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奥沢奈那

ブログについて

精神科というと、何となく暗くて怖いイメージがあったり、心の内を分析されてしまうのでは?などと誤解されがちですが、アメリカの精神科医療を少しでも身近に感じていただけるよう、日々感じたことを綴ってゆけたらと思います。

奥沢奈那

東京出身。雙葉高校在学中に国際ロータリー青少年交換留学生としてベルギーに留学後、渡米。ニューヨーク州サラローレンスカレッジ卒業。セントジョージ医科大学を卒業後NYマイモニデスメディカルセンターで一般精神科の臨床研修を修了。メリーランド大学で児童精神科専門研修後、同大学精神科助教。米国精神科専門医。

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先日メリーランド大学精神科のAnnual Cultural Diversity Dayに参加してきました。メリーランド大学の精神科レジデント(研修医)が中心になって企画する年間行事で, 人種、文化、宗教、社会面で多種多様の患者さんと接するためには様々な文化や価値観を理解する必要がある、という思いから始まり今年で20年目だそうです。アメリカならではの行事ですね。

今年のカンファレンスのテーマは“Stigma:スティグマ=偏見”でした。スティグマという言葉の語源はギリシャ語で奴隷や犯罪者の身体に刻印された徴 (しるし)に由来するそうです。精神科の患者さんとご家族に対する社会の偏見、そしてそれがどのように患者さんの生活や気持ち、そして治療に影響を与えるかを理解するためのワークショップが行われました。コネチカット州での銃乱射事件などを背景に、精神病患者=暴力的という偏見が強くなってきているアメリカで、アンチスティグマについて考える場となりました。

Cultural Diversity Dayというだけあって講師の先生方も人種、文化的に多様でした。ご家族が精神病を患っていることがきっかけで精神科医を志したメリーランド大学助教授ウ オンディ先生は、ご自身の故郷のナイジェリアの州全体に42床しか精神科病床が存在しないことに心を痛められ、ナイジェリア政府に直談判して現在250床 の精神病院と研修医育成プログラムの立ち上げを実現中です。また、ラテンアメリカご出身のソーシャルワーカー、コロンビア大学のカバサ准教授は、ヒスパ ニック系アメリカ人の精神病に関する偏見を少しでも少なくするために、ラテン系コミュニティーに人気の音楽(サルサ、メキシカンポップ、ラップなど)や fotonovela(漫画のような写真付単行本)を取り入れて、うつ病や統合失調症などの病気に関する知識を一般家庭に広める研究活動をなさっています。当時南カリフォルニア大学にいらしたカバサ教授は、ハリウッドのヒスパニック系俳優や監督とコラボしてうつ病に関する写真付単行本を作成したそうです。さすがアメリカ、考え方が柔軟で面白いと感激してしまいました。

さて、我々日本人はどうでしょうか?たとえば、Schizophreniaはかつて「精神分裂症」と呼ばれていましたが、日本精神神経学会により「統合失調症」と名称変更されました。また、精神科のク リニックの多くが「心療内科」と名乗っています。これらが偏見を防ぐのか、逆に増やしてしまうのかは議論されるところだと思います。精神科医がアンチスティグマを語ること自体おかしいと考える方もたくさんいらっしゃると思います。

J-POP VOICEというサイトを見つけました。病気と向き合う体験者の方々の生の声を動画紹介するというサイトで、がんと統合失調症に関するコーナーが設けられています。以下、体験者の方が動画インタビュー協力の理由についてこう語られています。

「僕が知らなかったがために、何か月か何年か分かりませんけども、結局、病院に行けなかったという辛い時期があったので、なるべく多くの人に(統合失調症につ いて)知ってもらいたい。一般の方にも知ってもらいたいですし、医療従事者の方にも知ってもらいたいですし、病気になった方にも知ってもらいたいという気持ちがすごくあります。統合失調症は(受診が)早ければ早いほど回復は早いと言われていますので、そういう気持ちがすごく強かったので、今回、引き受けることにしたしだいです。」

JPOP_BN_schizophrenia.gif

2件のコメント

  1. 面白いトピックですね。

    ヒスパニック系の患者さんを診ていて、精神科への受診を進める時によく鍵になるのが、じぶんの行く教会の神父さんの存在です。子供が精神科にかかるかどうかについて、母親が神父さんに相談してから決める、と言われたことがありました。母親も不安状態になっていて、神父さんにやや依存しているようにも思えました。

    カソリック教会、ユダヤ教のラビ、などは、精神病をどういった捉え方をしているのでしょうか? 精神科にかかり薬をのむことを、どう解釈しているのでしょうか?

    • 浅井先生、コメントありがとうございます。宗教は精神病の予後にとってprotective factor(保護因子、または防御因子)として考えられています。精神科疾患に孤独は大敵ですから、教会などを通して周囲の人々とのつながりを持てる点でも有効なのかもしれません。様々な宗教のリーダーが精神病をどのようにとらえているかは人それぞれだと思いますが、確かに神父さんやラビ(ユダヤ教司教)のご意見が患者さんの治療のカギを握ることは多々ありますね。私は以前勤務していたユダヤ系の病院で、患者さんの同意を得てラビと面談することが多かったです。精神病は宗教、人種関係なくかかりますから、ラビも地域の信者から精神病に関する相談を受けることが多いようで、正確な知識を得て治療に協力したいという考えの方もいました。また、先日担当した患者さんのお母さんがキリスト教の聖職者(牧師)で、「聖書を朗読してあげれば症状がよくなる」と言って息子さんの投薬に初めは反対だったのですが、診断と治療方法について説明すると、「やっぱり息子に良くなってほしい」と言って、”God created medications for a reason”と息子さんを説得していました。どのようなルートであっても患者さんご本人が治療を希望されることが最終目的ですね。難しいですが。

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