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バートン裕美

ブログについて

日本の看護のあり方に疑問を持ち、アメリカへ来ました。日本とアメリカの看護教育を受け、臨床の経験をし、そしてNPとなり、いろいろな角度からアメリカの医療を見ています。アメリカの医療はとてもフレキシブルで柔軟性がありますが、日本ではこのような変化はなかなかみられないようです。外へ出てわかる、看護の世界、内と外、そのような違いを現場のナースたちへ広めていければ、と思います。

バートン裕美

東京都出身。日本で看護大学卒業後、看護師・保健師の免許を取って3年クリティカルケアの経験を積んだ後に渡米。2001年にアメリカ看護師免許取得、フィラデルフィアの大学院にて看護改革・ビジネスについで学ぶ。2014年修士号後の認定証でファミリーナースプラクティショナーを取得。

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(この記事は、2016年9月23日に 活動的な高度な自律的なナースのための情報サイト 日経メディカルAナーシングhttp://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/anursing/に掲載されたものです。該当記事をご覧になるには会員登録が必要です。)
 

私は現在、アメリカ・テネシー州メンフィス近郊の大手食料品店系列のコンビニエンスクリニック「The Little Clinic」で、ファミリーナースプラクティショナーとしてクリニックマネージャーをしています。

「アメリカでナースになりたい!」という気持ちが強くなったのは大学時代のことです。英語ができることには憧れてはいましたが、英語だけでなくそれにプラスした技術を得ることで多文化に深く触れることができるのではないかと考え、ナースの道をまず先に選びました。東京都内の女子校から、新設の看護大学に入ったのはもう20年以上前のこと。大学では保健師と看護師の免許を取得し、都内の大学付属病院のCCU/ICU・救命で看護師として3年ほど勤務しました。その後、2000年にアメリカに渡り、米国看護師免許を取得しました。

カテ後のシース抜去やドレーン抜去も

アメリカの看護というのは、カルチャーショックの連続でした。日本の看護のスタイルとは異なり、ナースが強く、自信に満ちた人が多いのです。もちろん、知識も実力もある人がたくさんいました。患者さんもまた違いました。「国が違えば、こんなに違うものか」と驚くことがたくさんありました。 日本では言われたことを行っていればスムーズに進むことが多かったのですが、アメリカでは自分から「もっとこうすべきではないか」などと上司やドクターにも自分の考えを発言する機会が多く、アセスメント力が高く要求されました。ドクターたちもナースを頼りに治療方針を決めていくことがあり、ドクターのほしいデータを集めるような努力も必要でした。高度な技術も習得しなければならず、例えば日本では当時(20年前)、カテーテル治療後のシース抜去や胸腔ドレーンの抜去は医師が行っていましたが、アメリカではナースが行う手技だったので新しく覚える必要がありました。

私は、日本では主に循環器疾患の患者さんを担当していたので、1年ほど小さな病院で看護師として経験を積んだ後に、アメリカの循環器・心臓外科の病棟で6年経験を積み、2007年よりペンシルベニア州フィラデルフィアのドレクセル大学大学院に入りました。この大学院では、看護の改革、ビジネス、看護教育について学びました。アメリカのナースたちがどんどん進学できるのは、オンラインで勉強ができるという強みがあるからでしょう。もちろん、当時は基礎教育、UnderGraduateは通学するのが普通でしたが、大学院レベルである修士号と博士号はオンラインで受講できる大学が増えてきた頃でした。当時私は2歳の子供を抱えていましたが、フルタイムで働きつつ、3年かけて大学院を終えました。

風邪をひいてもすぐ診てもらえない不便さを痛感

大学院を終えてから日本向けの執筆やセミナーなどを行ってしましたが、ある時転機が訪れました。執筆活動などのためにいろいろリサーチをしていたところ、アメリカの医療プライマリケア、日本で言うかかりつけ医の数が減少していて、それを補うナースプラクティショナー(NP)やフィジシャンアシスタント(PA)が求められていることを知ったのです。自分も患者の立場になって考えてみると、風邪を引いたときにすぐ診てもらえない、医療機関の予約がなかなか取れない、予約が取れても受診は1カ月後になる、といった状況の不便さは感じていたところでした。

ナースプラクティショナーの仕事は私には向いていないと勝手に思い込んでいたのですが、ある時、子供と一緒に風邪を引いてしまい、予約なしで診察してもらえるクリニックに行った時、偶然にも日本で育ったハーフのナースプラクティショナーに会いました。彼女と話をしているうちにベッドサイドで行う看護もいいけれど、ナースプラクティショナーになるのも、看護の違う面を見ることができて悪くないかもと思うようになりました。その後、大学院修士過程のファミリーナースプラクティショナーコースに入学し、資格取得後、現在に至っています。 

今は、ナースプラクティショナーとして診察・処方をし、コンビニエンスクリニックの管理者として、クリニック設備、薬剤、臨床テスト資材などの在庫管理、スタッフの教育、そしてクリニック自体の宣伝、様々な健康サービス(スポーツの健康診断、インフルエンザの予防接種、旅行用の特別な予防接種など)のマーケティングなどを行っています。

アメリカの医療は一般的に値段が高く、患者さんにとっては負担が大きいです。そのため、一般のクリニックより安価で受診できるコンビニエンスクリニックが最近多くなっています。コンビニエンスクリニックでは、処方や処置が行えるナースプラクティショナーやフィジシャンアシスタント(PA)が診察を担当するため、比較的低額で医療を受けられます。また、一般のクリニックでは待ち時間が長くなることがありますが、コンビニエンスクリニックは予防接種や簡単な健康診断、風邪症状の診察といった軽症の患者さんを対象にしているため診察はスピーディーに行われ、待ち時間が少ないのも特徴です。急な発熱で診てもらえるクリニックがないような時も、夜遅くまで開いているので仕事を休むことなく気軽に受診していただけます。 コンビニエンスクリニックは民間の健康保険に加入している方も診察をしますが、保険に加入していない方向けにも低額な現金価格(診療費約89ドルから120ドル)を設定しており、その金額のみで診察を受けることができます。そのため、アメリカに旅行中の外国人の受診も可能です。

保険加入していても高額な自己負担が発生

このようなクリニックが流行るのは、アメリカの健康保険の状況に起因するところが大きいです。アメリカの医療保険制度はオバマ政権下の方針で徐々に国民皆保険に近づいてはいますが、健康保険の月額保険料が高額である上、「Deductible」という金額が設定されているプランが主流です。Deductibleとは保険が免責となる年間自己負担額のことで、保険が適用される前に自分で負担する金額を指します。一年の医療費のうち、この金額に達するまでは全額自費(医療の価格は医療機関や加入している保険などによって異なる)で支払う必要があり、Deductibleを超えて初めて、保険会社が医療費の支払いを始めます。ちなみに保険支払いが始まった場合の自己負担と保険会社負担の比率は保険によって異なります(自己負担は1~2割程度が多い)。例えば、健康保険料の支払いが月5万円、Deductibleが年間50万円といった保険プランがあります。毎月5万円の保険料を支払っていても、年間50万円までの医療費は全額自己負担で、医療費が50万円を超えるまでは自分の加入している保険会社からの医療費支払いはないというわけです。このようなプランは(Deductibleがかなり高額のため)High Deductible Planと呼ばれており、月額の保険料を抑えるためにこのような設定をした保険プランが多くなっています。

ちなみに、アメリカ大手の健康保険会社「Blue Cross Blue Shield」マサチューセッツ州のパンフレットによると、州やクリニックによって差があるものの、保険に加入している場合、風邪やのどの痛みなどで受診したときの1回の値段は130~180ドルと記載されています。 ただ、健康な人の場合1年間でDeductable自己負担額以上の医療費がかかることはなかなかないでしょう。保険を持たない方の中には、低所得で保険に加入できない人もいらっしゃいますが、「高額な保険料を払いたくない」「風邪を引いたときだけ現金で払いたい」と考え、自ら保険に加入しない方法を選択する人もいらっしゃいます。比較的若くて健康な人の場合、毎月保険料を支払ってさらにDeductibleとしてかなりの額まで自己負担をするのに比べると、保険を持たずに必要なときだけ安価なコンビニエンスクリニックを受診して自己負担で払った方が安く済むことが多く、経済的にも合理的な判断です。そういった方にとって、コンビニエンスクリニックは強い味方になるのです。

ナースプラクティショナーの魅力とは、患者さんに近く身近な存在、そして治療ができるところだと思います。コンビニエンスクリニックはかかりつけクリニックではありませんが(慢性疾患は診察しないということ)、私たちのサービスを気に入って下さるリピーターの方も多くいらっしゃいます。そんな方々が診察目的でなくてもクリニックに立ち寄ってくれ、専門医に行った後の事後報告をしてくれたり、いろいろな世間話をすることで、私も日々様々なことが学べます。薬局も併設しているため、薬剤師さんに薬の相談をしたり、値段別の薬の選択などができるので、患者さんの予算を考えた治療ができる点でもありがたい環境だと思います。

病院とは違った環境で、私にとっては真新しい医療の世界、そしてビジネスとしての医療の側面も垣間見ている今日この頃です。

1件のコメント

  1. 裕美さん、はじめまして。素晴らしいブログありがとうございました。コンビニエンスクリニックを仕切ってらっしゃるとはさすがです。私の地域では、コンビニエンスクリニックはWalk-in Clinicと呼ばれていますが、利用している人は結構多いです。Doctors on DutyというWalk-in Clinicが私の地域の最大手です。プライマリーケア医は誰ですかと聞くと、Walk-in Clinicの先生の名前を挙げる患者さんもたくさんいます。存在感がどんどん増している感じです。これからもどうか頑張ってください!

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