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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

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(この記事は2012年3月9日 CBニュース http://www.cabrain.net/news/ に掲載されたものです。)

 

米国で研修を始めて、まず驚いたのが医師の働き方です。今回はそれが日米でどれほど違うのか、実際の例を交えながら紹介したいと思います。

■研修医は、米国の方が「楽」?

まず研修医ですが、ACGME(全米の研修プログラムを統括する組織)の規定により、週に80時間以上働いてはいけません。規定では、24時間当直明けには必ず休む、週に一日は休みを取る、シフトの間は8時間以上空けるなど、細かく働き方が定められています。一日に担当する入院数にも制限があり、一年目のインターンであれば新規入院5人までなどと決まっています。さらに最近の改訂により、一年目は24時間続けて働くことが全面的に禁止されました。この規定は、研修医が働きすぎると注意が散漫になり、ミスが増えるという研究結果に基づいています。しかし、申し送りが多くなりケアの連続性が途切れる、研修の教育効果が薄れるなど、実際により良い医療の提供につながるかについては議論もあります。

研修プログラムによっても異なりますが、病棟での一週間の働き方の一例は以下の通りです。平日は朝7時-17時、そのうち水曜日は20時までオンコール。週末は土曜日が朝7時から20時までオンコール、日曜休み。日本の初期研修では月に10回ほど当直をしていたわたしにとって、実際にこちらで働いた印象は、とにかく楽。もちろん残業することはありますが、日本の研修に比べたら天と地の差です。そもそも日本では終業時刻も、残業という概念もないようなものですから。

きちんと睡眠が取れ、研究やプライベートにあてる時間が取れるので、ほとんどの研修医は週80時間の制限を好意的に受け止めている印象があります。それでも普通の週40時間労働に比べると倍ですから、「まだ働きすぎ」と思っている人もいるようです。わたしに言わせれば、「これで働きすぎ?何言っているの?」という感じですが、日本での働き方を同僚に伝えると「それはクレイジーだ。人間的じゃないよ」と言われます。確かにその通りで、毎日朝から夜遅くまで病院で過ごし、夜は院内寮で寝る生活。当時は楽しんでいましたが、もう一度それをやれと言われても、こなす自信はありません。

米国での研修は働く時間が短い分、臨床経験を積むには少し物足りない感じがあります。しかし、そのおかげで家族と過ごす時間が取れ、将来に向けて研究したり勉強したりする時間が取れるのも事実です。個人的には、そのような時間が取れることにとても有り難みを感じています。

■ホスピタリストの平均労働日数は、一年の半分

次に指導医ですが、ここでは日本の勤務医にあたる「ホスピタリスト」と呼ばれる職種に限定して話をしたいと思います。ホスピタリストは病院と契約しますが、働き方は職場と人によって千差万別です。病棟を一カ月ごとにローテーションして担当し、たまに週末に当直をこなすという働き方。夜だけ働くという働き方。また、一日12時間のシフトを7日こなして7日休む、7 on/ 7 offと呼ばれる働き方。仕事のきつさは職場によって異なるようですが、ホスピタリスト学会の調査では、年間労働は平均で約187シフト、1シフト10.8時間となっています。一年365日のうち、約半分くらいしか働いていないことが分かります。夜間働く場合はシフト数が少なく、1シフトが長くなります。そして年間一カ月程度の休暇はほとんどの場合保証されているようです。

一日に担当する患者さんは、15-25人くらいが一般的なようです。もちろんそれを超えることもあるようですが、例えば50人という話は聞いたことがありません。日本に比べると、少ないという印象を持たれるのではないでしょうか。一日に担当できる人数が少なくなる理由の一つには、平均入院日数の短さが挙げられるでしょう。病院での平均入院日数が4-5日ほどなので、一日に診る患者さんの20-25%ほどは新規入院です。急性度の高い患者さんが多くなるので、一人にかける時間もおのずと長くなります。もう一つの理由には、シフト制の働き方が挙げられると思います。自分が主治医で同じ患者さんをずっと診るのと違い、患者さんの全体像を把握するのに時間がかかることが多くなります。

■のしかかるプレッシャー―訴訟リスクは日本とケタ違い

何年目になろうと、ほとんど休みなく働いている日本の指導医を知っているわたしから見ると、ホスピタリストの働き方はずいぶんと楽なように見えますが、皆一様に「病棟で働いているときは、かなりきつい」と言います。研修医とは違い、自分の責任で最終判断を下すこと(しかも多くの場合は面識の少ない患者さんに対して)、日本とはケタ違いの訴訟リスクを常に意識しないといけないこと、何か間違いがあれば自分の医師人生に関わること(訴訟などあれば医師免許に記録が残りますし、インターネットでも簡単に検索可能です)、などを考えると、確かに常に相当のプレッシャーの中で仕事をしているのでしょう。QOLは確かに高くなりそうですが、実際にそのような環境でホスピタリストとして働きたいかと言われると、悩ましいところです。

1件のコメント

  1. 私が体験したことですが、入院していて患者が先生の健康を心配するほど医師は働いています。医師になることは身体が丈夫でなければ出来ない仕事のように思いました。

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