Skip to main content
宮下浩孝

ブログについて

腫瘍内科の歴史が長い米国での臨床トレーニングの体験をシェアすることで、医学生や若い医師が腫瘍内科に興味を持つきっかけになりたいです。

宮下浩孝

2017年東京大学医学部卒業。東京大学附属病院での2年間の臨床研修、ニューヨークのマウントサイナイベスイスラエルでの3年間の内科研修を経て、2022年7月からダートマス大学にて血液、腫瘍内科フェローシップを開始。 固形腫瘍に対する新たな治療の確立に貢献したいと考えています。

★おすすめ

9月の血液内科病棟での勤務を終了後、10月の前半は入院病棟での緩和ケアコンサルトチームに配属され、緩和ケアの実習を行いました。緩和医療は内科の専門領域の一部として確立しており、私が勤務するダートマス大学の病院では、緩和ケアのフェローシッププログラムに5名のフェローが在籍しています。彼らは緩和ケア外来、入院コンサルト、さらにはホスピスでの診療などをローテーションしていくのですが、血液/腫瘍内科のフェローも彼らに混ざって入院コンサルトチームの一員として診療にあたることになります。

 

緩和ケアコンサルトチーム

当院では主に3つの緩和ケアコンサルトチームが用意されており、うち二つが一般病棟からのコンサルトを、一つがICUからのコンサルトを担当します。各チームは基本的に、指導医一名、トレーニー(緩和ケアフェロー、血液/腫瘍内科のフェロー、内科レジデント、医学部生)1-2名からなっています。ひとチームあたり10人前後の患者さんを担当します。医師からなるチームとは別に看護師、ソーシャルワーカー、ケースワーカー、chaplain(聖職者、主にスピリチュアルケアを担当)が緩和ケア科に所属し、各チームと連絡を取りながら、必要なサービスを提供します。

病棟からの相談内容は多岐にわたりますが、Goal of Care Discussionといって、各患者さんの価値観や社会環境をもとに、最も良いと思われる治療を選択するための話し合いのファシリテートを依頼されることがよくあります。医療の現場は少なからず情報の不均衡(医療提供者と患者さんの間で医療の知識や経験に大きな差があること)が存在し、そのために、患者さんが自分自身で最善の選択をすることは難しいことがしばしばあります。医療を提供する主治医や担当チームが患者さんの価値観や状況を細かく把握し、患者さんとともに治療方針を決定していくことが望ましいですが、必ずしも患者さんが自分の価値観を明確に主治医に伝えられるとは限りません。患者さんの思いや価値観を引き出すことは一種の技術であり、アメリカの緩和ケア科ではその技術を体系的に教えています。私自身の内科研修、また、血液/腫瘍内科研修の経験からも、緩和ケアチームが話し合いに参加すると、非常にスムーズに話し合いが進んでいくように感じます。また、そのために患者さんや家族からの満足度も高くなっている印象があります。

その他の相談内容としては、疼痛、嘔気などの症状のコントロールであり、これもレクチャーを含めてとても体系的に学習できる環境があるように感じました。

 

 1日の流れ

主な一日の業務の流れとしては以下のようになります。

8:00 – 9:00 緩和ケア科の全職種でのミーティングを行います。入院コンサルトで見ている患者さん、外来の患者さんについて話し合います。また、学びの多かった症例やホスピスで亡くなった患者さんに関する振り返りが行われます。

9:00 – 10:00 入院コンサルトの3チームでのミーティングで新規コンサルトの割り振り、対応の相談などを行います。

10:00 – 13:00 各チームに分かれ、前日からの電子カルテや検査データのチェックを行ったのち、回診を行います。指導医はまずはトレーニーに患者さんと話すように指導し、必要に応じて付け足しなどを行います。医療面接も重要なスキルの一つであり、一人一人の患者さんと話し終わるたびに病室から出て、患者さんとの受け答えの中でよかった点や改善点を振り返ります。

13:00 – 17:00 入院コンサルトの3チームで再びミーティングを行い、午前中に新たに依頼されたコンサルトの割り振りを行ったのち、回診の続きを行います。

 

私は2人の指導医と働きましたがどちらの先生も非常に教育熱心で、緩和ケアフェローでない私に対してもなるべく最大限のスキルが身に着くように指導してくださりました。Goal of Care Discussionをリードする役割を担当させていただいたり、非常に実践的な研修をさせていただきました。これらのスキルは悪性腫瘍を持つ患者さんの診療にあたる際に必要不可欠なスキルであり、とても有意義な研修になったように思います。

 

10月の後半はリサーチの期間として、データベースを用いたゲノムと腫瘍免疫に関する研究と、免疫治療のターゲットに関する橋渡し研究を開始しました。臨床研修の傍ら、これらの研究も進めていきたいと思います。11月は脳神経腫瘍科の外来を担当します。脳腫瘍は腫瘍内科の医師だけでなく、神経内科の医師が診療することも多く、使用する薬剤も独特なため、特別な研修期間が設けられています。今後とも研修の体験を記していきたいと思います。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。


バックナンバー