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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

(この記事は2015年3月号(vol114)「ロハス・メディカル」 およびロバスト・ヘルスhttp://robust-health.jp/ に掲載されたものです。)

日本で救急車の「たらい回し」が問題になって久しいです。軽症でも救急車を呼ぶからいけない、救急車を有料化すべきだ、病院の医師不足が問題だ、救急指定病院が受け入れを断るのがおかしいなど、様々な意見があると思いますが、そもそもなぜたらい回しが起きるのでしょうか? 答えは、まず間違いなく、”現場の救急隊員が担当の医師や看護師と搬送の交渉をするから”です。搬送受け入れが可能かどうかの決定権が、現場の医師や看護師に委ねられている限り、残念ながら、この問題は解決しないでしょう。

米国では、救急車のたらい回しが基本的には”起こり得ない”仕組みになっています。地域によって差異はありますが、共通して、病院にいる医療従事者は搬送を受け入れるかどうかの決定権を持ちません。彼らが決定権を持たない代わり、一つの病院にキャパシティを大きく超える数の患者さんが一気に搬送されないような仕組みがあります。

例えばメイヨークリニックがある地域では、日本で言うところの「消防指令センター」があり、そこが地域全体の救急通報を受け、救急車や救急ヘリの出動を指揮します。日本と異なるのは、この指令センターが、現場の救急隊員からの情報を元に搬送先も決定することです。搬送先の選定にあたっては、重症度や専門的治療の必要性の有無はもちろんのこと、患者さんの要望も判断基準とします。また、心肺停止や心臓発作など超緊急の場合には最寄りの医療機関に運ぶなど、病態に応じたプロトコールが定められています。病院側は、救急室の混雑具合を常にモニターしており、状況に応じて”黄信号”や”赤信号”を送ることで、指令センターは救急車の振り分け具合を調節できます。ここで大事なのは、指令センターが搬送先を一意的に”決定”することです。救急車搬送の度に医療機関側へ”お伺い”を立てることはありません。

日本でも、沖縄県では95%以上の救急車が1回目の照会で搬送先を決定できており、たらい回しがない県として有名です。私が働いていた沖縄県立中部病院では、救急車を”断る”という概念はありませんでした。したがって基本的に、搬送要請は受け入れと同義でした。現場の医師が受け入れ可能かどうかの決定権を(この場合は自主的に)行使しないことが、たらい回しを起こさない実効力のある方策なのです。

日本では、搬送先の選定をしやすくするため、現場の救急隊員に病床や当直医の最新の状況を随時提供する取り組みもなされていますが、残念ながらこれはたらい回しが起こる根本原因に介入しないため、正しい解決方法ではありません。もちろん、「消防指令センター」が救急車搬送の全権を握るような仕組みの導入には困難が伴うでしょうし、日本のシステムに合わせた調整が必要になるでしょう。しかし、”緊急時に使うはず”の救急車の搬送先が見つからないことで治療が遅れてしまうリスクは、最小化すべきだと私は考えます。

1件のコメント

  1. 反田先生の掲載された記事を読んで懐かしく思い出しました。私は沖縄のとある病院で看護師として勤務していました。その病院は、二次救急の病院で、夜間救急搬入も頻繁にありました。ある晩、臀部にパイプが刺さり緊急手術が必要な患者さんが運ばれてきたのですが、診察後、外科医の当直医は「県立中部病院へ運ぼう」と、再度この患者さんをストレッチャーに乗せて、いわゆる〝たらい回し”が行われたのでした。かわいそうなのは患者さん。直径4cmのパイプが大臀筋を貫通しており、動かすたびに悲鳴をあげていました。この患者さんのアセスメントがしっかり救急車内でなされていたなら、この無駄な時間も苦痛も回避できていたでしょう。
    今私は米国でEMTをしています。ここではTRAUMA=STRIP NAKEDなので、MVAの現場などでは、すぐはさみで服を切って短時間で確実なアセスメントを行っています。そして、無線で病状報告して必要時は特殊チームのactivate要請を行ったり、AIR MED の要請をしています。
    今思えば、あの時の臀部にパイプの刺さった患者さんは服を着たままで、傷の確認は病院到着後でしたね。

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