私たちが住むメンフィス郊外のジャーマンタウンにも、だんだんと陽光うららかな日が増えてきて、春の訪れを感じつつあります。2月も終わりに近づき、レジデントのマッチデイである3月18日が迫ってきました。どこにマッチするかでドキドキしていた昨年が思いだされます。
私は日本にいた頃、当初は主に急性期治療に興味があり、小児救急医もしくは小児集中治療医になろうと考えました。しかし、こどもができたことで、興味の対象が変わってきました。重篤な患児の治療が大事なのは無論ですが、小児科医にとって大きな醍醐味のひとつは、こどもたちの成長を時間をかけて見守ることです。私の興味は急性期治療から、こどもの成長・発達に移行して、結果として小児神経を専門にするに至りました。加えて、ベッドサイドでの医学生・研修医への医学教育は、自分のライフワークとして力を入れたい分野です。神経の異常部位はそのまま身体所見に反映されることが多く、問診・身体診察が診断と治療に大きく寄与します。神経科はベッドサイドでの医学教育にまさに適した分野であることも、最終的に専門科を決める一因となりました(何より、こどもたちの成長をみることは大きな楽しみであり、喜びですよね)。
アメリカと日本の小児科レジデント研修の違いをよく尋ねられるのですが、大きな違いのひとつは、アメリカでは小児の正常発達を徹底して教わることです。アメリカの小児科レジデントは指導医の下で、正常な粗大・微細運動機能、認知言語発達の過程を、生後数日から数週間、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月、15ヶ月、18ヶ月、2歳、3歳、4歳、5歳、6歳、そしてプレティーン, 思春期と、各年代でどのような成長が予測されるか、諳んずることができるまで徹底的に繰り返して学びます。事実、アメリカの小児科専門医試験では、さまざまな質問の中でも、発達が約5%を占め、もっとも大きな質問分野です。比して、日本では、急性期・病的小児の治療が主となるため、発達の研修がアメリカに比べると、おざなりになっている感を受けます。
アメリカで小児の成長・発達に興味を持ち、専門としたいと思う場合、主に「小児神経科(Child Neurology)」「行動発達科(Behavioral Development)」のいずれかに進むことになります。アメリカに来てから、この2つの専門科の違いについてよく尋ねられるので、ここにレポートします。
まず、これら2つの科の共通点は、両者とも発達障害・学習障害・自閉症を診療することです。小児神経科と行動発達科の大きな違いは、アプローチの仕方と対象疾患の幅の違いです。小児神経科は成人の神経内科と同様に、より解剖学・分子生物学に沿ったアプローチをします。単純に言うと「病変・病態」を突き詰める学問です。行動発達科は、より「心理的・社会的」アプローチを主にする学問です。
小児神経科の扱う疾患の方が圧倒的に多岐に渡ります。小児神経科は、上記の発達障害・学習障害・自閉症に加えて、てんかん・先天性脳奇形・脳出血・脳梗塞・脳腫瘍・神経変性代謝疾患・筋疾患など、多くの疾患の診断・治療学を学びます。そして脳波・神経筋電図・画像(脳脊髄)も研修します。3年間の小児神経トレーニング中はほとんど臨床トレーニングに明け暮れます。小児神経科は、他科フェローに比べるとリサーチ期間がほとんどなく、専門科の中でも忙しいフェローに属します。
それに比べて、行動発達科は疾患そのものを治療するというよりも、こどもの発達面、情緒面、行動面そのものを診療、介入します。基礎疾患の治療には直接関わることは少ないと思います。日本でいう心療内科の患者の一部も、行動発達小児科医は担当しており、心理発達についても、心理士や小児精神科と一緒に、各種専門科のチームで深くアプローチします。また、行動発達小児科フェローは小児神経科フェローに比べるとリサーチ期間が長く、時間の流れ方も緩やかです。