この前の夜勤はあまりにも忙しすぎた。朝5時になっても、受け持ち患者の人数は8人以下に減らないし、診察を待つ患者はまだ4−5人居る。こんな時に限って重病人がくるのが救急の宿命。C先生には80歳の胸痛、73歳の頭痛、脳内出血疑いの65歳が一度に来る。私には39度の熱を出した3歳児、大腿骨骨折疑いの68歳、衰弱した56歳が来た。まず最初に子供の診察、次に68歳の診察、最後に56歳の診察。
この56歳の患者は、私の記憶に残る患者となった。4日間のクルーズに行った途端、下痢が始まり、殆ど飲まず食わずで、4日過ごした後、16時間離れた自宅に向けて帰路。しかし、呼吸困難と衰弱がひどくなり、途中で泊まってうちの救急に来たとの事。さらに話を聞くと、心不全のため、心臓移植待ち。かなりの衰弱、尿も殆ど出てないと、思ったより重病だった。カルテを書く時間もないので、看護師さんに口頭オーダーで血液検査、心電図やレントゲン等を頼む。その間に、扁桃腺、風邪気味など軽傷患者の診察とディスチャージ。やっと、カルテ書けると思ったら、看護師が56歳患者の心電図を持ってきてくれた。時間を見つけて、C先生と一緒に心電図を見る。トロポニンはネガティブ。お互い”心臓は今の所、大丈夫みたいだね”と納得する。カルテを書こうと思ったら、又看護師から、クリティカルラボの結果を聞かされる。なんと、カリウム8!続いて血液尿素窒素が155/クレアチニン9、二酸化炭素12、ヘモグロビン9/ヘマトクリット27、アニオンギャップが20、pHは7.1、HCO3-11。急いで、グルコン酸カルシウム(Ca gluconate)、ケイキサレート(Kayexelate)、デキストローズ50(D50)、インスリン、アルブテロール(Albuterol)を頼む。脱水症状からの急性腎不全と代謝性アシドーシス。しかし、心不全で左室駆出分画(EF)が15%の為、点滴の量にも制限が出てくる。まずは500ミリから始める。その前に体温を計ってもらうと、これも又なんと34度。Bair HuggerとIV warmerを頼む。この間に、整形科当直医に68歳大腿骨頸骨骨折の連絡と入院オーダー。当直医に連絡し、ICUへの入院オーダーを書き、点滴の量を相談する。その後、腎臓科当直医に、脱水症状からの急性腎不全、高カリウム、代謝性アシドーシスと尿細管性アシドーシスのコンサルトを頼む。3歳児は、膀胱炎、しかし、嘔吐なし、タイラノールをあげた後、熱も下がり、食べたり飲んだりして遊んでいる子だったので、抗生物質をあげ、バイタルサインが正常な事を確認した後ディスチャージする。しかし、家に帰ってもこの56歳の患者の事が頭から離れなかった。次の夜、コンサルトと当直医のカルテを読むと、この患者は緊急人工透析に入り、その後の血液尿素窒素は70近くまで落ち、カリウムは正常値に戻ったらしい。
夜勤が終わった後、やっぱり気になって、ICUに様子を見に行く。私の顔を見ると、”救急の先生だよね。昨日の事は何も覚えてないけど、君の顔だけは覚えてる。目が覚めたらICUにいた。俺の命を助けてくれてありがとう。君の看護師さん達にもありがとうと言ってくれ。この病院に来てよかった。”と言って、泣きながらハグをくれた。目頭が急に熱くなった。早く良くなって、家に帰ってねと言うと笑っていた。今度のシフトに入る前までに、彼が退院している事を願ってやまない。もう二度と会う事もない患者からのありがたい言葉。これだから医療はやめられない。
ブログについて
日本にはないミッドレベル医療従事者(Mid-Level Provider)が、どういう風に医療貢献できるか、勤務経験を元に書いていきたいと思います。
ノール玲子
医者でもない看護師でもない、ミッドレベル医療従事者—フィジシャンアシスタント(PA)。アルダーソンブローダス大学PAプログラム卒業後から救急医療科勤務。
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玲子さん 素晴らしい体験紹介してくれてありがとう。こういう話を聞くと、自分も初心に帰ってしっかり医者をしようと思います。患者さんから「ありがとう」と言われることほど嬉しいものはありませんよね。私たちの病棟でもPhysician Assistant (PA)やNurse Practitioner (NP)達と一緒に働いており、彼女にはいつも助けられていますし、その仕事ぶりにはいつも感心させられます。日本にも、このようなチーム医療ができれば良いのに、と常に思っています。これからも、いろいろ話を聞かせて下さい。
津田先生、コメントありがとうございます。患者さんから「ありがとう」と言われるのは本当に嬉しいです。後はやっぱり、子供の笑顔です。シャイな子供が笑顔を見せてくれたり、ハグをくれたりすると、とても癒されます。
実は今、日本でもPAのようなプログラムが出来つつあります。2−3年前に、日本から心臓外科の先生方5人程アトランタにいらっしゃって、Emory University PA programとEmory University Hospitalを見学なさりました。 NPは大分で始まっていますが、厚生省の認可がまだらしいそうです。”特定看護師”と呼ばれてます。後は、東北厚生年金病院の病院長である田林先生が、看護師さん一人を、医務局に入れて、彼の右腕になるようにと、PAとして教育とトレーニングをなさってるはずです。日本でのPA起立には、自分も少々お手伝いさせていただきましたが、まだまだ先は長いです。
日本でのPA, NP制度設立に賛成です。アメリカではPA,NPなしに医療は成り立たないですよね。
佐々木先生、そう言って頂けると嬉しいです。日本では、”白黒はっきりさせないと”と言う感じで、”あれは、させてはいけない、これもだめ”。医学会も結構、反対する先生方も多いそうです。もっと佐々木先生みたく、ポジティブな先生がいらっしゃったらと思います。
ノール先生に共感です。私は栄養士ですが、ほんとに「ありがとう」といってもらえるからやめられないんだと思います。私のフロアーにもPAが最近入りました。第3者的な観点でみると大活躍なのですが、賛否両論のようです。看護士が、医者に連絡するのをを怖がって(?)患者の状態報告やオーダー以来を引き伸ばしてタイミングを逃していたり、コミュニケーションが希薄になりやすい医師との連絡係「まで」してくれているように思います。私の立場で変ですが、PAは、患者ケアの質をあげるにはとても大切だと認識しています。素敵なストーリーを紹介してくださってありがとうございます。
松本さん、コメントありがとうございます。自分の立場からしてみると、Mid Levelは医師と看護師の本当に中間にいるよなーって気がします。実際看護士も、医師が忙しい時にでも、
ミッドレベルが”つかまりやすい”とよく言われます。やっぱり医師の先生方は本当にお忙しいですから、そのお仕事を少しでも楽にするのが、それが連絡係であっても、私達の仕事だと思います。
ノールさん、とても感動しました。私は日本の救命救急センターICUで看護師をしているものですが、同じような体験をしたことがあります。日本ではNPに似て非なる特定看護師という看護師の創設に動き出していますが、日本においてもMid Levelの医療従事者は必要だと、日々感じています。医師会の既得権を守ろうと必死になっていますが、患者さんの立場になって特定看護師の必要性を考えてほしいものです。4月から特定看護師養成の大学院に進学予定なのですが、特定看護師がNPとなれるように先駆者として頑張りたいと思います。