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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

(この記事は2013年2月号(vol89)「ロハス・メディカル」 およびロバスト・ヘルスhttp://robust-health.jp/ に掲載されたものです。)

メイヨークリニックを初めて訪れたとき、どことなく病院に来た感じがしませんでした。確かに美しい建物のデザインと、ホテルのような広いホールは、病院らしくありません。しかしそれ以上に、病院で当たり前に見る物が欠けていました。それは白衣です。見渡す限り、誰ひとり白衣を着ていなかったのです。スクラブを着ている人、車椅子に乗った人は多くおり、そこが病院であることは間違いありませんでしたが、白衣のない風景は少し不思議な感じがしました。

メイヨーで医師は伝統的に白衣を着ません。男性はスーツにネクタイ、女性もドレスシャツなどビジネススタイルです。ワイシャツ、ネクタイの上に白衣というスタイルは他の病院でも多くありますが、白衣を着ないスタイルが徹底されている病院は米国でも珍しいです。規定では白衣を着てもよいことになってはいますが、ほとんどの医師はスーツに聴診器をかけています。外来でもスーツを着た医師が診察するので、初めて訪れた人は驚くのではないでしょうか。

聞いた話によると、白衣を着なくなったのはメイヨークリニックの創設期にさかのぼります。患者に最高の医療を提供するためには、医師の服装を含めた見た目も大切であると、クリニック創設者のメイヨー兄弟は考えたようです。フォーマルな服装はプロフェッショナリズムを体現し、患者への尊重を示すことにつながります。医師は白衣をまとった特別な存在ではなく、目の前の患者に奉仕するメイヨーの一員として振る舞うことを期待されています。

白衣を着ない効用は他にもいくつか考えられます。

一つは、白衣がもたらす病院のイメージと、患者の精神的な負担です。白衣高血圧(医師の前で血圧が上がること)と呼ばれるように、白衣を着た医師の前では、多くの患者はリラックスできません。小児科医には白衣を着ない人がいますが、それも子どもに白衣の怖いイメージを与えないためです。また、白衣を着た人が多くいる病院は患者にとって「特別な」場所です。白衣を環境から取り除くことで、病院をできる限り「日常的な」場所に近づける効果があるのではないかと推測します。

もう一つは、白衣の清潔度です。過去にいくつかの研究がありますが、白衣は多くの場合あまり清潔ではありません。毎日白衣を洗濯する医師はむしろ珍しく、外向けのコートのように洗わずに着続けることが多いです。長い白衣の袖口や裾は特に汚れやすく、そのため医師は短い袖や丈の白衣を着るべきではないか、という議論もあります。清潔さを保つためには、むしろ白衣を着ない方が理に適っているのかもしれません。

医師にありがちなことに、今まで日常的にスーツを着ることがなかったので、今年まともなスーツとワイシャツを買い揃えました。慣れてしまうと結構快適で、スーツ姿でいることで自分がメイヨーの一員だと感じるのだから、不思議なものです。

2件のコメント

  1. 市民もそれを受け入れてくれているのが、さすがアメリカってかんじだね。
    医師がきれいな病院でぴしっとしてたら、患者さんも自然とぴしっとしてくれそう。

    でも、清潔を保つためにっていうと、スーツとシャツも清潔ではないんじゃない?
    シャツは毎日変えられるとしても。。
    私は白衣を着るのは、少しでも医師と思ってもらえるように(着ててもなかなか認識してもらえないけど)と、自宅に菌を持ち帰らないためって思ってるよ。

    ちなみにスクラブは何科の先生が着てることが多いの?
    やっぱ外科かな。

    • 確かにその通りかも…外科の先生やナースはスクラブを着ていることが多いかな。

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