5. 自分との対話:レジデント修了後の進路がまだまだ見えてこない。というのも、私自身が確固たる目標をもって留学した訳ではないからだ。将来、やりたいことはたくさんあるのだが、具体的なプランが定まっていない。前ブログで述べたように、留学への単なるあこがれが先行していた面は否めない。でも、多くの方々の応援と励ましのおかげでここまでたどり着いた。
インターン最終月である2013年6月は adolescent (思春期学)のローテーション。アメリカの思春期の問題である非行・薬物・性感染症・避妊などについて学ぶ。更生施設や少年院にも行って診察する。日本の小児科ではなかなか学べない分野であり、貴重な経験を積んだ。
驚いたことに、アメリカの高校生の40%以上が薬物経験がある(特にマリファナ)。ハワイも例外ではない。ここで出会った17歳の子(といってもすでに1児の母)が、初診時に「あなたは日本人ね」と言ってきた。その理由が「“Marijuana”は(英語では)「マリワナ」と発音するの。私はワイキキのストリートでドラッグを売ってたけど、日本人はみんな「マリファナ」と発音するから、日本人だとわかるわ」。
このように、このローテーションでは家庭や周囲に問題がある子たちに出会う。驚いたことに、診察室では、こうした子たちが予想に反してとても素直で、(私のように英語が母国語でなくても)きちんと会話してくれる子がほぼ大多数である。社会的に行き場を失いつつある中で、心のどこかで平安と周囲とのコミュニケーションを求めているのだろうか。小児科医として、そして2児の父親として、考えさせられるローテーションである。
この思春期学ローテーション中に、助産師であった母が平素から「人は成育歴」と言っていたことが胸によみがえってきた。幼少期の親の愛情は自己肯定感に欠かせない。「私は親に愛されて育った、だから自分は生きるに値する人間だ」という魂の根源=自己肯定感は、通常の家庭で育てば、自然と備わるものである。人生では多々困難に出会うが、この自己肯定感がしっかり育っている子は、自分でそれを克服できる “resilience (日本語では「回復力」が近いか)” を期待できる。不幸にして物理的・精神的に親から断絶されたり、虐待を受けて育ったり、家庭環境に問題のある子には、この自己肯定感がうまく育たない。
だが、この世に完璧な親などいない。自己肯定感がどの子にも等しく十分に育つかといったら愚問だ。私自身、2児の父親となって、妻と必死に仕事と家庭をやりくりしている中で、「自分は無二の存在である」ことにやっと気づいた。自分の代わりは誰にもできない。そして、自分がこどもだった頃に、我が親がどんな気持ちだったかをたどり、子育てを通じてこども時代をもう一度生きなおして、未だ自分に足りない部分を補填している毎日だ。それを気づかせてくれた家内とこどもたち、そして両親に感謝している。
思春期ローテーションでそんな思いを抱きつつ、つらかったインターンの日々がまもなく終わりを告げる。レジデントはあと2年間!自分がアメリカまで来たことには何か意味があると信じて、今日もカピオラニ小児病院に向かう。
桑原先生、はじめまして。
University of Hawaii at HiloのPharmacy schoolに在籍中の沖直人と申します。今四年目で実はカピオラニ病院のInpatient pharamcyで実地研修してるんです。
桑原先生のこと、話では聞いておりました。前のRotationのときに、Outpatientで天野先生と一緒に働いていたんです。そして、実は沖縄時代だったときの同僚で僕の従兄弟がいます(笑)
Neuroの方に最近までいらしてたんですよね?NICUに僕も何回か行ったんですが、先生には会えず残念でした。
来週いっぱいまでカピオラニにいますので、是非いつかお話を聞かせてもらえると幸いです。アメリカでこうやって頑張って活躍されている医療従事者の方を見ると、本当にいい刺激をもらえることができ、そして嬉しい気持ちにもなります。自分もますますがんばらなくては。
それではどうか一度ご連絡よろしくお願いします。
沖直人
本当に返事が遅れてすみません。もうHiroに戻られたのでしょうか。沖縄時代にいとこ? 誰でしょう? カピオラニでお会いできなかったこと、本当にすみません。ぜひまたご連絡下さい。桑原功光