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大阪出身の妻と2児の子育て奮闘中。子育ては最高の小児科学の教科書です。モットーは“think globally, act locally, and love your family”。小児科・神経科・医学教育を世界で学び、グローバルな視野を持つ後進を育成することと、息子たちとアイスホッケーを生涯続けることが夢です。

桑原 功光

北海道砂川市出身。2001年旭川医科大学卒業。1年間の放射線科勤務の後に岸和田徳洲会病院で初期研修。都立清瀬小児病院、長野県立こども病院新生児科、在沖縄米国海軍病院、都立小児総合医療センターER/PICUと各地で研鑽。2012年-2015年 ハワイ大学小児科レジデント修了。2015年-2019年 テネシー州メンフィスで小児神経フェロー、臨床神経生理学(小児てんかん)フェロー修了。2019年9月よりミシガン州デトロイトのChildren's Hospital of Michiganで小児神経科&てんかん医として勤務開始しました! 日米両国の小児科専門医&米国小児神経科専門医。

桑原 功光のブログ
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2020/07/08

USMLE step1の変革とIMGマッチングの動向

世界中でコロナウイルス騒動が収まらないまま、私がハワイでレジデントを開始した2012年7月から、早いものでアメリカ生活8年目に入りました。臨床留学を目指してきて念願のマッチを果たした日本人医師のみなさんも、ついにこの7月からアメリカ研修生活に突入ですね。頑張ってください!

臨床留学を目指している方はご存知かと思いますが、アメリカ以外の国で医学部を卒業した医師(International Medical Graduates(IMG))が、アメリカで臨床医をして勤務するためには、原則としてアメリカ医師免許を取得しなければいけません。そのためには、アメリカ医師国家試験であるThe United States Medical Licensing Examination(USMLE)に全て合格する必要があります。

このUSMLEは、Step1(基礎医学)、Step2CK(臨床知識)、Step2CS(臨床実技)、Step3(さらに高レベルの臨床知識)の4つの試験に分けられます。Step1, Step2CK, Step2CSの3つに合格してやっと “ECFMG certificate(アメリカ医師免許)” が発行され,アメリカで研修医として働く資格を得ることができます。Step3は研修医を始めた後に受験するのがアメリカ人では一般的ですが、IMGはあらかじめStep3まで合格しておいた方が面接の際に有利です。7年以内にStep3まで全て合格しなければいけません。

2020年2月に、臨床留学を目指す世界中の医学生・医師の間に、驚くべきニュースが広がりました。今まではStep1とStep2CKは点数計算されて(300点満点。合格最低点数は194点)、点数で競い合っていたのが、2022年1月1日より以降にstep1の3桁採点が中止となり、「Pass(合格)」「fail(不合格)」のみ報告されることが決まったのです。

北米の神経科医の雑誌 Neurology Today (April 2, 2020) でも、“The USMLE Step1 IS Pass/Fail” として、このStep1の変革が大きく注目をあびて特集記事となっていました。

https://journals.lww.com/neurotodayonline/fulltext/2020/04020/the_usmle_step_1_is_pass_fail___how_does_that.6.aspx

USMLEは本来意図していた「基本的な医師としての技術・能力を推し量る」テストからすでに乖離して、医学生を面接に招く際のスクリーニングとして使用されている現状が問題視され続けていました。その結果、多くの医学生がベッドサイドでの患者診療よりも、USMLEで高点数を取ることに固執しており、こうした現状は「良医」を育てる上で好ましくなかったのです。

しかし、Step1が点数制から合否制になるのは、本当にそれだけが原因でしょうか。この背景には「外国人医師の数を抑えて、自国の医師を採用する」という最近のアメリカの流れ(America First)が、このUSMLE step1の変革に関与していると私は感じています。

ここで、以下にアメリカのレジデントマッチがどれだけ厳しくなってきているか、その現状をご覧ください。IMGマッチ数が多い専門科ランキングのトップ3(内科、家庭医療、小児科)は過去10年前後、それほど変化はありません。しかし、マッチしたレジデントの内訳をよく見てみると、2009年と2020年でその「IMGの割合(マッチしたIMG数/マッチしたレジデント総数」に大きな変化があるのがわかります。

1位: 内科 [2009年 45% → 2020年 24%]

2位: 家庭医療 [2009年 40% → 2020年 9%]

3位: 小児科 [2009年 25% → 2020年 12%]

  • [ ] 内はマッチしたレジデント総数に対するIMGの割合 (ECFMGが公表している数字をもとに作成)

以上のように、以前はアメリカ人に人気が低かった内科・家庭医療・小児科でさえ、IMGの割合は過去10年で激減していますこれはどういうことでしょうか。さまざまな要因が推測されますが、そのひとつに「D.O.の増加」が挙げられます。アメリカでは医師になる方法が2つあります。日本と同様に西洋医学を対象とした医学部を卒業してM.D.(Doctor of Medicine)を取得する方法と、オステオパシーを対象としたオステオパシー校を卒業してD.O. (Doctor of Osteopathic Medicine)を取得する方法です。オステオパシーとは、人体の自己治癒力に焦点を置いた自然医学の一派であり、筋肉や関節に対する手技も学習します。アメリカでは、医師としての職務内容・法的規制・給与は、M.D.とD.O.とで違いはありません。D.O.の学校はM.D.より入学しやすいとされ、オステオパシー校に入学する人数は増加の一途をたどっています。

[1977年にD.O.の学校は12校だったのが、2017年で48校まで増加]

https://www.aacom.org/docs/default-source/data-and-trends/2018-trends-com-aeg.pdf?sfvrsn=d2ba4c97_74

過去10年間で、特に内科、家庭医療、小児科といったプライマリー領域を中心として、D.O.がどんどん増加しており、IMGは今後、さらに激しい競争に巻き込まれていくことが推測されます。

IMGが面接に呼ばれてマッチするためには、USMLEをハイスコアで合格して、アメリカ人の医学生より医学的知識があることを証明することが、何より最重要視されました。しかし、Step1が合否制となると、今後はその手は通用しなくなります。また、点数が関与しなくなるために、どの医学部(どの国)の出身かという「無意識のバイアス」が採用に関与する可能性が十分考えられます。上記のNeurology Todayでも「(例として)ミシガン大学の成人脳神経内科では、例年9人の研修医枠に400人から600人の応募があるため、このStep1の変革は高名な医学部出身者にとって有利となるだろう」と記述されています。加えて、「女性の医学生が脳神経外科や整形外科に入り込むための一つの方法が、step1で高得点を取ること」であり、アメリカですら、女性医師は脳神経外科や整形外科には、一般的には歓迎されていません。今後は女性の医学生が脳神経外科や整形外科に入り込むことが難しくなることも予想されます。

こうした逆境を打ち破り、IMGが面接に呼んでもらうためには、書類審査の段階で、海外勤務歴、推薦状、論文など強く印象に残る実績の有無がさらに重要となってくるでしょう。

日本人がアメリカにマッチングを目指す際に、ポジションをかけて競う外国人は、どの国の出身者が多いのでしょうか? USMLEを合格してECFMGを取得した各国の人数(2017年度)は以下の通りです。

  1. India          1044 (10.6%)
  2. Pakistan   624 (6.3%)
  3. Nigeria           254 (2.6%)
  4. Egypt             241 (2.4%)
  5. China             167 (1.7%)
  6. Iran               167 (1.7%)
  7. Israel             156 (1.6%)
  8. Jordan           154 (1.6%)
  9. Venezuela       134 (1.4%)
  10. Iraq                122 (1.2%)
  11. Saudi Arabia    118 (1.2%)
  12. Lebanon          115 (1.2%)
  13. Nepal              108 (1.1%)
  14. Columbia          99 (1.0%)

22. Japan           67 (0.7%)

臨床留学を目指す日本人の数と比べると、インド人・パキスタン人の数が圧倒的に多く、いかなる州・プログラムに行っても、インド人・パキスタン人には必ず会います。彼らの国では、学校の公用語は英語であり、授業や議論は英語で行われているため、訛りはあっても英語が上手です。また、過去10年で中東からの留学者が増加しています。デトロイト周辺にはアメリカ最大のアラブ人コミュニティーであるディアボーンという地域があり、アラブ人の研修医と働く機会も多いです(アラブ人の患者も非常に多いため、アラブ人研修医に通訳してもらうこともしばしばあり)。

アメリカ生活8年目を迎えて指導医となり、さまざまなバックグラウンドを持つ研修医やスタッフたちと小児神経診療に携わるうちに、一緒に夢を育んでいくにはどうするべきか、日々思案しています。コロナウイルスのパンデミックのために今年の夏は帰省できませんが、我らがミシガン小児病院 浅野英司教授と浅野ラボチームとも相談して、このコロナ禍が収まり次第、日米間で医学生・医師の交流プログラムを実現させて、国境を越えて、ぜひお互いに切磋琢磨していける未来を作り上げたいです。

以上、Step1の変革から今後予想されるマッチングの動向について報告しました。来年、もしくは再来年の7月のマッチを目指す日本の医学生、医師のみなさん、臨床留学への道は厳しくなりつつあるのは事実ですが、望めば可能です。ただ、どれだけ望むかです。

私は自分が選んだ小児神経科医という仕事に誇りを持っていて、何よりもこの仕事が心から好きです。

ミシガン州デトロイトから、こどもたちの未来に祈りを込めて。

5件のコメント

  1. 桑原功光 より:

    (訂正)今年で「アメリカ生活 “9” 年目」でした。

  2. 相馬有輝 より:

    医学部5年で小児科を志している者です。
    今USMLEを取得し、アメリカでのレジデンシーを一応目指しているのですが、先生の考えておられる、米国で臨床をすることの1番の意義を教えていただければ幸いです。
    また最終的に国内で臨床をするなら早い段階での臨床留学はあまり良い手ではないという話も聞くのですが先生はどのようなキャリア形成をお考えでしょうか。

    長文失礼いたしました。

    • 桑原功光 より:

      相馬有輝さんへ

      ブログを読んでくれてありがとうございます。

      [米国で臨床をする意味] という質問を、[米国で臨床をする利点] というふうにおきかえても良いのであれば、以下のことが挙げられます(どれが1番ということはありません。これら全ては医師のキャリア形成において、同じように価値があるものです)

      ・患者の集約化により、希少・致死的・重症な患者層が短期間で濃密に経験できる
      ・多様性・寛容な環境
      ・ワークライフバランス
      ・臨床と研究のバランス
      ・グローバルな視点から医療に携わることができる、世界中に知り合いができる

      米国医学教育の利点についてよく質問を受けますが、日本も2004年度から臨床研修医制度が開始となり、私が卒業した2001年度当時から[レジデント]への医学教育環境は飛躍的に改善しました(インターネットの普及により、情報がすぐに手に入るようになった点も大きいです)。

      しかし、さらに専門性を要求される[フェロー]の教育には、日本では限られた施設でしか患者が効率的に集約化されていないこともあり、自分で意識して学んでいかないと無為な時間がただただ過ぎていくことになりかねません。専門科によっては、そのフェローを支えるはずの専門医制度自体が揺れに揺れており、問題にもなっていますね。

      (レジデントとフェローへの指導内容は異なってしかるべきです。過去のブログにも記述しました。よければお読みください)
      http://ameilog.com/norimitsukuwabara/2014/04/10/170243
      http://ameilog.com/norimitsukuwabara/2014/04/16/161040

      ワークライフバランスについては、仕事のオン・オフはもちろん、アメリカでは特に女性の社会進出が進んでいます。研修医中に女性医師が結婚、出産することも当たり前にあります。日本では女性研修医の産休が認められていない病院は珍しくありませんし、採用の際に「研修中は結婚、妊娠は避けるように」とやんわりと諭されることもあるのが現実で、今も大きく進捗がないと聞いています。私自身、2児の父親となって、子育てと仕事の両立がいかに大変かを痛感しております。妻にはただただ感謝しかありません。

      「女性医師の意欲とキャリアとリーダーシップ: 自分自身を乗り越えると、もっと楽しい」
      https://www.amazon.co.jp/dp/4840472262
      大阪総合市立総合医療センター 小児集中治療部の赤嶺陽子先生の本です。
      医療者がどうやって先入観をはねのけて活躍の場を広げていくかを、多くの客観的文献も引用して詳述されています。
      著者自身もお子さまを連れてハワイ大学に留学されていました。
      男性・女性医師に関わらず、留学を目指す医療者であれば必読の本です。

    • 桑原功光 より:

      臨床留学のベストはタイミングは、人によって異なります。ただ、個人的には、日本で最低2年間は臨床研修を行ってから渡米した方がよいかと思います。理由はさっと思いつく限りで、以下の通りです。

      1. 実際に医師となって勤務すると、専門にしたい科が変わるなんて一般的。医学生時代の興味は決してあてにならない。

      2. 臨床留学した直後は(バイリンガルでもない限り)、例外なく英語にみんな苦労する。その際に、英語の不出来を少しでも埋め合わせてくれるのが医学知識・経験である。

      3. 日本で臨床研修をしておかないと、将来日本に帰国した場合に保険医の資格がない。

      4. 多くの臨床留学者は、日本に将来帰国する・しないに関わらず、日本の医療にも貢献したいと考えている(留学すると愛国心がわく方が多い)。しかし、日本の医療の実情を知らないと、どのように貢献してよいかわからない。

      • 相馬有輝 より:

        桑原先生

        詳細な回答、誠にありがとうございます!
        ご紹介くださった赤嶺先生のご著書もぜひ拝見させていただきたいと思います。

        やはり米国留学は先生のご回答を受けてより魅力的に思われます。
        学生中は広く学び、できる準備をなるべくできるように努力いたします。
        またブログぜひ拝見して参考にさせていただければと思います。
        いつかミシガンに医師として先生を伺えるように頑張ります!

        相馬有輝(そうまゆうき)

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