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ブログについて

私の受けたアメリカの医学教育の話、スタンフォードでの内科レジデント生活、 Physician Scientistを育成するシステム、シリコンバレーの学際的環境について、といった内容で情報発信できればと思っております。

川名 正隆

東京に生まれ育つ。小学校卒業後1年半をテネシー州で過ごす。東京大学教養学部を卒業後再渡米し、ブラウン大学医学部を卒業。現在スタンフォード大学病院で内科レジデント、2012年より同大学循環器内科フェロー。心筋症・心不全などの心筋収縮異常の病態メカニズムに興味あり。基礎研究と臨床のバランスの取れたキャリアを模索中。

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2012/04/05

参加型臨床実習の現場より(3)法的環境

2.学生が臨床参加できる環境

2回に渡って米国の病院での内科学臨床実習の内容について書いてきました。ではこうした実習内容はどのような環境の中で成り立っているのかを考えて見ます。

学生が「臨床参加する」ということにおいてまず気になるのは「それは法的にどこまで可能か」ということかと思います。私は法律の専門家でもないし、日本の制度的にどうなっているかも詳しくありませんが、アメリカの病院においての学生の法的立場は”immune(=免責)”ではないが”invisible(=表に出ない)”であると言えると思います。例えば学生が電子カルテにProgress Noteを書いてもそれは公式な記録とはみなされないので、インターンやレジデント達は別個にノートを書く必要があり、これが何かあった場合に法的な拘束力を持つことになります。またインターンやレジデント達のノートもアテンディング(指導医)がcounter-sign(連署)することで初めて公式なカルテ(=専門医の診療を受けた証)となり、最終的な責任はアテンディングに所在することになっています。このco-signの際には”Agree with medical student (resident) note.”と一行書いて済ませる人も多いですが、これでは学生やインターンが書いた事項を全て正しいと認める、ということになってしまうので記載には十分な注意が必要になり、よって別個のノートを書くことが推奨されています。学生のノートも記録の一部になるということは両刃の剣であり、基礎データがきちんと整理された学生のノートは他のスタッフにも役に立つのでとても喜ばれますし、反対に医学的に間違いのある記載を残すのはいくら非公式な記録ではあるとはいえ迷惑になります。ですから、学生はインターン・レジデントとしっかり治療方針を話し合ってからカルテを書きます。

もし医療過誤が起こってしまった場合は、レジデント達は研修プログラム(または病院)が入っている医療過誤保険によって、学生は大学医学部の方で入っている学生用医療過誤保険によって守られます(医学部の授業料の多くはこの保険のために使われます)。最終責任はアテンディングと雇用主である病院に求められるのが原則です。しかしながら医療訴訟大国であるアメリカの病院においては、病院で働いている誰もが(医師のみに限らず)訴訟のリスクにあると言っても過言ではなく、よって非常に稀ながらも医学生が訴訟の対象になることがあります。去年の話ですが、アリゾナ州で医学生を訴えることを禁止する法律の制定の動きがありましたが、医療訴訟専門の弁護士達を抱えるロビイストの反対により通らなかったようです。このニュースに関連したNY州のある医療過誤専門弁護士のブログの記事に”attorneys representing patients are sometimes forced to [sue medical students] if they are going to fulfill their obligation of “zealous advocacy” to their clients(患者を代表する弁護士は、クライアントを “熱心に擁護する”という義務を履行するべく、時には医学生を訴えることを余儀なくされている)”と書いてしまっているように、救急車を追いかける弁護士が溢れるほどいると言われる現在のアメリカの医療界では学生も訴訟からimmuneとなるのは難しいようです。

このような訴訟リスクの環境でも、「即戦力となる医師を輩出する」というのが任務であるメディカルスクールとしては、学生がなるべく医療に参加できるカリキュラムを組むように懸命に努力しています。ちょっと検索したらテネシー大学医学部の学生と法的問題に関するこんな文書がありましたが、学生の医療現場での役割の範囲をよく説明していると思います。スタンフォード大学の医学生のシラバス(Chapter 4.14参照)にも「医師による監督の下に」同様の役割を求める記述があります。以上のような明確な監督責任の所在と、教える側の学生に対する教育責任の使命感、および学生と医師の間の信頼関係学生を臨床に参加させる上での基礎になっていると言えるでしょう。(続く)

 

(注)言葉の定義が若干日本での理解と違うとの指摘がありましたので、アメリカでの用語の定義を以下に記します。

インターン(intern):研修1年目の医師。

レジデント(resident):研修2年目以降の医師。内科や小児科など全部で3年間のプログラムの場合は、1年目がインターン、2年目はジュニアレジデント、3年目はシニアレジデントというように呼ばれることもある。シニアレジデントの中から毎年数名が選ばれて、4年目に残ってプログラムを統括するチーフレジデントという役職に着く。外科系など5年間以上かかるプログラムでは、最終年の医師がチーフレジデントとなる。

フェロー(fellow):内科・小児科・一般外科などのトレーニングを積んだ後、さらに専門を絞って研修を積む医師を指す。例えば循環器内科フェロー、感染症内科フェローなど。

アテンディング(attending):専門医の資格を取っている人で、各チームの最終意思決定をする人。専門医の資格があれば基本的に誰でもattending physicianと呼ばれるので、内科であれば卒後4年目(PGY-4)の新米アテンディングもいれば卒後20年の教授クラスのアテンディングもいることになる。キャリアの差はあれ、各患者さんの最終意思決定をするという立場としては同等の扱いになる。

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