4月2日は、World Autism Awareness Dayです。たくさんのニュースで取り上げられていたのでご存知の方も多いと思いますが、つい先日、Centers for Disease Control and Preventionから68人に一人が自閉症と診断されているという発表がありました 。ニュージャージ州にいたっては45人に一人という結果だそうです。自閉症に関するさまざまな分野での研究が行われているにもかかわらず増え続けているというのは、本当に残念です。
さて、音楽療法と自閉症は比較的ふかいお付き合いがあり、一般的に「自閉症を持っている子供たちは音楽が好きだ」と言われています。実際、私の個人クライエントの80%は自閉症と診断された子供たちです。ただ、全員が『好き』というのは少し違って、自閉症をもっている子供たちの中にも音楽が特別大好きな子供と、そうでもない子供たちがいます。一般人口の中でも特に音楽に長けた人たちと、あまり興味のない人がいるのと一緒ですね。
自閉症と診断された2歳10ヶ月のV君は、私のクライエントの中でも特に音楽がだーーーーーい好きな一人です。言語の習得をメインにセッションを行っているのですが、V君のセッションは「音」があるのとないので子供の反応に大きな差が出る典型的な一例です。
受容的言語力(Receptive Language Skills) はあるのに、自発的な発語、言語の反復練習が苦手なV君。まずは、スピーチセラピスト(SLP)と一緒にターゲットワードを絞ります。たとえばその日のターゲットワードを体のパーツ(head, shoulder, knees, feet etc)に絞るとすると、その言葉を使ってシンプルな曲を作ります。実際に、私がV君用に作った曲の歌詞が↓。
I want to play, play, play it on my head (shoulder, knees, feet etc) x3
I want to play it all day long on my head (shoulder, knees, feet etc)
発語がままならないV君用は限りなくシンプルで、なるべくキーワード(I, want, head, shoulder, knees, feet)のみを使い、繰り返しが多くなっています。
一度目はタンバリンを使い、私が歌いながらhead, shoulder, kneesとタンバリンを移動させていきます。二度目からは、ターゲットワードの手前で歌うのをやめ、V君にターゲットワードを歌ってもらいます。ただの文章だと、何の反応を示さないV君ですが、歌にしたとたんスラスラとターゲットワードを発語してくれます。不思議です(笑)。
一通りターゲットワードを練習した後は、同じ曲を使い「I want」の練習に移ります。手法はターゲットワードと同じです。何度かこの工程を繰り返した後、徐々に歌ではなく通常の会話のトーンに戻していきます。
4ヶ月前にはじめてであったときには、一言も発語がなかったV君ですが、もともと受容的言語力が高かったことも手伝って、いまでは「I want (green) (shaker), please」や「I see (yellow) (duck)」なんていうセンテンスまでスラスラ使いこなせるようになりました。子供の成長は本当に早いですね:)
P.S. 1歳半の時点でV君は自閉症と診断されました。今となってはSensory Dysfunction Disorderのほうが妥当な気がしますが、早めの診断が早期療法を始めるきっかけになったのでよかったと思います。
アメリカでは自閉症治療も非常に系統だっているのですね。大変勉強になりました。最近、自閉症のお子さんの話をよく耳にするのですが、家族は社会的なサポートや経済的な補助は受けられるのでしょうか。私の患者さんの中に「私はもうこの子を育てるのに疲れた」と言っているお母さんがいたものですからちょっと気になりました。
齋藤先生
コメントありがとうございます。
社会的サポート、経済的サポートは受けることができますが州ごと、保険会社によってその度合いは変わってきます。カルフォルニア洲は、受けられるサポートが比較的多いと言われている州の一つです。国からのサポートが一番受けられるパターンはMedicaidに加入できた場合ですが、収入などのの制限があるので実際にそのサービスを利用できる人は少ないと思います。Medicaidに加入した場合、医療費をはじめ、各種セラピー、必要があれば家庭でのPersonal Careサービスなどを無料でうけることができます。
親御さんのストレスを少しでも軽減するという意味では、コミュニティー内のサポートグループは無料なものがほとんどです。また、実費でお手伝いさんを時給8〜10ドル前後で雇っている家族もあります。もしも、そのお子さんのある言動が原因でストレスになっているのであれば、その言動改善の「セラピー」が必要ですし、親御さんが「なぜうちの子だけ?」という思いがあるのならば親御さんのカウンセリングが必要になってきます。「疲れた」と感じている背後に何が隠れているかによって処方は違ってきますが、その方が「楽しい」と感じられる瞬間が少しづつでも増えていくといいですね。
長々と、すみません 🙁
お返事ありがとうございました。またまた大変勉強になりました。アメリカできちんとした自閉症治療のプログラムを受けられる子供たちは本当に幸せですね。
私の患者さんは、幸か不幸か、Medicaid(ちなみに、カリフォルニア州のMedicaidはMedi-Calと呼ばれます。”ヵ”の部分にアクセントがあります)に加入しなくてはならないほど低所得ではありません。でも、自分で治療費を捻出できるほど豊かでもない。収入が無い人ほど、手厚い保護を受けられるという状況には矛盾も感じますが、これはアメリカならどこでも見受けられる「社会現象」ですね。私個人としては、この(ときには過剰な)弱者救済の精神は、アメリカ建国の理念がキリスト教に基づいているためと分析しています(理屈っぽくて済みません。妻にはいつも文句を言われます)。
しかし、せっかくこれだけ系統だった自閉症の治療プログラムがありがながら、利用できる人が、非常に貧乏な人か、もうしくは、お金持ちに限られるというのは、なんとも残念な話です。
キリスト教とは考えたこともありませんでしたが、確かにそうかもしれませんね!
民間保険の場合、自閉症に対するカバーはするものの制限があることが多いようです。また、たくさんの子供達がとっているGlutathioneやB12は完全に実費ですし、私立の自閉症専門の幼稚園や学校の相場は年間$20,000〜$40,000です(⬅補助金が出る場合もありますが)。先生のおっしゃる通り、たくさんの治療オプションがあるのにもかかわらずアクセスで少ないのは本当に残念なことです。