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ブログについて

ハワイは温暖な気候と全米一のCultural mixが見られ、医師としての幅広さを養うにはいい環境と感じています。
旅行だけでは見えない、ハワイ在住の魅力もお伝えできればいいなと思います。

野木 真将

兵庫県出身、米国オハイオ州で幼少期を過ごす。京都府立医大卒、宇治徳洲会病院救急総合診療科の後期研修を修了。内科系救急を軸とする総合診療医として活躍したい。よきclinical educatorとなるため、医師としての幅を広くするため渡米。2014年よりハワイで内科チーフレジデントをしながらmedical education fellowshipを修了。2015年よりハワイ州クイーンズメディカルセンターでホスピタリストとして勤務中。

野木 真将のブログ
2019/03/03

ホスピタリストと専門医の関係

● 驚きの事実

日本から当院に見学に来られる方に話すと必ず驚かれるのが、

「米国の病院では(原則)病院に雇われているのはホスピタリストだけで、専門医は外部にいてコンサルタントという形で診療に参加する」という事実です。

極端なことを言うと、病院は救急室、手術室、病棟、内視鏡室などの設備とスタッフを用意して、それを専門医が利用すると言う構造です。そのために専門医は、様々な病院で診療する権限(credential)を維持する必要があります。

「専門医が複数の病院をまたいで診療できる」システムは日本の医療システムから見れば画期的であり、多くの可能性を秘めています。日本は病院が多いため、専門医を取り合うようなシステムから脱却することは医師の地域偏在解消や遠隔医療の導入にとてもプラスと思います。そのための一歩目は病棟管理を支えるホスピタリストのシステム構築と信じています。

● なぜこれが可能なのでしょうか?

それは各専門医がコンサルトを受けた時に発生するコンサルテーション料や手技料を「患者に個人請求」するから、病院から給料という形でもらう必要がないのです。もちろん各患者の加入している医療保険会社を通じてなので、直接患者に高額な請求をするわけではありません。余談ですが、2010年以降はメディケア患者に対してコンサルテーションの特別点数は廃止され、入院患者においては新規受診と継続受診の2種類のコードを用いるようになりました。

例えば、あなたが胆石胆嚢炎で入院して腹腔鏡下胆嚢摘出術を受けたとします。
退院時には、以下の全ての請求書が送られてきます。

1)病院から病棟での管理費(ホスピタリスト費用ふくむ)
2)手術室から手術室使用料
3)麻酔科医から麻酔料
4)外科医から手術料
5)その他、専門医が関わった場合はそれぞれの専門医からの診察料

このシステムを初めて見知った時には衝撃でしたが、なるほど!とも思いました。

各病院で専門医を抱え込む必要がないため、以下の利点があります。

* 救急車のたらい回しが起こりにくい
   * 総合的に管理するホスピタリストにとってコンサルトを求める対象が広くなる。
   * 遠隔医療(telemedicine)も実行しやすくなる。
   * 治療成績が悪い、ホスピタリストや患者から評判の悪い専門医を病院が選別できる

コンサルタントとなる専門医にとっても、収入を得るためにはいい仕事をしなければその後コンサルトを得られなくなるというプレッシャーもありますので、自ずと責任感のある診療をします。初回のコンサルト時には過去の記録や他院の記録もしっかりと取り寄せ、自分のフィールドは漏れなく分析します。そして退院までは毎日回診に来て、カルテを書き、方針決定をホスピタリストと相談します。直接自分でオーダーを変える専門医もいれば、推奨という形で伝えてきてホスピタリストにオーダーは一任する専門医もいます。ホスピタリストの期待する以上の仕事(分析力、説明力、責任感など)をする専門医は信頼を得られますね。

基本的には誰にコンサルトしても良いのですが、以前にその患者を診たことがある専門医がいればそちらを優先して先に連絡をします緊急性を要するもの(内視鏡をする消化器内科、脳卒中をみる神経内科や脳神経外科、多発外傷を管理する外傷外科など)はあらかじめ病院側との契約でオンコール表が存在しますので、それに従って優先的に連絡をします。

● 退院後のフォローも責任を持つ専門医

外来を持たないホスピタリストに代わり、専門医は退院後も自分の専門外来で継続フォローできる利点があります。
次回入院した際にはホスピタリストは毎回変わったとしても、その患者を知る専門医にまた連絡をとり継続性が維持されるように気をつけます。「〇〇先生が5年前に診た患者さんですけど、、、」って電話で相談を始めると、カルテも見ずに大体の病歴を記憶しているコンサルタントもいて、そのオーナーシップに感心します。

● 専門医を呼ぶタイミング

ホスピタリストのスタッフになった時に難しいな、と思ったのは専門医にコンサルトするタイミングです。

まずは入院の主治医が自分なので、総合内科の立場から患者にとって「今」、専門医の介入が必要かどうか?、を判断しなければなりません。何も考えずに心不全だから循環器にコンサルト、クレアチニンが上がってきたから腎臓内科にコンサルト、という診療をしていると、コンサルタントからの信頼が得られません。内科的に標準の検査や治療を一通り行なってから、「これ以上になると専門性が高いな」と判断して、「何を期待してコンサルトした」のかをはっきり言えるようになるまで、自分の中で吟味して仮説を立てなければなりません。
もちろん、「診断がつかなくて困っている」でもいいのですが、内科は「診断のスペシャリスト」と思っていますので、ある程度の絞り込みをしておかなければなりません。

日頃から「あのホスピタリストから相談があったと言うことはよっぽど大変な案件なんだな。」と思ってもらえるようなホスピタリストになりたいと思っています。

●ホスピタリストにとってのメリット(2つ)

第一に、ホスピタリストは広範囲の内科マネージメントをするのですが、全分野の知識をアップデートしていくのは大変です。そこで、コンサルトをした専門医と日々相談していく中で、あらゆる分野の最新の知見を教えてもらえるのです。

先日、国際脳卒中学会がホノルルで開催されていましたが、病棟で会った神経内科の友人に「So, what’s the latest? (最近のニュースは?)」と聞くと脳卒中学会でのホットなトピックスと彼の解釈を数分でシェアしてくれました。これはホスピタリストにとっては大きなメリットです。

第二に、例検討カンファレンスなどが不要になるです。これは私個人の印象かもしれませんが、暗黙の了解として、「その患者を直接診ていないのに、責任ある発言はできない、して欲しくない」という態度があるように思います。訴訟の問題もあるのかもしれません。当院でのケースカンファレンスはTumor boardと呼ばれる複雑な癌症例の治療方針を多角的に相談する他職種カンファがあるのみで、基本的に内科の中でカンファレンスはありません。

 そこで、担当患者を昔から知っており、今も責任持って関わっているコンサルタントの専門医となら、いいディスカッションになります。これは病棟で会った数分で終わる事もありますし、専門医が院外にいればテキストメッセージや電話で済むのです。30-60分とカンファレンスに拘束されるよりは効率よく方針決めが可能になります。

 

● 外部からのコンサルタントシステムの問題点(3つ)

第一に、コンサルトを受けることに対してインセンティブがあるのは専門医の動機付けにはいいことなのですが、もしホスピタリストと専門医が個人的に懇意にしていると、ちょっとした事でもコンサルトしてしまうと言う可能性があります。コンサルテーションの乱用は医療コストを釣り上げます。なんでもかんでもコンサルトされてしまい、「船頭多くして船山に上る」(英語では”Too much cooks in the kitchen”)なんて事もあります。

内科レジデント研修中は、ホスピタリストローテーション中に「コンサルトをする側」、専門内科ローテーション中に「コンサルトを受ける側」の両者を経験する事で、適切なコンサルトの仕方をhigh value careの一環として教育されます。

第二に、ホスピタリストが週替わりで変わるので、それぞれがコンサルタントを呼ぶ閾値が異なると困ります。「前任のホスピタリストが呼んだけど、今度のホスピタリストは必要としていない」という事態もあります。状態が落ち着いていれば、専門医は毎日の回診を中止することもできます。これはケースバイケースですが。

第三に、無保険の患者に対してコンサルタントが診療拒否をする可能性がある事です。これは倫理的に起こらないだろうと思われがちで、実際に少ないですが、専門医がコンサルテーション料を回収して収入を得ている以上、相手によってはただ働きになるリスクはあります。これは給料制のホスピタリストにはない悩みです。

● 事例を交えて

イメージを持ちやすいように、実際にある事例を通じてホスピタリストと専門医の関係を解説して終わりにしたいと思います。

症例1)喀血で入院した中年男性、喫煙歴あり、最近フィリピンから移住。問診では体重減少、寝汗、微熱も明らかになり、入院時から肺結核除外のため陰圧隔離室に入室となる。胸部CTでは肺の上葉に結節も認める。この時点では呼吸器内科も感染症医もついておらず、ホスピタリスト単体での管理。やがて喀痰での抗酸菌染色もPCRも陰性となり、陰圧隔離室から解除されます。放射線科にコンサルトし、肺結節のCTガイド下生検を依頼するも部位的に難しいとの返答。気管周囲のリンパ節腫脹もあるため、呼吸器内科にコンサルトし、気管支鏡を用いた穿刺生検を依頼する。生検結果が戻り扁平上皮癌と判明する。呼吸器外科にコンサルトをして外科的切除が適応かを相談。同時並行してステージングをホスピタリストが進めていく。結局、手術よりも抗癌剤治療が適応あるとのことで腫瘍内科にコンサルトをする。化学療法前に心機能、腎機能に問題はないことをホスピタリストが確認する。全身状態良好のため、化学療法は外来で開始する方針となり退院となる。本症例は全て新規のコンサルタントですね

症例2)新規発症の心不全で入院した中年女性。彼女は腎移植後で免疫抑制剤使用中であったため、以前からフォローしている腎臓内科医にコンサルトし、入院中の免疫抑制剤の血中濃度モニタリングと薬剤調整を依頼。心エコーでは虚血を疑わせる区域性の壁運動低下を認め、問診では最近の狭心症の頻度上昇が発覚したため、循環器科にコンサルトし、冠動脈造影を依頼したが、リスク因子が中等度であったため、まずは薬剤負荷のストレステストを勧められる。ストレステストの結果、左冠動脈の虚血病変の疑いあり。循環器科が冠動脈造影をしてステントを留置。ヘモグロビンA1cが高値で戻ってきたため、糖尿病指導チームにコンサルト。結果、本人もインスリン治療を望んだので、開始。血糖測定の機械やインスリン針の指導は糖尿病管理チームのナースプラクティショナー(NP)が担当。数日後にクレアチニン値が少し上昇したが、造影剤による影響とホスピタリストが判断し、腎臓内科に一言連絡をして様子を見ることを提案。その後 数回、黒色便が出現。ステント留置直後で抗血小板薬を止めるのは得策でないため、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を開始し、経過観察。特に症状もなく、血圧も安定、ヘモグロビン値も安定したため、消化器内科を呼ばずに退院となる。退院後は循環器科の外来で心不全のフォローをし、新規インスリン療法のフォローと将来的な消化器内視鏡医への紹介はプライマリケア医に依頼する。

 

●最後に

強調したいのは、ホスピタリストは優秀な専門医があってこそ成り立つ職業です。お互いにプロフェッショナルとして認め合いながら診療する事が最も大事だと思います。ホスピタリストが責任を持って基本的な病棟管理のところを包括的に診ているからこそ、専門医は「専門性の高い、チャレンジングな部分」に集中して取り組めるのです。逆に、専門性が発揮されなくても良い診療の部分は、「全て」ホスピタリストが責任を持って見るべきですね。

「専門医が複数の病院をまたいで診療できる」システムは日本の医療システムから見れば画期的であり、多くの可能性を秘めています。日本は病院が多いため、専門医を取り合うようなシステムから脱却することは医師の地域偏在解消や遠隔医療の導入にとてもプラスと思います。そのための一歩目は病棟管理を支えるホスピタリストのシステム構築と信じています。

 

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