久しぶりの更新となります。2015年にテネシー州に異動してから早4年近くが経過しました。無事にアメリカ小児神経内科専門医に合格して、小児てんかんフェロー生活もあと1か月で修了を迎えます。テネシー州での生活もあとごくわずかとなりました。
アメリカで臨床留学して良かったことは数多く挙げられますが、そのうちのひとつはグローバルな交流ができたことです。人材はすなわち「人財」です。加速する医療界の変化についていくためには、視野を国内に留めずに海外まで広めて、あらゆる情報を吟味して取捨選択しなくてはいけません。ここアメリカで小児科・小児神経科疾患に携わる多くの方々と一緒に働くことができたのは、私の大きな財産になりました。また、テネシー大学から、神経関連の本を2冊翻訳出版もすることができました。おかげさまで多くの方々の注目を集めて好評のようです。
アメリカ神経内科専門医試験ワークブック 模擬問題1,000問解答と解説
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チョードリー先生と学ぶ小児神経画像エッセンシャルズ
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私が渡米した後も、日本の医療業界では人手不足、医療費の高騰、多様な働き方の導入、新専門医制度の問題などが変わらず山積みとなっており、医師・患者双方にとって好ましくない状況が続いています。こうした問題はアメリカでも多々存在しますし、日本に比べると社会的な問題がより複雑に絡み合うことが多い印象があります。「日本で少なく、アメリカで多く診る小児神経疾患は何ですか?」とよく聞かれることがありますが、特に思い浮かぶ以下の3つの疾患が、こうしたアメリカの問題をよく表しています。
・銃による頭部外傷
・偽性脳腫瘍(pseudotumor cerbri)
・違法薬物(ドラッグ)による意識障害
メンフィス、特にダウンタウン周囲では、不幸にして銃やドラッグに巻き込まれるこどもが後を絶ちません(そのため、所得が一定水準ある住民は、メンフィスのダウンタウンから離れて住みます)。入院が必要となるこどもはほぼ例外なく、私が勤務するルボーナー小児病院に搬送されます。「偽脳腫瘍」とは、実際の脳腫瘍ではなくて、極度の肥満のために脳圧が異常に高くなり、頭痛を引き起こす疾患です。進行すると視力にも影響を及ぼして、失明する例もあります。私は日本では一例も偽性脳腫瘍を診たことがありませんが、ここでは日常茶飯事です。こうした疾患がこどもたちに存在すること自体が、アメリカの貧困、犯罪の多さを反映する闇の部分でもあります。解決への道はまだまだ困難なままです。
こうしたアメリカのこどもを取り囲む社会問題を目にしていると、日本の素晴らしさにあらためて気づかされます。そんな中、日本人である私がアメリカに来て小児神経科医をしている意味は何なのか。私がアメリカで小児神経科医として多くの人に出会った「点」を“未来”の小児神経医療において「線」につなげて、その意味を明らかにしていくのが将来の目標です。
以上、メンフィスからは最後となるルボーナー特派員のお知らせでした。
次にブログをアップするのは、日本からかアメリカからか。いつかみなさんとまたお会いできる日を楽しみにしております。