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宮田(野城)加菜

ブログについて

日本の医療、在米邦人の方々の医療に少しでもお役に立てるよう、情報を発信していきたいです。

宮田(野城)加菜

東京医科歯科大学医学部を卒業後、腎臓内科研修を開始。在沖縄米国海軍病院を経て2011年夏よりアメリカ、ニューヨークにて内科研修後、ロサンゼルスにて腎臓内科専門研修を行い、指導医となりました。

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(この記事は、2016年4月6日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に寄稿されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)

近年は日本でも女性医師の割合が増え、妊娠・出産のタイミング、子育て、復職に関してしばしば話題になっているのを耳にします。社会や職場の理解が以前より得られるようになったとはいえ、実際のところは女性医師本人にとってもそれを支える周りにとっても、とても難しい問題です。

アメリカでは医学部卒業生の約半数は女性であり、さらに4年生大学を卒業してから医学部入学までの間に他の仕事に就いていたという人も多いため、卒業時の平均年齢は日本の医学部卒業生よりも上です。そんなこともあり、レジデント(研修医)やフェロー(専門研修医)のトレーニング中に子供を産む人もよく見かけます。私が在籍したニューヨークでのレジデンシープログラムでは、1学年男女合わせて30人ほどのレジデントがおり、どの学年でも1-2人がレジデントの間に妊娠、出産を経験していました。私の場合は、渡米してから3年間の内科レジデントを修了し、腎臓内科フェローシップに入ってから2年目で出産を経験しました。日本からの臨床留学者で、しかもトレーニング中に出産を経験するというのはとても稀だと思われますが、後に続く人も増えていくかもしれませんので、参考に体験談を記載しておきたいと思います。

フェローというのはレジデントの次に下っ端であり、病院の重要な働き手です。臨床、研究、様々なプレゼンテーション、専門医試験のための勉強、など、とても忙しい毎日を送る数年間です。妊娠してからもフェローとして働きながら、周りの人(特に、同僚フェロー達)にできるだけ迷惑をかけないまま働き、無事に出産に至るためには、何よりも入念な準備、計画、早めの上司との相談、がキーとなるでしょう。

まずは予定日前後のローテーションを見て、出産が早まっても遅れても、業務に支障がないような仕事の調整。州の法律ではどれほど出産前後に休みが取れるのか、バケーション休暇や病欠の日数などを足して病院からは一年に最大何日間休みが認められているのか、などの調べもの。フェローシップを同期の皆と同時に卒業するか、もしくは1カ月ほど延長してでも休みを取るか、家族や上司との相談。アメリカでは日本のような産休や育休制度は特にありません。もっと一般的にFMLA(family medical leave act;家族もしくは本人の病気や出産に伴う休み)といい、年間最大12週間まで無給で休暇を取る権利を認める法律があり、これを産前・産後の休暇に充てることになります。有給で産休・育休が取れるヨーロッパや日本がうらやましいところです。アメリカで周りの女性医師たちに聞いてみると、出産直前まで働いて、産後は経膣分娩で6週間、帝王切開で8週間ほど休みを取るのが一般的とのことでした。1カ月ほどで復帰している人もいましたが、親が近くにいてサポート体制が整っているからこそ可能だったとのことでした。明らかに産前よりも産後が大変でしょうし、少しでも産まれた赤ちゃんと過ごす時間を長くしたかったので、私も産前の休みはなく予定日前日まで働き、予定日より8週間の休みを申請することにしました。ただし、トレーニング中の医師は予定通りローテーションを全てこなさなくてはなりません。年に認められたバケーション休暇は2週間が2回、それに昨年使わなかった病欠と今年も使わないであろう病欠を両方足しても8週間には足りず、私の場合は皆より数週間フェローシップ卒業を伸ばさせてもらうことにしました。もちろん、予定日ちょうどに子供が生まれる確率は5%と言われていますので、出産が早まったら早まったでその分休暇を増やしてフェローシップ期間を伸ばせばよい、と考えていました。

ただし、出産後の今考えると、12週間休みが取れるのであれば12週申請すればよかったかなと思っています。私が気にしたことは、やはり同僚フェローたち。フェローは私を含めて6人。お互い大変な時はカバーし合いながらも、外来も病棟も仕事量はいつも平等に分けてきています。夜間のオンコール・緊急透析当番は妊娠中期に多めに取ることで、年間での回数を同じだけこなすよう調整できました。しかし、週に4回ある専門外来(腎炎・高血圧・腎移植・腹膜透析)は、毎回次から次へと積み上がっていくカルテを上から順に取っては患者さんを診ていくというシステムであり、一人フェローがいないだけで他の先生の負担が増えてしまいます。多くのアメリカ人は権利は権利として気にしないのかもしれませんが、人に迷惑をかけたくないと思ってしまう私は、長く産休を申請することは遠慮してしまったというわけです。

また、産後の期間が短くはなりますが、産前にも1週間ほど休みを取るパターンでもよかったかもしれません。私は上司と同僚の配慮に恵まれ、妊娠39週目の1週間は、病棟はなく毎日外来というわりと楽な仕事にしてもらいました。大きなお腹を抱えて階段を上ったり下ったり、病院中に散らばる自分の入院患者さんを診に行くのはそれだけで大変なのです。重いカルテも全て同僚フェローたちが運んでくれましたし、1回で3時間ほど歩き続けることになる透析室の回診は私だけ椅子に座って楽に回らせてもらいました。おかげでそこまで大変ではありませんでしたが、仕事内容によっては39週目は通常通り働くのはしんどいかもしれません。

実際には、入念に計画立てたことを察したのか、息子は予定日に生まれてきてくれました。陣痛が始まって仕事を終え、その夜入院、翌朝出産という形となりました。(つづく)

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