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木村つばさ

ブログについて

日本にいた頃は、未知の世界であったアメリカの医療現場。新しい発見・学びの連続の日々です。アメリカの薬剤師の仕事や、医療現場の紹介、その日あった仕事での出来事・カウンセリング経験などを語ってます。日米にいる方等へ、様々な意味での情報源になれたら幸いです。

木村つばさ

東京・テキサスでシステムエンジニアとして勤務後、アメリカで薬剤師になる為に渡米。コロラド州立薬学部を卒業後、病院の外来専門の薬局で勤務。2人の娘等にも恵まれ、仕事、家事・育児で走り回ってる毎日です。糖尿病専門薬剤師の資格取得の為に勉強中の身でもあります。

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私が住んでいるコロラド州では、今年は記録的な寒さが続いています。氷に足を滑らせて怪我をしたり、辺り一面の粉雪で運転中に事故を起こしたり、といった話を毎日のように聞いています。もちろん、薬を処方する薬局での仕事は季節を選びません。今回は、薬局での処方箋薬の値段がどのように決まるのか、簡単に説明したいと思います。

まず、薬局側にかかるコストを考えてみたいと思います。コストは大きく分けて、薬そのものの薬剤費と、人件費や経費から構成されます。人件費や経費は、薬局の立地や大きさ、薬剤師の数、その土地の人件費水準などに影響を受けます。

一方、薬剤費は薬の原価によるので、単一の値段があるのかと思いきや、実際はそうではありません。これは薬のサプライヤー(卸業者)と薬局の力関係や売買契約の種類などが影響します。例えば、サプライヤーは薬局側の一年の仕入れ量から、値段を提示してきます。したがって、仕入れ量が多いチェーン大手薬局は、個人薬局より安く薬を買える場合が多いです。提示された値段を元に価格交渉が行われ、最終的な仕入れ値段が決まります。さらに、この値段は頻繁に変更され、特定の薬の需給関係によっては、一気に高騰する場合もあります。

次に、薬局での値段のつけ方です。これは、患者さんが保険を持たない場合と、保険を持つ場合の2種類に大きく分かれます。まず、患者さんが保険を持たない場合は、上記の薬剤費にDispensing Fee(処方料)を加えた値段を、そのまま患者さんに請求します。Dispensing Feeは人件費や経費に利益を上乗せした費用で、州や薬局によって違いはありますが、一回の処方につき$17前後と言われています。

患者さんが保険を持っている場合はどうでしょうか。この場合、薬局が一回の処方によって受け取る金額は、保険会社からの支払いと、患者さんが支払うコペイ(窓口負担額、Co-pay)です。患者さんが支払うコペイは、薬の種類によって保険プランごとに決まっています。例えば、薬あたり10ドル、もしくは薬剤費の10%といった具合です。 

保険会社からの支払いは、償還費(Reimbursement)と言います。薬局は、Pharmacy Benefit Manager (PBM)を通じて個々の薬剤費と患者の処方箋の保険の情報をやり取りします。償還費はPBMとの交渉で決まりますが、薬によっては処方あたり$1-2しかないケースがあります。したがって、コペイと償還費を足した金額が薬剤費自体を下回る事もあります。政府が運営する薬局やチェーン大手の薬局は仕入れ量が多く、比較的安く薬を仕入れることができる一方で、個人薬局は薬の仕入れ値が高い傾向があり、少ない償還費に苦しめられると言われてます。

ちなみにPBMとは、製薬会社と薬のサプライヤーと薬局の間に入り、保険を持っている患者さんの処方箋にまつわる様々なやり取りを管理する組織のことです。全米に60ほどあり、保険会社と共に運営されている場合が多いです。PBMの役割は広範囲に及び、製薬会社とリベートや薬の割引の交渉を行ったり、患者が複数の薬局から同じ薬を処方されていないか監視したりします。保険会社が独自の薬局とPBMを持つ場合もあります。見方によってはモノポリーとも言え、違法なのでは?と思う人もいるようですが…さてどうなのでしょう。

最後に、患者さんから見ると、保険を持っていないときは薬剤費+Dispensing Feeが、保険を持っているときはコペイが、個人の負担額になります。後者の方が安くて当たり前と思われるかもしれませんが、保険の種類と薬によっては前者の方が安くなる場合があり、処方薬の保険料が単なる払い損になってしまう、というケースもよく聞きます。アメリカの処方薬のコペイは他国に比べ高いと言われていますので、保険を契約する際には、処方薬の保険カバー内容にも十分注意を払われることをお勧めします。

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