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アメリカで心と体の健康を守るために知っておきたい、ちょっと小耳にいい話。アメリカの複雑な健康保険のシステムとその制限されるサービスとは。心の病気とその治療法とは。薬物依存症の症状とその治療法とは。メディカル・ソーシャルワーカーから見た、アメリカで驚きの医療とメンタルヘルスの現場を生レポートします。

ファーマー 容子

報道記者&ラジオ番組制作を経て、New York University Master of Social Workを取得。Bellevue Hospital勤務後、ワシントンDCへ。George Washington University Hospital勤務。現在、NY州ロチェスターで育休中。

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2018/03/22

米国のソーシャルワーカーの仕事【前編】 社会的弱者をどう守るか「ジレンマの日々」

(この記事は2018年2月22日に 活動的な高度な自律的なナースのための情報サイト 日経メディカルAナーシングhttp://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/anursing/ameirogu/に掲載されたものです。該当記事をご覧になるには会員登録が必要です。)
 
 

 私は、最近までニューヨークとワシントンDCの病院でメディカルソーシャルワーカーとして働いていました。メディカルソーシャルワーカーは、病院内でも看護師さんと密接にかかわる職種です。今回は私の経験を元にアメリカのソーシャルワーカーの仕事についてご紹介します。

アメリカのソーシャルワーカーは、ホームレス、障害者、アルコールや薬物依存者、精神疾患者、高齢者、ドメスティックバイオレンス(DV)の被害者、そして、虐待を受けた子供など、社会で弱い立場にある人のお手伝いをします。仕事の分野は多岐に渡ります。患者の心のケアを専門とする一方で、社会的にサポートの必要な人達の課題について政府に問題提起し、問題解決のための政策を練る専門家でもあります。

アメリカで臨床現場のソーシャルワーカーになるには、修士の学位が必要です。大学院卒業後に取得する国家資格は修士レベルと臨床レベルに分かれており、州によって、それぞれの資格を取得するために必要な臨床経験の時間と内容が異なります。また、免許取得後も、免許更新の年毎に、定められた条件の継続教育を受けていなければ、免許の更新ができません。

アメリカでは患者が加入している健康保険の種類によって退院後に受けられる医療の内容が異なります。そのため、メディカルソーシャルワーカーは、患者の加入している健康保険を熟知した上で、適切な退院のお手伝いをします。中でも重要な仕事は、ホームレス、精神疾患を患った患者、自殺未遂や他殺願望のある患者、DV・虐待を受けていた患者、そして、薬物乱用の患者など、退院後スムーズに治療を継続できないリスクのある患者と最初に面談し、そのサポートをすることです。総合病院には、病気や怪我の治療以外の助けを必要とする患者も多くおり、社会的に立場の弱い人にとって、病院は、行けば助けてもらえる「Last Resort」と言われています。

患者の退院後の治療をめぐって医療者間で対立

病院の入院病棟では毎日、患者の病状や退院後の医療ケアについて話し合いが行われます。話し合いには、医師、その日の主任および副主任看護師、ナースケースマネジャー、ソーシャルワーカーなど、患者に関わる医療スタッフが参加します。その会議の中で、医師は入院治療が必要な患者の病状、実施する検査とその理由など、明確な医療診断とその治療内容を説明します。そして、退院すべき患者を選別し、退院後に必要な医療ケアが受けられるよう準備が整っているかを確認します。

患者の退院日と退院した後の継続医療をめぐって、医師と他の医療スタッフ、ソーシャルワーカーとの間で意見が対立することは日常茶飯事です。それは、患者の加入している健康保険が、退院後に受けられる医療ケアの範囲を決めるからです。治療内容や治療日数、抗菌薬などの薬剤の使用、歩行器など細かい医療器具の使用まで、保険によって制限があります。そのためソーシャルワーカーは、健康保険の制限により、医師らが望む継続医療を受けられず退院できない患者と、継続医療は必要ではないけれども、身寄りのない高齢者やホームレスなど、安全に退院させることのできない患者について、医療者間の話し合いの中で説明します。そして、彼らの退院先、継続医療のあり方を巡って、それぞれの立場から激論が繰り広げられるのです。

高額な医療費が払えず自己破産も

例えば、以前こんなケースがありました。

2013年、オバマ前大統領による医療保険制度改革の前の出来事です。精神疾患と薬物依存症を合併した40歳代のホームレスの男性が私の勤務する総合病院に運ばれてきました。健康保険には加入していません。その患者は自分の命と引き換えに両足を切断する必要がありました。そして退院後にも、抗生物質の点滴治療や創部ケア、インスリン投与などが必要でした。

私は、その男性が両足を切断される前に、医師に足を一本でも残すことは可能かと尋ねました。足一本さえ残っていれば、退院後の施設を見つけられる可能性が高まるからです。また、看護師には患者の不適切な言動の頻度と患者自身が創部ケアをできる能力があるのかを観察してもらい、フィジカルセラピストには、入院中のリハビリだけで、患者がどの程度、車椅子を乗りこなせるかなどを確認してもらいました。この患者を退院後に受け入れてくれる施設はほぼゼロという条件の中で、安全で最低限の医療ケアを望める退院先について話し合うのです。

アメリカの病院では、高額な医療費を払えないからといって入院中に必要な医療を中止することはありません。しかし、病院はホテルではないのです。加入する健康保険の内容によっても自己負担額は変わりますが、一般的な総合病院の場合、集中治療室の1日のベット代金は日本円にして約80万円、脳神経外科など特別な病棟になれば、およそ60万円、一般病棟でもおよそ30万円以上かかります。これは1日のベット代の料金のみであり、治療費、薬代、食事代などは含まれません。

「今日は家族がいないから一晩病院に泊まりたい」「ちょっと調子が良くないので一晩病院に泊まりたい」。そう言う患者も多く見ました。しかし、入院しなければいけない病状がなければ、そして、その病状を患者が加入している保険の保険会社が認めなければ、その日の分のベット代金、治療代金はカバーされません。高額な医療費の支払いができないために自己破産するというケースは他人事でないのです。病院に来る社会的に弱い立場の人をメディカルソーシャルワーカーとしてどのようにして手助けすべきか、日々ジレンマの連続でした。

次回は、この40歳代の患者さんがどうなったのか紹介します。

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