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ブログについて

医師としての一歩を踏み出したばかりの私の視点から、色々な患者さんと接する中で日々自分が感じたこと、考えたことを素直に綴ります。沢山の人に出会い、多くの刺激を受け、何でも経験し、医師としてだけではなく一人の人間としてもっともっと成長したい。そんな私の成長記をシェアさせていただきます。

コルビン 麻衣

岐阜出身。16歳で単身渡米。1年のつもりが早12年。大学ではテニスに没頭しつつも化学と国際関係を専攻し学士と修士を取得。小児病院でボランティア中に医師の道に進むことを決心。2012年5月南フロリダ大学医学部を卒業し7月からNYブロンクスのMontefioreで内科研修開始。スポーツと旅が好きです。

コルビン 麻衣のブログ
2012/08/16

予期せぬ事態を目の当たりにして

午前5時15分。ポケベルがなった。すぐさま折り返し電話をかける。ICUの先生だ。『Are you covering Mrs. X? The patient just coded』 いそいでMrs.Xの病室のある階へと向かう。私は今週は10階の担当だが、10階が満床になったので 担当の患者さんが一人だけ別の階にいた。この病院では、患者さんの容態が急変し、緊急での対応が必要になると rapid response team(RRT)のポケベルがなる。ICUの医師の他に、看護師と呼吸器療法士、そして夜勤のインターンとレジデントの中から交代でRRT に入るのだが、昨晩私はRRTのメンバーではなかった。だから最初に緊急コールがかかった時 、私のポケベルはならず、ICUの先生が連絡を入れてくれるまで私は何も知らなかった。私が現場に到着した時にはすでにMrs.Xの病室の周りに看護師さんらが集まり、RRTのチームのメンバーが病室から出てくるところだった。「she just passed away…」と一人が言った。私は身体が震えるのを感じた。

Mrs.Xは前の晩私が病棟で入院を受け入れた患者さん。70代女性で主訴は左下腹部痛とweakness。既往歴は高血圧、インスリン依存型糖尿病、末期腎不全で週3の透析、冠状動脈疾患、高コレステロール血症、認知症。大腸憩室炎の既往はない。2日前から左下腹部痛があり、改善がみられないため来院された。ERドクターが初期診療を行い、腹部CTでS状結腸憩室炎が確認されたため、抗菌薬の投与が開始され、入院となった。病棟で私が受け入れた際もバイタルサインは安定。嘔気があるが嘔吐下痢なし、呼吸困難なし、胸痛なし、頭痛なし。家で微熱があったが病院でのバイタルで発熱は認められず。physical examは頭部・頸部・胸部に異常所見を認めず左下腹部に圧痛が認められたものの腹膜刺激症状は認められず。検査所見は、末期腎不全があるので貧血とBUN,Crの上昇が認められるが、ここ1年大きな数値の変動はない。WBC の増多もない。患者さんを受け入れた段階で、同じフロア担当のレジデントに患者の病状を説明する。彼自身も問診、身体所見を行い、CTを一緒に確認した上で治療方針に同意した。 次の日の朝のアテンディング回診時にチームにプレゼンし、アテンディングも自ら簡単な問診、そして身体所見を行い、治療方針に同意。 回診後患者の息子に電話をかけ患者の状態などを説明する。午前11時帰宅。 午後7時すぎに病院に戻り、チームからサインアウト(申し送り?)をうけとる。Mrs.Xに関しては状態は安定しているので、抗菌薬をIVから経口投与できるようになるまで様子をみている状態で、それ以外特記事項はなかった。全員分のサインアウトをして、落ちついたところで担当患者のバイタルサイン、今日の検査結果とレジデントとアテンディングのノートに目を通す。10階はすでに満床で、新たな入院患者さんの受け入れがなかったため、その晩は普段に比べ随分とスローペースだった。ちょくちょく看護師さんからポケベルに連絡が入り、しばらくはその対応をしながらすごす。 午前4時を回ったところで当直室から戻ったレジデントがこのフロアは今晩は落ち着いてるみたいだから仮眠してきていいよ、といってくれたので当直室にむかう。そして午前5時15分、ポケベルに叩き起こされた。

Mrs.Xの病室に私が着いた時にはRRTのメンバーが病室から出てくるところだった。私と同じフロアで働き、Mrs.Xを一緒に担当している2年目のレジデントが私に状況を説明する。彼は昨晩RRTのチームに入っていたので、最初にRRTがコールされた時に現場にとんできた。彼によると、午前3時看護師さんがMrs.Xの様子をチェックした時は何も変わった様子がなく、どこか痛みを訴えることもなく、バイタルも安定していた。そして午前5時、看護師さんが病室に入った時にはMrs.Xはすでにunresponsive だったという。すぐさまRRTをよんだが、その時すでに脈はなくEKGはasystole(心静止)…Codeがコールされ、CPR開始。Intubation、そしてCPRが15分なされたがMrs.Xの脈が戻ることはなかった。レジデントは淡々と私に説明するが、私は身体の震えを抑えるので必死だった。レジデントはMrs.Xの病室に着いてすぐに私に連絡をしようとしたが、すぐさまCPRが始まりそれどころではなく、連絡が遅れてごめんと言った。そんなことより、一体突然何がおきたのか。Huge MI? Massive PE? Arrhythmia? 前に透析を受けている方の死因の約2割が心臓突然死である、ということをどこかで読んだことがあったがまさか……  頭の整理がつかないままだったが、やるべきことをこなす必要があった。まずは家族に電話をした。声が震えそうだったのを何とかこらえた。今すぐ、病院に向かわれるということなので、彼と息子さんが到着するまでにdeath noteを書こうと、パソコンの前に座ったが、落ち着こうにも膝がまだ震えている。学生の時、患者さんの死を目の当たりにしたことは何回かある。でも、今回みたいに突然予期していなかった状態で患者さんが亡くなったのは初めてでショックが隠せなかった。昨日まで普通に会話していたのに。Death noteを書き終わる前に、患者さんのご主人と息子さんが到着した。レジデントと二人で状況を説明する。ご家族はautopsy(剖検)を拒否された。こういう状況において、医師として心の奥底では死因をはっきりさせたいと思うと同時に、もう何をしても患者さんは戻ってこないのだからただただそっとしておいてほしいというご家族の要望も理解できる。Protocolに沿ってオーガンドナーセンターに連絡をし、 death note、discharge summary等paper workを終わらせる。一段落ついたところで、自分の階に戻った。

稀にこういった予期しない事態がおきることは頭では理解しているつもりでも、実際にそういう事態に直面するとまだ心がついていかない。誰もいない部屋をみつけ、椅子に腰掛けると、自然と涙がこぼれた。ご家族が泣き叫ぶ姿が脳裏にやきついて離れない。ご家族や他のレジデントがいるところでは何とか落ち着いて振る舞い、やるべきことを終えたが、一人になって気が緩んだ。自分はこういう状況においてまだまだ精神的に未熟である。学生の時は、患者さんの死に直面することがあっても 自分がその患者さんの家族と面と向き合って説明をすることはなかったし、death noteを書くのも今回が初めてだった。自分が担当していた患者さんという責任感もある。今回のようなケースは誰もどうしようもなかった、といくら言われても、何か見落としていたのではないか、どうにかして助けることはできなかったのか、と自問自答してしまう。患者さんのこと、残された家族のことを考えると本当に心が痛んだ。なぜ周りの先輩医師は皆あんなに落ち着いて淡々と振る舞えるんだろう。どんな状況においても、予期せぬ事態に直面しても常に落ち着いてテキパキと行動する周りの先輩の医師らを見ていると、自分はまだまだだと思い知らされる。と同時にthere is a first time for everyoneだと自分に言いきかせる。先輩医師も皆、きっと今まで様々な経験を心に刻み込んできたからこそ、今があるに違いない。そんなことをぼんやりと考えながら5分ほど椅子に座って心を落ち着かせ、涙を拭い、また他の患者さんの対応に戻った。

 

まだ医師になって日は浅いが、元気になって退院していかれる患者さんをみるのは嬉しいし、普段何気ないことでも患者さんに笑顔で「thank you doctor」と言われると何だか恐縮ではあるが 何事にも代え難い喜びを感じる。また人の生死に関わる現場でその人がその人らしくより健康に生きられるお手伝いをできることは最高のprivilegeであると思うし、自分にこういうチャンスが与えられたことには日々感謝している。ただ、今回のようなことがあると言葉では説明できないほどがっくりくるだけではなく、理想と現実のギャップに愕然とする。医師として人の命を助けると同時に、時になすすべなく患者さんの死とむきあわなくてはならない現実。 心の準備が甘かった。感情移入がいいのか悪いのかはわからない。でも今回のケースに関しては感情移入云々の前に、ショックの方が大きくて動揺してしまった。きっと一生この経験を忘れることはないと思う。今の私にできることは、前を向いて、命が残された目の前の患者さんのために精一杯自分の出来る限りのことをすること。さぁ今日も頑張ろう。

7件のコメント

  1. 金一東 より:

    患者さんの死を目のあたりにして、動揺するのは、医師として自然の反応です。何十年医師をやっても、患者さんの死に直面することはつらいことです。時として無力感を感じる時もあります。どんなに細心の注意を払い、全身全霊を注ぎ込んだとしても助けられない患者さんはいます。医師は神ではないので、すべての患者さんの命を救うことはできません。予期しないことなど、医療の世界では日常の茶飯事のように起こります。でも、一人でも多くの患者さんの命を助け、患者さんの死に心を痛めることを忘れないということが大切なような気がします。この患者さんの死を忘れず、今後も精進してください。

    • コルビン 麻衣 より:

      コメントありがとうございます。医師は神ではないので、というところにハッとさせられました。おっしゃる通りです。医師としての一歩を踏み出したばかりで、さぁやっと人の命を救う手助けができる!と張り切っていた矢先に、こんなにあっけなく患者さんの死を見届けることになってしまってかなり落ち込んでいましたが、医療の世界では予期しない事もしょっちゅう起きるということを身をもって学ぶ経験になりました。まだまだ未熟ではありますが、今後一人でも患者さんを助けられるように自分の出来る限りのことをしていきたいと思います。ありがとうございました。

  2. Alisa Sano より:

    Hi Dr. Colvin,

    Nice to meet you. I’m Alisa, a pre-med who graduated with biology major from the University of Michigan-Ann Arbor in 2013. After graduation, I’ve been working as a medical interpreter, scribe, and a clinical research assistant at UMHS. It is extremely challenging for non-US citizens to get accepted to U.S. allopathic medical schools (My citizenship is Japanese), and I was wondering if we could connect sometime. I have some specific questions about admissions and would like to get some advice from a person who actually went through the process as an international student. Thank you so much!

    Sincerely,
    Alisa

    • コルビン 麻衣 より:

      Hi Alisa,

      I just realized I never responded to your message… Sorry for taking forever to get back to you… I’m a Japanese citizen also but I actually had a green card when I applied to medical school… With that being said, I would still be happy to help and answer any questions you may have… I will send you a personal email so let me know if you still have questions…

      Mai

  3. miyu より:

    こんにちは。将来アメリカで医師として働くことが夢の高校生の者です。現在は、日本の高校に在籍しているのですが、もっと広い世界を見てみたく、海外の大学に入学することを目指しています。そこで、アメリカの大学とmedical schoolを卒業された、麻衣さんにお聞きしたいことが2点あります。
    1つは、英語で書いてある記事などを読みますと、アメリカ人ではない学生がアメリカのmedical schoolに入学するのが非常に困難であるなどの趣旨が書いてある、ページをよく見かけるのですが、具体的には、どのような点が困難になる理由なのでしょうか?また、麻衣さんはどのように克服されたのでしょうか?
    2つは、アメリカ以外の医学部から、アメリカで医師を目指す場合のことです。調べたところ、USMLEのStep2まで合格すると、アメリカで研修医として働けるようになると知ったのですが、その際に研修医として働く場合、やはりアメリカの医学部を卒業した方の方が優先的に、アメリカ以外の医学部を卒業した者はあまり病院側は採用しないのでしょうか?

    長くなりまして申し訳ありません。まだ、日本だと情報が限られており、参考になるような意見がないため、返信を頂けると非常に有り難いです。また、海外の大学に行ってから、アメリカで医師になる方法として、もし良い方法があれば、教えて頂けると嬉しいです。

    • コルビン 麻衣 より:

      こんにちは。

      1. アメリカの医学部に入学するのが困難といわれる理由は大きくわけて二つあると思います。一つ目はビザの問題です。F1 student Visaではapplicationさえ受け入れてもらえない学校もあるので、どこの学校なら受け入れてもらえる可能性があるのかを十分にリサーチをした上でアプライすることが大切になってきます。公立の学校に関しては、州にもよりますがその州内出身もしくはその州に住んでいる生徒を優先して入れるため、アメリカ人であるないに関わらず”out of state”の学生の入学が困難な場合もあります。またアメリカにはMDプログラムとMD/PhDプログラムと二種類ありますが、MD/PhDプログラムだと受けられる場合もあるようなので、もしリサーチに興味があるなら両方視野に入れた方がいいかもしれません。またinternational studentsを受け入れても、international studentsはstudent loansにアプアイできない学校も多く、自費で学費を全て払わなければいけないことがネックになる場合もあります。二つ目はアメリカのメディカルスクールに入るためにはMCATで高得点を取ることは必須ですが、その他にも学校の成績や成績以外のextracurricular activities(ボランティア活動、リサーチ、スポーツ等)や推薦状も考慮されるので、日本の学校を出た場合そういった点も抑えておく必要があります。またInterviewでは、どうして医師になりたいのか、その意思を確かめるために今までどういう経験をしてきたのか、などの質問をとことん聞かれるのでそういう質問に自信を持って答えられるよう準備することも大切です。 最近は大学から医学部に直接行かず、リサーチをしたり働いたりしてから医学部に行く方も大勢います。アメリカの大学から医学に行く場合、基本的に何学部を卒業してもいいのですが、サイエンス専攻でない場合medical schoolにアプライするためのprerequisites (biology, chemistry, organic chemisty, physics, labs etc)はとる必要があります。

      私の場合、高校1年までは日本で高校に通い、高校2年からアメリカの高校に編入したのでずっとstudent visaだったのですが、大学在住時にたまたま父の仕事の関係でgreen cardを手に入れることができたので、その点はとてもラッキーでした。また私の場合、アメリカでmedical schoolを受ける決心を最終的にしたのは大学2年の終わりから3年に上がる頃だったので、大学と医学部の間にリサーチを1年して修士号までとってからアプライしました。Exracurricular activtiesは、学校の合間に子供病院でボランティアをしたり、医師についてまわるshadowing programをしたり、夏休みの間はラボでリサーチをしていました。また学校のテニスチームにも入っていたので毎日2時間の練習プラス時期によっては毎週末遠征で非常に忙しかったのですが、実際にmedical schoolにアプライする際にはそれもプラスになった気がします。

      2. 今の段階でアメリカ以外の医学部からアメリカのresidency programにアプライしてアメリカで研修医として働くことも可能ですが、年々難しくなっていると聞きます。私の知り合いは日本の医学部を卒業し、アメリカに来てUSMLE step 1, step2を受け、レジデンシーを受けたのですが、何年かこちらの大学病院でリサーチをしながら、何度か挑戦の末、晴れてレジデンシーに合格しました。難易度はどのプログラムを受けるかと何科を受けるかによっても違ってきます。こちらのレジデンシーは科によって、受け入れ人数が全然違ってくるため、受け入れ人数が少なくてアメリカ人でも入るのが難しい脳外科などはアメリカ以外の医学部から入るのはかなり厳しいと思います。

      ニューヨークのbeth israel hospital の日本の若手医師の米国派遣プログラム(N program)などもありますが、まだあるのか、またbeth isralは近々閉院が決まっているため今後このプログラムがどうなるかなどはちょっとわかりかねます。またアメリカの外国医学校卒業者認定機関 ECFMG(Educational Commission of Foreign Medical Graduate)は今まで日本の医学部卒業生にUSMLEの受験資格を与えていたのですが、2023年より米国のLIaison Committee on Medical Education (LCME)や世界医学教育連盟(WFME)の基準により認証を受けた医学部の卒業生でないとUSMLEの受験資格がもらえなくなるようです(http://www.ecfmg.org/about/initiatives-accreditation-requirement.html)

      長くなりましたが、私の経験をもとにわかる範囲で回答しました。私はアメリカに来た時にほとんど英語が話せなかったこともあり、高校でも大学でもアメリカで医学部に行くのは無理だと何度も何度も色々な人から言われましたが、気にせず自分の道を突き進みました。頑張って下さい。応援しています。

  4. miyu より:

    返信ありがとうございます。メールで返信の通知が来るのだろうと勘違いをしていて、非常に遅くなってしまいました。申し訳ありません。
    わざわざここまで丁寧に教えて頂きありがとうございます。とてもためになりました。

    色々と考えた結果、高1から受験勉強を頑張ってきたことやリスクなども考え、日本の医学部に行ってから、アメリカで医師になることを目指そうと決心しました。医師になる、という1番の優先順位を考えると、 まずは日本で医師になってからの方が確実な道だと思いました。麻衣さんのアドバイスのおかげで、腑に落ちない部分がなくなり、決心することができました。何度もしつこいようですが、ありがとうございます。

    今後も、自分の目標を目指す上で何か分からないことがあれば、またアドバイスを頂けたら幸いです。自分が目指す上でアドバイスを頂けるような機会があることは非常に頼もしいです。自分が医師になるのは、ずいぶん後ではあると思いますが、いつかご縁があり、アメリカでお会いできたら嬉しいです!

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