世間はクリスマス気分が高まってまいりました。私は去年のクリスマスに、サンタクロースから思いもかけない本のプレゼントを貰いました。その本の題名はCutting for Stone。エチオピアに生まれた双子兄弟の話で、二人は生後すぐに母親を失い、外科医の父親は蒸発。二人は産まれた医院に働く医師夫婦に育てられ、兄は医学を志してアメリカに渡り外科医のトレーニングを積み、弟はエチオピアに残って育ての産婦人科医の母親を手伝いながら暮らしていたところ、ある幼馴染の女性が元で兄弟と父親は運命的な再会を果たすという。ストーリーのスケールがとても大きく、特に終盤の展開はとても読み応えがありました。この本はNY Timesなど色々な所で評判になってベストセラーになったらしく、先日乗った飛行機の中や空港で同じ本を読んでいる人に何人も出会いました。医療現場の描写も多いですが、一般向けに書かれている小説ですので、英語の長編小説を探している方にはお勧めです。(残念ながら日本語訳本ありません。)
実はこの本、私の病院のAttending Physician(指導医)の一人によって書かれたのです(妻はそういう事情は全く知らないで買ってきたとのこと)。彼の名はDr. Abraham Verghese。エチオピア生まれ育ったインド人で、インドで医学教育を受け、後にアメリカに渡って内科・感染症の研修を終了し、その後アイオワ大学でWriting Workshopに参加し、作家として活動しながら医師として活動しています。そんな彼が2009年に発表した最初の長編小説がこの本なのでした。彼は2007年からスタンフォードに赴任してきたのですが、契約条件に1週間に1度完全に篭り切って小説を書く時間を貰う、という事項があったという話をしていたのを覚えています。
Dr. Vergheseは身体診察とベッドサイドでの医学教育をとても重要視しながら学生・研修医の教育に力を入れています。ちょっとした有名人の彼は、今年7月のTEDカンファレンスに呼ばれ、高度技術と情報化社会に支えられている現在の医療の中で、最も基本的なhuman touchによる身体診察がいかに重要であるかを熱く語っていました(このトークの冒頭で例に出ていた患者さんはICUに運ばれた時に私が担当していました)。彼が数ヶ月前まで内科研修プログラムのプログラムディレクターをしていた時に作られたウェブサイトにStanford 25というものがあります。これは身体診察のエキスパートである彼がスタンフォードのレジデントに「最低限身につけてほしいphysical exam」を25個選んで詳しく解説したものです。多くが動画付きで説明されているので、ぜひ一度ご覧になってください。
すごい人がプログラムディレクターだったんですね。このTed Talk、たまたま知り合いが勧めてくれて観ていました。すごくInspiringですよね。身体診察の重要性、本当に忘れがちだと再認識させられます。
私は最初彼がTEDに出るというのを聞いて、身体診察のエキスパートがテクノロジーのカンファレンスでいったい何を喋るんだろうと思ったのですが、こういう時代からこそ忘れないようにしないといけない姿勢ですね。