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最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田 篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

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2017/06/01

ミネソタとシカゴのはざまで

(この記事は、2015年10月20日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)

その20代の黒人女性は、HIV関連腎症で透析を受けていたが、急に透析センターに来なくなった。ところが、最近救急室に現れ、高血圧緊急症と尿毒症で入院した。

聞くと、昨年彼氏と別れて住む場所がなくなり、ミネソタを離れて生まれ故郷のシカゴに戻っていたようだ。透析はきちんと受けていた、と言う。本来、透析拠点を移す際には、事前にセンター間で治療情報を引き継がなくてはならない。しかし、彼女は一切連絡をせず、こちらも彼女の所在を把握していなかった。

彼女はシカゴでまず、幾つかの透析センターに赴いたらしい。すると、新規で透析を始めるには入院するしかない、と言われたようだ。そのため、具合が悪くなってから救急室を訪れて入院し、新たな透析センターをあてがわれて退院した。保険は州政府管掌のメディケイドで、医療費はタダ。シカゴからこちらへ連絡が来たことはなかった。

市街地の治安が良くない地域の生まれで、家族との仲も元々良くない。実家に間借りしていたが、家賃として生活保護費の半分を渡すよう言われるなど結局うまくいかず、友人を頼って片道切符のバスでミネソタに帰ってきた。もうシカゴに戻る気はないと言う。そして、以前の経験から、今回も悪くなるまで待って、救急室を経て入院すれば、また透析を始められると考えた。透析拠点を移す際には「センターに事前に連絡するなんて知らなかった」と彼女。しかし、メディケイドは州ごとの管轄で、シカゴのあるイリノイ州の保険はミネソタ州では使えない。だから、すぐに外来で透析を続けるのは極めて難しかった。

彼女の行為を“コンプライアンス不良”と呼び、制度の乱用と考えるのは簡単だ。だけど、それは正しいのか。貧困の家庭に生まれた社会的マイノリティー。学校教育も十全に受けていない。そして複雑怪奇な医療システム。周りの友人は、医者にかかると言えば救急室のことだと思っている。それが一番簡単だし、すぐ診てもらえる可能性が最も高いからだ。

こうなったのは自己責任だし、そんな自分勝手は許されない。バスの切符を渡し、シカゴに戻ってもらうべき、と考えるか。もしくは、確かに彼女にも責任の一端はあるだろうけど、自分も同じ境遇だったらどうしたか分からない。どこまでも彼女に寄り添うべき、と考えるか。少なくとも僕は、後者であり続けたい。

幸いなことに彼女は、ミネソタで透析を続けられることになった。僕は彼女と、病室でハイタッチをしてお祝いした。

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