(この記事は、2018年12月17日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)
前回の記事「米国ホスピタリストの黎明期とRobert Wachter氏」では、ホスピタリストの増加の一因となった勤務体制について少し触れました。今回は、その詳細を紹介したいと思います。
ホスピタリストの働き方の多様性
ホスピタリストは、病院内で急性疾患の入院管理を一手に引き受ける総合内科医のことです。私がホスピタリストとして勤務している米国ハワイ州のクイーンズメディカルセンターでは、約500床のうち約350床を総合内科で管理しています。専門科で病棟を持つのは、集中治療科、産婦人科と、循環器科や腫瘍内科の予定入院(TAVIなどの予定経皮的カテーテル手術例や白血病の地固め療法例など)に限られます。
病棟割りは主に看護ケアの内容で決まっており、5階は神経内科疾患、6階は循環器疾患、7階は腫瘍内科疾患、9階は呼吸器疾患などと割り振られているため、ホスピタリストとしては院内どこにでも足を運びます。行かないのは3階の手術室と10階の産婦人科病棟くらいでしょうか。
そして当院には、病院に雇われたホスピタリストグループ(筆者が所属)と、個人運営のホスピタリストグループの2つが共存しています。どのように患者が割り振られるかは入院依頼をする救急医の判断によりますが、基本的に外科手術が関係するのは私の所属していない方のグループが多いようです。
当ホスピタリストグループでは、日勤20人、夜勤3人が毎日出勤してきます。
クイーンズメディカルセンターでのホスピタリストの働き方
1. 教育指導医のホスピタリスト
20人のうちの4人は、教育指導医としてレジデントチームを率います。彼らはハワイ大学の審査を受けて指導医資格を維持していなければなりません。
指導医ホスピタリストの勤務体制は他のホスピタリストとは違い、2週間勤務/2週間休暇を1サイクルとします。1週間ごとに交代していては、レジデントの評価がしにくいからです。
指導医が2週間、連続勤務することで、週末にレジデントチームが全員休みを取ることが可能になります。レジデントたちが休みの時には、指導医が1人で回診をして退院を調整します。
2. 病棟回診専属のホスピタリスト(General:7-on / 7-off)
20人のうちの9人はGeneral hospitalistと称して、個人で病棟患者を持ちます。なるべく同一フロアの患者を担当するように割り当てられますが、9人の仕事量を均一にするために担当患者数を揃えることが優先されるため、結局はいろんなフロアの様々な入院疾病を担当します。
図1 ホスピタリストの勤務体制 「7-on / 7-off」という勤務スケジュールを42%の施設が採用している。 (出典:2012 State of Hospital Report)勤務体制の基本は、1日12時間のシフト勤務を連続7日間行った後に7日間休暇というスケジュールです。これは”seven on, seven off(7-on / 7-off)”と呼ばれます。「2012 State of hospital report」という全米調査(図1)によると、42%の施設でこのスケジュールを採用しているという結果でした。
1日の過ごし方としては、朝7時に出勤し、平均して10~15人の患者を毎日担当します。基本が12時間シフトなので、夜の7時までは病棟からのコールには対応するのですが、病棟仕事が終わってさえいれば午後4時頃には帰宅してもよいシステムになっています。こうした働き方は、自宅からも電子カルテにアクセスしてオーダーやカルテ記載ができることと、急な入院は後述する他のシフトの医師に受け持ってもらえることで可能になりました。
1週間に1回だけ、夜7時まで院内待機の日が持ち回りであります。その時には病棟急変や他院からの転院搬送などを、同僚を代表して受け持ちます。集中治療室(ICU)から一般病棟へと転出してくる患者や、外来からの紹介入院を担当するのも仕事です。
3. 入院担当専属のホスピタリスト(Swing)
では、救急室(ER)からの新規入院はどうするのでしょうか?
20人のうちの3人はSwing shiftと呼ばれ、ERからの入院コンサルトだけをずっと担当します。そうです、ひたすら新規患者の入院病歴をとり、入院指示を入れます。そうして入院した患者を翌朝まで管理できるように病棟指示を出して、翌朝に上記の病棟回診専属のホスピタリストに引き継ぎます。
Swing shiftという呼び名は、その独特な勤務体制に由来しています。主に午後から夜の時間帯をカバーする10時間シフト(午前10時~夜8時、昼12時~夜10時、午後1時~夜11時)が組まれていて、その間に大体4~7名の入院を担当します。仕事効率が良く、救急医との相性の良いホスピタリストが適任ですね。このシフトも1週間連続勤務をしたのちに、1週間休暇を取ります。
このシフトは、病棟回診専属のホスピタリストにもたまに回ってきます。しばしの間、退院調整やソーシャルワークから解放されるため、いい気分転換にはなるのですが、いつ来るか分からない仕事を待つ不測性や入院依頼が一度に重なった時の仕事量のスパイクを考えると、私は自分のペースでできる病棟回診が好きです。
4. 整形外科病棟専属のホスピタリスト(OCM)
20人のうちの2人は、整形外科からのコンサルトを専属に担当します。これはOrthopedic co-management(OCM)と呼ばれるシステムで、当院だけでなく全米でも取り入れられているシステムのようです。
整形外科病棟に入院してくるのは骨折した高齢者が多く、併存内科疾患が多いだけでなく、フレイル、転倒、せん妄、術後合併症、抗凝固薬を含むポリファーマシーなどのリスクの宝庫です。手術室にいることが多い整形外科医が呼ばれて対応が遅れるよりは、アクセスの良いホスピタリストが入院主治医になった方が、病院と患者の双方にとってメリットが大きいのです。
ここでも内科レジデンシー中に周術期管理を学んだことが役に立ちますが、個人的には筆者は日本の初期研修中に履修した整形外科ローテーションが役に立ちました。
股関節や膝関節の置換術などの予定手術であっても、術後の回復室に出てきたところで総合内科にコンサルトの電話がきます。そこで、OCMのホスピタリストが回復室まで行って患者と対面し、病棟指示を入れます。
最初はあまりやりがいを感じるシフトではありませんでしたが、高齢者のケアには内科医が向いていることを実感すると、これも非常に重要な業務と感じるようになりました。
5. 長期入院者専属のホスピタリスト(LTC)
20人のうち1人はLong term care(LTC)と呼ばれ、長期入院者のみを担当します。
在院日数の短い米国では、急性期加療がひと段落すれば外来治療もしくはSkilled Nursing facility(SNF)と呼ばれるナーシングホームで継続加療をすることが多いです。特に、骨髄炎の抗生剤治療や壊死性筋膜炎の外科手術後の創部管理などで医学的に長期管理が必要なケースでもSNFは対応できます。
しかし、社会的・経済的な事情(医療保険がない、自宅がない、在宅の抗生剤投与が保険でカバーされない、外来通院加療の指示を適切に理解できる認知機能に乏しいなど)により急性期の後の行き場が見つからない場合には、病院での長期入院を余儀なくされることがあります。
そこで、そのような緊急性の低い患者はLTCのホスピタリストが代表して担当することで、他のホスピタリストは急性期に集中できます。緊急性が低い分、LTCが担当する数は多くても大丈夫であり、20~25名ほどを受け持ちます。
LTCのホスピタリストは老年医学のトレーニングを修了した者が適任であり、ソーシャルワーカー、リハビリ、ケースマネジャーなどと密に連携して継続的にチーム医療を実践できるスキルが求められます。
私もこのシフトを何度か経験しました。時間的な忙しさはないのですが、退院したくてもできないもどかしさや違法薬物中毒、ホームレスなどの社会的問題を抱えた個性の強い患者を大勢担当する心理的な負担は感じました。そういった点で、他のホスピタリストのやりたがらない部分を引き受けてくれる重要なシフトだと思います。
6. 夜間専属のホスピタリスト(Nocturnist)
ここまで紹介してきたシフトは、全て日勤帯の勤務です。では夜はどうするのか。
ホスピタリストの数が少ない施設では、日勤のホスピタリストが継続して自宅でも病棟のコールを受ける場合があります。これは日本の主治医制度に近いですね。当院では幸いにも夜間専属のホスピタリスト(毎晩3~4人)を採用しているので、日勤帯の人達は午後7時以降の病棟コールや入院からは解放されます。
夜間専属のホスピタリストは日勤帯のホスピタリストと同じ給与をもらいますが、休暇の割合が多いのが特徴です。
勤務は午後7時から朝7時までの12時間シフトで、基本的に3日間連続夜勤をした後は、5日間休みます。つまりは月の3分の1の出勤でいいのです。
当院では救急が忙しく、夜間入院を3人だけで対応するのは難しいので、前述3. の入院担当専属ホスピタリスト(Swing)が夜の10~12時まで残っているようにシフトが組まれています。
7. その他の勤務体制(当院不採用)
■Hospital Admission Liaison
救急外来に常駐して、病棟入院のコンサルトをまず聞いてトリアージをする役割です。救急外来からの入院依頼が特定の時間帯(多くは救急医のシフト交代時)に集中することがあるため、入院指示待ちの間にも内科的に必要な検査や加療がきちんと開始されているかをチェックしながら、同僚にバランスよく入院指示を配分していくのが仕事です。このホスピタリスト自身は入院指示を入れませんが、仕事が立て込んできたら手伝う事もあります。
■Surgical co-management
上述4. の整形外科コンサルト専門シフト(OCM)と同様に、腹部や胸部外科手術の周術期を主な業務とするシフトです。
休暇はどうするのか?
教育指導医以外の日勤のホスピタリストは、7-on / 7-offという勤務体制で隔週の休暇が確保されているので、特別に夏休みや冬休みなどのホリデー休暇はありません。お互いにシフトを交換することで2~3週間の休暇が作り出せるので、家族の行事、旅行、学会などにフレキシブルに対応できるのが利点です。ただし、長期に休みを取ると前後にしわ寄せが来て、連続勤務になるのを覚悟しなければなりません。
私は夏の家族旅行(日本への一時帰国)のために3週間の休暇を調整したことが何度かありますが、その後に3週間の連続勤務をした際に軽く燃え尽き症候群のような症状を自覚したのを覚えています。1週間が濃密である分、休暇を挟むことで燃え尽きを防ぐことも、この独特な勤務体制の目的にあるような気がします。
総括:ホスピタリストの勤務体制に問題はあるのか?
だいぶややこしい記述になってしまいましたが、豊富なマンパワーと役割分業で大量の仕事量をこなしつつ、燃え尽きを防ぐ工夫はわかっていただけましたか?Generalシフトの人は通年同じパターンで勤務しますが、場合によってはSwingシフトをしたり、OCMをしたりできるのは、各人の能力にさほど差がないからだと思います。ただし、各施設の規模と人事部門の意向で運用などに差はあるので、あくまでも筆者の施設の例としてご理解ください。
最後に、この勤務体制の問題点を幾つか挙げたいと思います。
(1)収入と勤務時間が固定される
皆が同じ1週間勤務、1週間休暇でやっていると、不公平をなくすために勤務時間と担当患者数は均一にしようと努力されます。すると、たくさん働いてもっと収入を増やしたい人や、逆に育児や学術活動のために実働時間を減らしたい人に不満が生じます。
これを解消するために、勤務体制の希望が似た人たちでチームを組み、14日間交代や5日間交代、勤務期間が休暇期間より長いシフトなどと、フレキシブルに対応する施設もあると聞きます。この場合は、グループ内のホスピタリスト間で勤務時間に差が生じる可能性が出て来るので、その場合は給与を担当患者数や重症度によって差が出る売り上げ(relative value unit: RVU)に応じて調整します。
(2)仕事効率の差が顕著に出る
上記(1)と似た理由ですが、勤務日数と患者数を各ホスピタリスト間で均一にしようとすると、前日にたくさん退院させたホスピタリストには、翌朝たくさんの患者が割り当てられることになります。これらの患者が軽症であれば、さらに回転が早くなり、総じて仕事量が多くなることになります。これは担当する患者の治療疾患や併発症にも左右されますが、仕事効率が良くてどんどん退院させる人ほど忙しくなって、不公平が生じる可能性もあります。
ここでもやはり、仕事量(RVU)に応じて上乗せされる歩合給が必要になってきますね。
ホスピタリストの給与体系については、別項で改めて紹介したいと思います。
今後の動き
7-on / 7-offという勤務体制は当初、救急医のシフトを基に考案され普及しました。2016年の統計では48%の施設でまだ採用されていますが、所属ホスピタリストが10人以下の施設だけで分析すると、月~金を基本の勤務サイクルとして週末を交代でカバーし合うモデルを採用している施設の割合が2012年の3%から2016年は50%へと増えていました。
所属人数の多い施設だからこそ成り立つ7-on / 7-offですが、子どもの学校が休みで家族行事が多い週末を家で過ごしたい、家庭持ちのホスピタリストには不人気です。そのことが、7-on / 7-offが減ってきた要因の1つと思います。
【参考サイト】
・Scheduling patterns in hospital medicine:最近のホスピタリスト勤務体制の動向をまとめたブログ記事(2017年10月)