(この記事は、『アメリカでお医者さんにかかるときの本』の内容を一部抜粋・修正して掲載しています。書籍の概要は保健同人社、Amazonでご確認ください。)
良くも悪くも医師まかせ、医療機関まかせなのが日本。アメリカでは医師と患者は対等でビジネスライクな関係です。日米の診療の違いについて、知っておいた方がいい点を挙げてみます。
・無断キャンセルや遅刻は厳禁
日米の医療における最大の違いは、医師と患者さんの関係、および患者さんの権利と責任のあり方にあると思います。日本の医療は、近年変化が見られるとはいえ、良くも悪くも「医師まかせ」「医療機関まかせ」です。医療保険は国が用意し、患者さんは保険の種類や内容を選ぶ必要がありません。医療保険はどこでも使えるので、患者さんは保険受け入れに基づいて医療機関を選ぶ必要もありません。また、保険が適応される範囲や料金も一律で決まっているので、どの検査や治療を行うか、加入している保険の種類によって影響されることもありません。どんな医療行為を適応するのかといった決定は、医師に一任される傾向があります。それにともない、結果に応じた責任(少なくとも責任感)を患者さんが負うことはまれです。
一方、アメリカでは、医師と患者さんは対等な関係にあると考えたほうがよいと思います。医療は、医療というサービスを提供する“ ビジネス”と考える傾向が強いのです。医師の労働には対価を支払う必要があり、その料金も診察にかかった時間に応じて上下します。その結果、他の多くのビジネスにあてはまる“ 社会の一般常識” が医療の世界にもあてはめられることになります。
具体的には、診察には予約が必要であり、予約の時間を守らないと診てもらえません。もちろん診療に遅れた場合でもできるだけ診ようとしてくれますが、多くのクリニックには独自の規定があり、「○分以上の遅れの場合、診ることはできません」と明示されているところもあります。どんな理由であろうと診察に遅刻するのは患者さんの責任であり、必要があれば前日に電話して予約をキャンセルするなど、事前の対応が必要です。「○回以上予約時間に遅刻、もしくは無断キャンセルした場合、それ以降予約を取ることはできません」などと、繰り返し予約を守らない人の診察を断ることもあります。日本と違い、外来診療では応召義務(すべての患者さんを診なければいけない医師の義務)がありませんので、注意が必要です。
・問題が起きたら自分自身で解決を
また、いろいろな局面で問題が起こった際、患者さん自身が解決しなければならないことが多いのもアメリカ医療の特徴です。たとえば、保険に加入しているにもかかわらず、特定の医療行為に対して保険が利かないことがあります。保険が利かない理由によっては、クリニックが保険会社と連絡を取って解決を図ってくれますが、保険会社や患者自身に何らかの落ち度がある場合には、患者自らが問題を解決することが求められます。
一例をあげましょう。腹痛で医療機関にかかって胃カメラを受けたとします。胃カメラを受けたのには正当な理由があったのですが、何らかの情報の行き違いにより、保険会社の審査で「医学的な適応なし」と判断され、保険がおりなかったとします。すると、数千ドルもする胃カメラの請求書が、医療機関から患者本人に送られてきます。この場合、情報の行き違いについて患者さん側に落ち度があるかどうかは関係なく、患者自身が医療機関、もしくは保険会社と連絡を取り、問題の解決を図る必要があります。その間、医療機関には支払いを待ってもらうよう伝えなければいけません。解決に向かって自分が動かないと、クリニックからの高い請求書がそのままになり、いずれは自分で全額を支払わざるをえなくなってしまいます。アメリカで問題が生じた際、待っていても何も解決しないということは肝に銘じておいたほうがよいでしょう。
アメリカにはさまざまな保険があり、医療機関でさえすべての保険商品を完全に把握することは困難です。保険によってカバーされる医療行為や薬剤が異なり、その料金もまちまちです。したがって、医師にかかった際には、すすめられた検査や治療が保険でカバーされるかどうかを確認することは非常に重要です。場合によっては自己負担率が高く設定されており、保険が利いても料金が高いこともあります。処方された薬に保険が利くか、自己負担がいくらになるかは、処方箋をもらってから薬局で聞くとよいでしょう。もし自己負担額が高すぎるようであれば、違う薬を処方できないかクリニックに電話して相談することができます。検査や治療に関しては、クリニックの受付にいるスタッフが知っているか、調べてくれることが多いでしょう。実際に検査や治療を受ける前に、自己負担額がいくらになるかを確認しておくことはきわめて重要です。
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