修を開始。在沖縄米国海軍病院を経て2011年夏よりアメリカ、ニューヨークにて内科研修後、ロサンゼルスにて腎臓内科専門研修を行い、指導医となりました。

2012/01/31

「外泊」

最近、日本にいる私の祖母が大腿骨頚部骨折のため入院となりました。術後経過は良好で、日々リハビリを頑張っているとのことです。

先週末の母親からの連絡;「今日おばあちゃんが帰ってくるのよ。週末はリハビリもお休みだし、家でいろいろ書類仕事をしたいからって外泊を先生に頼んだみたい。」

ああ、「外泊」。ふと、その懐かしい響きに心が和みました。
日本での研修医時代、看護師さんたちから「先生、○○さんが週末外泊(外出)したいと言っています。良ければ外泊(外出)届にサインしてください。」という連絡を何度受けただろう。アメリカのようなオンコール体制がなかったあの頃、私たち研修医にとって、土曜日・日曜日は朝一通り回診をして、患者さんが安定していれば午後はお休み、処置や治療法の変更が必要であれば終わるまで仕事、という週末でした。今日は早く終わったと喜んで帰宅した途端「外出届にサインしに来てください」という電話を受けて病院に戻ることもあり。もうっ、まとめて書いてやるっ!と思い、20枚ほど外泊(外出)届にサインをして棚に入れておき、次回以降は看護師さんから電話連絡が来ると、その棚からサイン済みの紙を使ってもらうようお願いしたり。。。(真似してはいけません)

患者さんにとっては、家族と過ごすことが出来たり、どうしても済ませなくてはならない用事をすることができたり、退院前の練習として自分がどれほど自宅で動けるのかを確認したり。今考えると、患者さんに優しい制度だと思います。

私はアメリカに来て以来、同じ内科をやっているにも関わらず、外泊(外出)する人を見たことがありません。日本のような外泊届というものが存在するものか、病棟の棚を見てきたのですが、なし。そもそも、出かけられるほど元気な人は退院するべき、という概念が当たり前のものとして漂っているようです。病院全体で在院日数を出来る限り減らそうと努力し、土曜日も日曜日も病棟全体をカバーするオンコールインターン、オンコールレジデント、オンコールアテンディングが来て、お休みモードはなし、アクティブに治療を継続していく雰囲気です。すでに方針が決定し状態も安定している場合、例えばあと数週間の抗生剤点滴治療の継続が必要なだけという場合は、PICC lineを入れて、visiting nurseを手配して自宅で治療継続。それが出来なければ、SNF(Skilled Nurse Facility)、いわゆるリハビリ病院への転院。転院先も1日か2日で決まり、安定した患者は次々と退院していきますので、外泊(外出)する必要がないのです。

また別のアメリカらしい観点。どのフロアをローテーションしても、私の持ち患者さんのうち数人は何らかのドラッグ使用者です。そんな患者さんの一人が、ある日突然、自宅に荷物を取りに一度帰りたいと言ってきました。アテンディングの答えはもちろんNO。彼は家でドラッグをやって帰ってくるのだろう、と医師も看護師も同意見でした。少しくらい信頼してあげてもいいじゃない、などと言ってみましたが、まだカナは世間を知らないのね、と言われて終了。様々なバックグラウンドの人が集まった国ですから、まずは疑ってかかるというのも仕方ないのかなとも思います。「外泊(外出)」は、実は患者さんと医療者の信頼で成り立っていたのですね。

色々な意味で、「外泊」って優しいなと思った瞬間でした。日本も今後変わっていくのでしょう。

3件のコメント

  1. 確かに! 日本の小児科には外泊がたくさんありましたね。こちらには存在しません。外泊中はベッドはその患者さんに確保されているのですよね? アメリカではそれはありえません。ベッドを空けておいて週末を越すといつことは無駄以外のなんでもありません、退院させてまた入院させればいいだけのことでは?というのがこちらの常識でしょう。
    あと、こちらの大きな小児科病院には、企業の寄付による、病院併設ホテル、のようなものが直ぐ近くにあります。マクドナルドハウスがそのいい例です。移植後の患者さんなどは、退院後(上手く行けばオペ後1週間で退院)2-4週間はその併設ホテルで過ごします。そこから外来に週2ぐらいで通います。こういう施設が病院の近くにあれば、慢性期の患者さんが外来でマネージできますから、外泊とかしなくていいのでしょうね。

  2. 小児科入院中の「外泊」について、コメントさせてください。

    日本では、大学病院や小児病院など慢性の小児入院患者が多い専門施設の、外来や時間外救急のキャパシティが限られています。そのため、調子を崩して病院に戻ってくるかもしれない患者を、適切にトリアージしたりケアするのが物理的にもマンパワー的にも困難です。これが、入院ベッドが確保されていて安心な、「外泊」がポピュラーである大きな原因のひとつです。

    最近は、より多くの施設で、総合診療部や救急センターの充実が図られているので、以前より安心して一時退院させられるようになってきているのではないかと、勝手に想像しています。

  3. 外泊はおろか、外出もまずだめですよね。NYでレジデントをしている頃、患者さんが病棟から一旦無断で出た場合、戻ってきた際はERに行かせるよう指導を受けていました。薬物を使用して戻ってきて、万が一患者が病棟で亡くなったら問題になるからです。面会もかなり注意する必要があります。面会客が来た後、病室でヘロインを打ってぐったりしている患者さんを見た時はさすがに驚きました。極端な例かもしれませんが日本じゃとても想像もできないことがおこります。日本でも(次元が違います)、塩分制限のある患者が無断外出して、ラーメンと餃子を食べて帰ってきてところを怒ったこともありますが、ある意味、そんな元気のある患者は退院させるべきだったのだと思います。こちらではHoptelなるものが存在します。点滴治療が数日にわたって必要な人を、入院させるよりも、病院提携のホテルに泊めて通院させる方が安く上がるからです。これは私のいる病院のように100マイル以上離れた所からも通院する患者さんがいるところでは良くあることだと思います。

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