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野木真将

ブログについて

ハワイは温暖な気候と全米一のCultural mixが見られ、医師としての幅広さを養うにはいい環境と感じています。 旅行だけでは見えない、ハワイ在住の魅力もお伝えできればいいなと思います。

野木真将

兵庫県出身、米国オハイオ州で幼少期を過ごす。京都府立医大卒、宇治徳洲会病院救急総合診療科の後期研修を修了。内科系救急を軸とする総合診療医として活躍したい。よきclinical educatorとなるため、医師としての幅を広くするため渡米。2014年よりハワイで内科チーフレジデントをしながらmedical education fellowshipを修了。2015年よりハワイ州クイーンズメディカルセンターでホスピタリストとして勤務中。

 前回は21世紀型学習に大事な”4C”を、小学生の娘の学校生活を例にして紹介しました。

 ソフトスキル 対 ハードスキル

 これからの時代で活躍するのに必要なスキルは「ソフトスキル」とも呼ばれ、4Cに加えて、リーダーシップスキル、プロジェクトマネージメント、問題解決能力、職業倫理、チームワーク、適応力、忍耐力などを含みます。学力試験の点数、資格、学歴と言う既存の価値観を「ハードスキル」と言うのに相対する概念で、なかなか履歴書などからは読み取りにくいものです。さらには経験知を積み重ねてこの両者を上手に繋ぐ、「メタスキル」という概念もあります。
 ハードスキルを育成するのが私が育ってきた学校システムの目的とも言えます。
どんなシステムかと言うと、生まれた年度ごとに入学(age-based cohort)し、規定の授業時間(45-60分程度)内に規定の課目(国社理数など)を詰め込み、筆記試験で良い点数を目指すシステムです。標準化試験でいい点を取れればさらなる高等教育への進学を有利にするのと同時に、「義務教育」と言う名目で社会常識や教養を標準化していくと言う2つの目的が達成できるのです。
 これって実は1800年代に考案されたシステムだそうで、産業革命の後に労働者人口を効率的に生産していく工場ラインのごとく「教育」していくのに役立ちました。企業がクリエイティブな人よりも、従順で均質化された人材を欲した時代です。
 旧プロシア(現ドイツ)の効率良い生産者教育システムを見て感動した一部の起業家たちが米国に輸入してきて、Committee of Tenと呼ばれる富豪や有識者たちの意見を取り入れたカリキュラム作りがよく例に引き出されます。このあたりは、Sir Ken Robinson氏のTED talk <https://www.ted.com/talks/ken_robinson_changing_education_paradigms> などでよく耳にしますね。もちろん、複雑な歴史の過程でプロシアモデルだけが影響を及ぼした訳ではなく、 マドラスシステムやベル/ランカスターシステムなどのモニトリアルシステムと呼ばれるものも影響しています。
 人工知能が発達していく先の時代に、既存の学校システムだけで育った大卒資格者も職につけなくなるのではないか?と言う懸念があります。さらに、「今はまだない」職業がこれから生まれる可能性もあります。そこで必要なものは何か?
 その答えの1つが「ソフトスキル」を上手に育てる学校システムだと思います。

 ソフトスキルを育てる、プロジェクトベースドラーニング

 概念としては納得できたとして、「じゃあどうしたらいいの?」と思い、渡米してからいろいろ調べますと、次々とワクワクするようなアイデアに出会ってきました。
 ハワイ大学医学部のプロブレムベースドラーニング (PBL)方式の授業もその1つですが、他にも反転授業(Flipped classroom model)やプロジェクトベースドラーニング(project based learning) などのように議論を学習の中心とし、筆記試験などを極力避けて、アクティブラーニンググロースマインドセットGrowth mindset)を刺激するような試みなどがそうです。
 先日、知人からAmazonビデオに今年公開された「Most likely to succeed」と言うドキュメンタリー(2015年制作)が面白い、と勧められて早速見ました。これが実にドンピシャ、上記の概念を具現化している先進的な高校の実例で面白かったです。2015年に出た同名の書籍よりも具体的な取り組みがきちんと取材されて映像化されているのが高評価です。
 舞台はサンディエゴにあるHigh Tech Highという名前のチャータースクール(公立校だけど、カリキュラムの自由度が高い学校)でした。ここの高校には入学試験はなく、地元から抽選で選ばれて入学します。教師は1年契約で、州の指導要項をある程度逸脱してもよく、「自由に」指導方法を検討します。教科書や講義はなく、授業はプロジェクトベースドラーニング(project based learning)が中心で、科目も融合(例えばエンジニアリング+歴史)する形で提供しています。そう言えば、娘の小学校でもSTEM (Science科学, Technologyテクノロジー, Engineeringエンジニアリング, Math数学)を融合させた授業が多くなってきているようなので、時代の流れなのでしょう。
 筆記試験はなく、数カ月ごとに一般公開される”exhibition”と呼ばれる展示会でのグループ作品の発表やプロジェクトを進める上での各自のチーム内での働き、そしてプロジェクト後に行われる振り返り会での会話の内容で成長具合をチェックされます。「教師がいなくても自立して生徒たちだけでプロジェクトが進められること」が1つの目的になっているようでした。
 最初は戸惑っていた生徒たちもだんだんとプロジェクトを通じて自主性を見せて、創意工夫しながら共同作業を進めていく様子はとても頼もしかったです。失敗をすることも学びになることも強調されていました。「社会に出て役に立つ能力なのは理解できるが、そういうことは大学に進学してからでもいいんじゃないのか。このままだとSATでいい点が取れないのでは?」という親の心配も共感はできました。プレゼンテーションや振り返りに親も参加しており、徐々に理解者になっているようでした。モンテッソーリ教育に興味がある親ならもっとスムーズに受け入れられるのでしょう。
 私が内科のチーフレジデントをしていた時に、レジデントに対する毎週の半日講義(academic half day)への不満が多かったので、最後の1コマを削って、地域との関わりを増やしたり、文化的な学習をしたり、燃え尽きを防ぐような自主的なプロジェクトをしていく、研修医のプロジェクトベースドラーニングを試したことを思い出しました。任意参加だったので、プロジェクトは8組だけでしたが、座って講義を聞くよりも有意義だったと後から感想をもらえました。プロジェクトベースドラーニングはトレーニングのどの過程にいても適応でき、既存の講義よりも有用なのでは?という主張で2016年のハワイ医学教育学会でポスター発表をしました。(挿入図)

 標準化から「脱」標準化への流れ

 渡米当初は、米国の教育システム作りに関心を抱き、臨床医学の教育アウトカムを標準化していくノウハウを学ぼうと必死でした。しかし、さらに若い世代に目を向けると、均質なアウトカムを担保するよりも、創意工夫できる自由な発想や、多種多様なグループ構成でも社会に対して意義のある作品を提供できる人材作りに注目されているようですね。
 「型にはめる」のではなく、「型を破る」
 こういう話って教育専門家でなくとも、面白くて刺激的だなと感じます。
 アイデアはたくさんあっても実行に移すには多くの縁と根気と努力を必要とするのは本当に感じるので、こういう実例からは勇気をもらえます。異職種、異世代から学ぶことは多いですね。

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