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内田舞

ブログについて

Harvard・MGHの小児精神科医。YaleとMGHでの研修を終え、ボストンで臨床も研究も頑張っております。

内田舞

2007年北海道大学医学部卒。在学中にYale大学精神科のレジデンシーにマッチし、卒後すぐに渡米。Yaleでの精神科研修、Harvardマサチューセッツ総合病院(MGH)での小児精神科フェローを修了し、2013年よりハーバードMGHのアテンディング・助教。学生時代より朝日新聞、International Herald Tribune、医学界新聞などに医学関連のオピニオンを執筆。特技はフラメンコ、スキー、スケート、絵画。

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MGH小児精神科の研修中に、医師としてどのようにしてメディアと接するべきかという講義シリーズがありました。「自分の専門分野に関して一般の人たちにわかってもらうように説明するという役割は、医師としての重要な義務の一つ。」というモットーの下でのセミナーでした。

確かに、とくに精神科に関しては、アメリカでも偏見が強く、「鬱病なんて気の持ちようだ」とか「ADHD(注意欠陥・多動性障害)の薬を飲むと薬物依存になるからADHDと診断されてても薬は飲まない方がいい」などと、全くエビデンスと異なる個人の“意見”が記事になり、精神疾患や薬についての間違った情報が報道されてしまうことが多々あります。(実際には、重症な鬱病はやはり生物学的な脳の病気なので、気の持ちようというわけにはいきませんし、ADHDと実際に診断された人で治療薬を飲む人と飲まない人では、治療薬を飲まない人の方が薬物依存率が高いです。)間違った情報により、より一層精神科への偏見が強まってしまっているのではないかと思います。

だからこそ、専門家として正しい情報を広く伝える機会があるときには、その機会をしっかり利用したいものですね。

フェローシップ中の講義では、以下のポイントが大事と言われました。

1)準備する。疾患の有病率、薬の効果率などの統計や、バックグラウンドは前持って調べておく。
2)取材記者の過去の仕事を検索し、その人は公平な人かを調べる。記者の過去の仕事が、エビデンスに反する内容だったり、偏見の強い口調で書かれたものだった場合、取材は断ってもよい。
3)ニュースになったような人でも、自分が診ていない患者さんのことは報道された情報だけで予想や想像し、診断してはだめ。
4)症例や具体的エピソードを入れるとよい。(守秘義務に注意。)
5)主張したいポイントは1つか2つに絞って、その点が伝わるように、短いフレーズで何度もリピートする。
6)もし、記者に誘導され、自分の意見とは違うことを言わされそうになったら、一息ついて、主張したいポイントの短いフレーズに戻る。

 

そんなアドバイスを頭に入れて、実際に私が取材を受けた記事をいつくか紹介します。

一つ目は、高校生の自殺のニュースでの取材。自殺の背景にある脳科学に関するBoston Globeの記事です。この取材では、自殺も「ほかの病死と同じように、生物科学的な病気の原因解明や予防が重要」という主張をメインに話しました。自殺の背景に、生物学的な病気があるという主張を強調するために、私がリードしているMGH(マサチューセッツ総合病院)とMIT(マサチューセッツ工科大学)の共同研究で、鬱病や躁うつ病に関係する脳の機能の研究内容を紹介しました。

Teen’s brains make them more vulnerable to suicide
by Jan Brogan

 

二つ目は、東日本大震災以降の福島県民の精神状態に関するABC Newsの記事。この取材では、日本以外の国では既に忘れられてしまっている東日本大震災に関して、未だに現地の方々は苦しい現実と向き合っているということを話しました。とくに、この記事に関しては、取材を受けた精神科医たちの中で、日本人は私だけだったので、理論的なことを言うのではなく、日本人の精神科医として、パーソナルな内容になるように話すことを注意しました。

Shunned Japanese Fukushima Plant Workers Face Emotional Toll
by Tiffany Chao & Shari Barnett

 

やはり専門家として、正しい情報を様々な方に伝える機会があるときには、その機会を大切に利用したいものですね。

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