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三枝孝充

ブログについて

「日米腎臓内科ネット活動ブログ」で腎臓に関する話題を中心に書いています。「日米腎臓内科ネット」は、腎臓内科における臨床教育、研究、移植の発展に興味を持つ日米の医療関係者が、メーリングリストやブログ、セミナーなどを通じて情報交換をしていくことを目的とした団体です。

三枝孝充

米国NY生まれ。10歳で日本へ戻り帰国学級でリハビリ後、何とか大学を卒業。防衛医科大学校病院などで研修をし、2006年にN programのサポートを得てNYの Long Island College Hospitalで内科研修、2009年からMedical U of South Carolinaで腎臓内科研修中。日米腎臓内科ネットメンバー。

造血幹細胞移植後の急性腎障害(AKI)

造血幹細胞移植:Hematopoietic Stem Cell Transplant (HSCT) は自己もしくは他人(ドナー)の造血幹細胞を末梢血や骨髄から採取し、患者(レシピエント)に化学療法・放射線療法を施した後、清浄化された造血幹細胞を 静脈経由で体内に戻す治療法です。この治療法は1960年ごろ行われはじめ、今では世界で年間5-6万例ほど行われ、血液腫瘍の治療には欠かせないものと なっています。ただし、副作用は大きいため、高齢者の移植はそれだけリスクを伴います。今回はHSCT に伴うAKIについて触れます。まず、どういった移植方法があるかを知り、どのステージでどのようなAKIが起こるかを見てみます。
allo and auto.gif
まず移植は主にautologous(自分の幹細胞を移植)とallogeneic(他人の幹細胞を移植)に分かれます。疾患、患者の健康状態、ドナーの 適合性などによって決まります。骨髄移植の前に多くの場合myeloablationとよばれる治療が行われます。これは放射線や化学療法を集中的に行い 免疫を抑制しがん細胞を除去することです。その後ドナーの造血細胞を戻し、最後に免疫抑制剤を投与しますが、これはgraft versus host disease (GVHD)をコントロールし免疫寛容を得るためです。Myeloablationはレシピエントにきわめて負担がかかるので通常、比較的若く合併疾患の ない患者に行われます。Autologous HSCTは自分の幹細胞を移植するためGVHDの心配はありませんが、myeloablationは必須となります。一方、allogenic HSCTを行う場合は上記の治療法のほか、ドナー幹細胞のレシピエントへの生着(engraftment)をドナーとレシピエント間の免疫反応 (graft vs tumor effect)を起こさせることにより達成するmini-allo (non-myeloablative)があります。ただしこれは進行の遅いがんなどに限られ、副作用は少ないもの再発も多いです。米国でのデータですが 疾患により移植の種類が違いますし件数も違っていることがわかると思います。

AKIは大きく分けて3つのステージで見られます。移植直後のtumor lysis syndrome、そして2週間程度でピークが見られるveno-occlusive disease (VOD)やacute tubular necrosis (ATN)そして、数ヵ月~1年後に見られるthrombotic microangiopathy/ calcineurin inhibitor toxicityです。この図か らわかるように、移植後2週間前後に起こるAKIはVODやATNが多いことがわかります。VODとは放射線や化学療法で内皮細胞障害を起こした肝臓の小血管が閉塞し、portal hypertensionを呈する状態です。いわゆるhepatorenal-syndromeを起こすので腎臓は強い血管収縮から虚血をきたし腎不全を 起こします。VOD治療にはantithrombotic/fibrinolytic効果を持ったdefibrotideの有効性が指摘されています。またengraftment syndromeという病態があり、移植細胞が生着し、白血球が上がってくる際、この白血球がcapillary leak syndrome を起こし、発熱、肺水腫、下痢を起こし、AKIを呈することがあります。

HSCT後のAKIを見た場合、移植の時期とalloかautoの確認、そしてなによりmyeloablationの有無を聞くことはとても重要なことがわかります。Myeloablation がない場合、通常VODは除外できるからです。

T.S

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