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精神科というと、何となく暗くて怖いイメージがあったり、心の内を分析されてしまうのでは?などと誤解されがちですが、アメリカの精神科医療を少しでも身近に感じていただけるよう、日々感じたことを綴ってゆけたらと思います。

奥沢 奈那

東京出身。雙葉高校在学中に国際ロータリー青少年交換留学生としてベルギーに留学後、渡米。ニューヨーク州サラローレンスカレッジ卒業。セントジョージ医科大学を卒業後NYマイモニデスメディカルセンターで一般精神科の臨床研修を修了。メリーランド大学で児童精神科専門研修後、同大学精神科助教。米国精神科専門医。

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2013/10/27

精神科治療、日米の違い

(この記事は、若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に寄稿されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)

私の勤務する大学病院が位置するメリーランド州ボルチモア市では毎年夏にF1のグランプリレースが開催されます。開催中、交通規制によって街中が大渋滞となるので一部の精神科外来クリニックは予約を受け付けず閉鎖となります。

ところが、電話番として一人クリニックに残っていた受付職員からメールがあり、私が担当する外来患者さんのご家族から、患者さんとご家族の安全が危ぶまれる状況にあるので至急連絡がほしいとの電話を受けたと報告がありました。ご家族に電話してお話を伺ったところ、患者さんに自傷他害の恐れがあることを確認し、この患者さんは至急精神科医の診察とおそらく入院治療が必要だと判断しましたが、患者さんご本人(成人)が電話の応対を拒否されていて連絡が付きません。

アメリカで、このような緊急事態にどのように対応するかというと、メリーランド州(州によって多少異なります)では患者さんご本人以外が緊急診察の要請(petition for emergency evaluation)を裁判所に提出することができます。ご家族、友人、隣人等が要請する場合は法廷に出向いて裁判官の許可を得なければなりませんが、医師、臨床心理学者、臨床社会福祉士などの資格を持つ者は裁判官に相談せずにこの判断を行うことを法律で認められています。この要請が受理されると警察が患者さんのご自宅に出向き、最寄りの病院の緊急救命室(ER)にお連れする、という制度です。ERで外来担当医とは別の精神科医の診察を受け、直接患者さんを診察した医師2名から自害または他害の恐れがあると認められた場合のみ患者さんご本人の意思に反しての入院(2 physician certified admission, 日本の措置入院にあたるかと思います)となります。

ちなみに冒頭の私の患者さんのケースでは、私がご家族からお電話をいただいてから患者さんが市民病院のERに運ばれるまでの時間は約8時間、入院が決定され入院病棟に移動されるまではそれからさらに約24時間かかりました。お電話をいただいた際、私はボルチモア市から55キロほど離れたモンゴメリー郡にいたのですが、上記の緊急診察要請は患者さんのご自宅の最寄りの裁判所または警察署でしか受理されない決まりになっているようで、ラッシュアワーとグランプリレースの大渋滞の中2時間以上かけて申請書を提出しに向かわなければなりませんでした。緊急事態においてこのような時間の無駄を防ぐため何度も警察に電話しましたが「ボルチモア市はモンゴメリー郡の管轄ではない」「警察署ではなく24時間受け付けの裁判所に行け」(実際に足を運びましたが閉まっていました。) 挙句の果てには「あんた何年医者やってるの?」と警察になじられ電話を切られる始末です。ご家族が警察に電話、また裁判所に申請書を提出する選択肢もあるのですが、やはり患者さんにとって一番身近な存在であるご家族にはその後の患者さんとの関係に亀裂が入ることを恐れてなかなか決心がつかないのが大半です。私も、これからのこの患者さんとの信頼関係、外来治療方針等を考えると眠れませんでしたが、患者さんがERに到着してからおよそ24時間後にようやく、自ら任意入院を希望され入院されたとの確認がとれたので、正直本当にほっとしました。

日本には任意入院と措置入院の中間に当たる医療保護入院という制度があります。対象となる患者さんが精神疾患のために入院治療が必要な状態であること、しかし病状のためにそのことを本人が理解し自ら入院契約に同意する能力を欠いていることが精神保健医の診断の結果確認された場合、家族等保護者の同意をもって成立する入院で、日本の精神科の入院の約3~4割を占めると言われています。

「精神病や認知症と思われる身内を抱えて困った家族が、本人をなだめすかして病院へ連れていく。その病院で精神保健指定医の資格を持つ医師が『入院が必要です」と診断し、家族が同意書にサインすれば、本人がいやがっても強制入院になる。それが医療保護入院の一般的なパターンだ。」(以上、2013年6月20日 読売新聞http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=79920より一部引用)。春の通常国会で精神保健福祉法改正案が成立し、従来よりもさらに強制入院のハードルが下がるとこの記事は指摘しています。

アメリカには日本の医療保護入院のような制度はなく、強制入院の対象が自傷他害の恐れがある患者さんに限られるため、日本に比べて強制入院のハードルが高くなっています。さらに民間保険会社の介入などによりアメリカの精神科平均入院日数は1週間前後で、月単位、年単位の入院が多い日本に比べて大変短いです。アメリカの主な州で強制入院certified admission(日本の措置入院に近い制度)の場合は2週間ごとに医師と患者さんが法廷に出向いて裁判官が入院続行の必要性を判断することが義務付けられています。このような制度は、医療従事者側の視点からすると患者さんが迅速に適切な治療を受ける妨げになると思うこともありますが、患者さんの人権擁護のためには必要不可欠なことだと思っています。

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