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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

(この記事は2015年6月号(vol117)「ロハス・メディカル」 およびロバスト・ヘルスhttp://robust-health.jp/ に掲載されたものです。)

米国では3人に1人が肥満、16人に1が極度の肥満(身長170cmだとそれぞれ体重87kg、116kg以上)であり、今後も肥満人口の割合は増加していくと予想されています。全体の人口が約3億人なので、1億人が肥満、2000万人ほどが極度の肥満であり、控えめに見ても恐ろしい数字です。

“健康的な食生活と適度な運動で肥満予防”という一見正しい解は、文化的、社会的障壁に遮られ、短期的には実現不可能です。例えば、小さいころから肉とパンとジャガイモで育った人たちは、急に野菜中心の食生活に変えられません。そういった食物と比べて野菜の値段はとても高く、経済的にも野菜を買うのは困難です。また、職場に甘い物を差し入れることが喜ばれ、クッキーやケーキが毎日のようにどこかに置いてあります。こういった文化や習慣を変えようと、小学校の給食を健康的なメニューにし、校内で炭酸飲料を買えないようにするなども試みられていますが、健康的な生活を促す施策は、大事な一歩一歩であるものの、速効性に乏しいのが現状です。

こんな状況を見かねてか、米国医師会は肥満を“病気”と定義することにしました。というのも、肥満を生活習慣の問題だと捉えると、“本人の努力不足”に原因を求める論調がどうしても残り、効果的な解決策を議論する支障になっていたからです。実際、一旦肥満になると体内の代謝調節機能が変わり、正常な体重に戻すことが本人の意思だけでは困難になると考えられています。肥満を医学的な問題と定義し直すことで、肥満につきまとう(個人の責任という)負のレッテルを緩和しようと試みたのです。

肥満を病気とみなせば、それを手術で解決することへの心的抵抗も減らせるかもしれません。私自身も以前は、減量手術(脂肪吸引ではありません)は問題の本質から目を背けているようで疑問に思っていました。しかし、数々の研究で、生活習慣を改善しようとする介入では一年に4-5kg減らせれば御の字という結果が出ている一方、代表的な減量手術である胃バイパス術を受けた人は一年で体重が30%も減り、3人に2人は血糖値やコレステロール、血圧が正常化したという結果を見るにつけ、再考を余儀なくされました。それら多くの患者さんで服用薬の数が減り、生活の質が上がっています。今現在病的肥満で苦しんでいる患者さんを助ける解決策として、減量手術は頭一つも二つも飛び抜けています。事実、米国で減量手術を受ける人は年々増えており、2013年には18万人が手術を受けたと推定されています。

肥満の本質的な解決は、健康的な生活を送りやすくする社会インフラや制度の構築であるという考えは、今でも変わっていません。一方で、病的肥満の患者さんに対して、手術という選択肢は、冠動脈バイパス手術などと同様、医学的根拠に基づいた効果的な治療法として提示され、医学的適応に基づき実施されるべきだと思います。

2件のコメント

  1. 1億人が肥満だとは本当に驚きです。学校でも肥満が問題で、子供達に運動を奨励しようとは言っていますが、小学校の体育の授業は週に一度、45分だけです。(少なくとも私の働く学校では)スマートフォンやタブレットの普及によって、外で遊ぶモチベーションが莫大な量の楽しいゲームを超えなければならなく、ますます体を動かすお子さんと、そうでないお子さんの差が開いていきます。学力向上へのプレッシャーはあがるばかりでなかなかカリキュラムを変えるまでにはいたらず、各家庭が、安全な場所で運動に参加できる経済状況であるかどうかも、鍵になってしまいます。。。(もちろんそうではない地域もあるとは思いますが)難しいですが、しっかりと向き合う必要のあるトピックだと思います。

    • 体育が週に一回とは厳しいですね…小児肥満は将来へのリスク蓄積が大きく本当に深刻な問題です。社会経済的格差が肥満リスクに反映されることで、経済格差だけでなく健康格差も世代を超えて温存される構造には危機感を感じます。
      やっと小児肥満率は横ばいから減少傾向に転じていますが、小児期に肥満リスクを格差のない形で解消していくことが、アメリカにとっての喫緊の課題であると思います。

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