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(この記事は、2016年4月20日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)
診療の合間、いつ搾乳する?
夏に産まれた息子もあっという間に成長し、9カ月を迎えました。つまり私も仕事に復帰して7カ月です。よく日本の方には、勤務時間を短縮しているのか、仕事量は減らしているのか、などと聞かれますが、産後2カ月で復帰後の仕事内容は出産前と全く変わりません。ただ、母親としての自覚が常にありますので、仕事のスタイルは大きく変わりました。変わった点は主に、朝晩は夫と分担して保育園(もしくはベビーシッターさんの家)への送り迎えがあるため、帰る時間を気にするようになったこと、そのため集中して効率よく仕事をするよう努めていること。そして、1日2~3回、仕事の合間に搾乳するということです。母乳もしくは粉ミルクに特にこだわりはありませんが、母乳に越したことはないと思い、今のところ母乳育児ができています。今回は自分の経験を基に、アメリカでの仕事復帰後の母乳育児について、書いてみようと思います。
授乳の勉強は出産前に
まず初産の場合、出産する病院でlactation educatorによるbreast feeding classが開催されるならば、妊娠中に参加することをお勧めします。アメリカでは通常、出産後48時間で退院しますので、長く入院する日本と違って授乳方法を教わる機会はほとんどありません。私は妊娠後期に数十ドル払ってクラスに参加しましたが、それだけの価値はあったと思います。驚いたのは、ほとんどの参加者がカップルで参加していたこと。授乳するのはお母さんですが、それを支えるパートナーに理解がありサポートが大きいほど、母乳育児が長続きするというスタディー結果も出ているということで、2人での参加が推奨されていました。ここで学んだことは、母乳の利点、赤ちゃんの月齢ごとに飲むミルクの量と回数、おしっこの回数の確認、赤ちゃん人形での練習、事前に購入しておくべき物の紹介(母乳パッド、授乳ブラ、授乳まくら)、パートナーの役割、仕事への復帰方法(搾乳器の使い方と保存方法)など。2日にわたって学んだうち、一番役立ったのは最後の搾乳です。
最近はオバマケアのおかげで、通常は数百ドルかかる搾乳器が健康保険でカバーされるようになりました。私も自分の保険会社に電話で問い合わせてみたところ、丁度購入を検討していたメデラの電動搾乳器がカバーされるとわかり、注文して1週間ほどで無料で送られてきました。これが今のところ大活躍しています。この半年は毎日バッグに入れて、外来や病棟や透析センターなど、色々なところに持ち歩いています。
仕事復帰まで3Lを蓄える
以下、lactation educatorに教わった通りにやってみた、私の搾乳法を紹介します。
仕事に6~8週間で復帰する場合は、産後3週目から搾乳を始めます。赤ちゃんに直接あげる母乳に影響が出ないよう、授乳直後に1日2回ほど搾乳し、母乳袋に入れて搾乳日と量を記載し、冷凍庫に平らにして保存します。授乳後の搾乳なので、一度に1~2オンス(30~60cc)ほどしか取れませんが、めげずに毎日頑張ります。何袋かがたまったらまとめてジップロックに入れ、何日から何日の母乳が入っているかを表に書いておきます。搾乳した母乳は、室温で4時間、冷蔵庫で4日間、冷凍庫で4カ月もつと言われています。仕事復帰までに100オンス(3L)の母乳が冷凍庫に保管できていることが望ましいと聞き、私も産後8週までに目標を達成できました。赤ちゃんには生後1カ月間はボトルを使わず、直接授乳することが勧められていますが、保育園に行くまでにボトルにも慣れてもらわなくてはなりません。私は生後4週目から1週間に1~2回、母乳をボトルであげるようにしたところ、保育園への移行がスムーズにできました。ボトルを使うことで、父親も授乳に参加することができたのも良かったと思います。
仕事復帰後は、基本的に前日に搾乳した母乳を保育園に持参しますが、足りない場合は冷凍庫から古い順に解凍して使います。解凍は電子レンジは不可で、前夜に冷凍庫から冷蔵庫へ移しておくか、朝にボールに張ったぬるま湯の中に袋を入れて解かします。解凍後の母乳は24時間しかもちませんので、保育園の先生には解凍した母乳を最初に飲ませてくれるよう、お願いします。これで、赤ちゃんがその日に持参したボトルを全て飲まなくても、余るのは前日搾乳した母乳のみで、また翌日保育園に持って行くことができます。
カルテを書きながら、両側同時に搾乳
次に、仕事の合間の搾乳についてです。カリフォルニア州では、乳児を持つ母親が職場で搾乳する時間を与えられるべきであること、トイレ以外で搾乳できるプライベートな場所を雇用主が準備することが法律で定められています。私の病院にもLactation roomが2カ所あり、看護師、調理室やお掃除の方など様々な職種のお母さんたちが仕事の合間に利用しています。しかし、ときに緊急を要する仕事である医師はやはり特別で、法律で定められた権利を押し通すことはどうしても難しいと感じます。ほぼ毎日外来があり、その合間に入院患者を診て腎生検やカテーテル挿入などの手技を行う。かなり忙しく仕事しながら搾乳ができるのか、とても不安でした。仕事復帰の前日に最寄りのスターバックスで、すでに3児の母である内科レジデントにたまたま出会っていなければ、ここまで続けてこられなかったかもしれません。
「仕事中に1日2回でも搾乳できればいいかな。でも忙しくなったら、やっぱりできないかもしれない」とこぼす私に対して、「なんて弱気なこと言っているの! やると決めたらやらなくちゃ、だめ。最初の1~2カ月は3~4時間おき。その後は時間をあけてもいいけれど、1日2回は必ず時間を見つけてやるの!」と、強い口調で叱られてしまいました。病院内の冷蔵庫の場所、外来の合間のタイミングの見つけ方などヒントを教えてもらい、私もやってやろうと覚悟したものです。最初の1カ月間は、出産前と同じ仕事量をこなしながら搾乳する時間を稼ぐために、以前より30~40分早く出勤するようにしました。今では要領もわかってきて、カルテを書く時間をうまく使うことができるようになってきました。
幸いに透析ナースたちの配慮もあり、第2透析室が使われていない場合は私のプライベート搾乳室として使わせてもらっています。よって最上階にあるlactation roomに行く必要もなく、時間のロスがありません。外来でも、患者を数人まとめて診てしまい、電子カルテにまとめて記載する時間が私の搾乳時間です。両手を空けてカルテ書きができるよう、両側同時にできる電動搾乳機とそれを支えられるような下着は必須です。
以上、なかなか大変ですが、子供の健康のため、自分のカロリー消費のため、子供とのつながりがもたらす満足感を得るため、そして家計のためにもなる母乳育児、ぜひ挑戦してみてください。
さすが宮田(野城)先生! 臨床留学の傍ら、母乳育児について書いた本・ブログともに見たことがありません。女性の臨床留学者にとって日本語で初の貴重な情報でしょう。小児科医として興味深く拝見しました。後進のために貴重な情報源となるでしょうね。子育て大変ですが、お互いに頑張りましょうね! 私も苦労しながらついてきてくれている家内には頭が上がりません。
宮田先生のお話しを北原先生のYouTube できいて感激しエールを送りたくて書いていまづ。以前シアトルのハーバービュー病院でPSS として働いてたとき何人も女医さんが患者さんを診る合間に倉庫みたいなところにこもって母乳搾乳するのをみて
かわいそうなので同僚と2人でスタッフに壁ペンキ塗りしてもらって掃除して家具買ってて綺麗な絵を飾って素敵なインテリアデザインしました。すごく喜ばれました。先生のお話し聞きながら思い出してました。これからもお体気をつけて母として妻として医者としてご活躍ください。シアトルから応援しています。
かず子ロバートショーさん、コメントありがとうございます。素晴らしいプロジェクトをされたのですね!シアトルからコメントありがとうございます。