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ブログについて

私の受けたアメリカの医学教育の話、スタンフォードでの内科レジデント生活、 Physician Scientistを育成するシステム、シリコンバレーの学際的環境について、といった内容で情報発信できればと思っております。

川名 正隆

東京に生まれ育つ。小学校卒業後1年半をテネシー州で過ごす。東京大学教養学部を卒業後再渡米し、ブラウン大学医学部を卒業。現在スタンフォード大学病院で内科レジデント、2012年より同大学循環器内科フェロー。心筋症・心不全などの心筋収縮異常の病態メカニズムに興味あり。基礎研究と臨床のバランスの取れたキャリアを模索中。

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2012/03/14

アメリカ保険制度:内科レジデントの視点から(1)

今回はアメリカの医療保険制度について、内科レジデントの日常的な視点から、私の経験を踏まえて書いてみたいと思います。

アメリカでは保険がないと病院に行っても診てもらえない、というイメージがあるかもしれませんが、少なくとも急性期の治療においては、とてもざっくり言えばEmergency Medical Treatment and Active Labor Act(EMTALA)という法律によって、アメリカのほぼ全病院(私営・公営含む)において、保険の有無や国籍・移民法上のステータスに関わらずどんな患者さんでも治療を受ける権利が保障されています。特にレジデントが働いているようなteaching hospital(研修病院)では保険の有無によって急性期の患者を断るという場面に出くわすことはないかと思います。したがって一般内科で病棟勤務をしている時に救急外来(ER)から上がってくる急性期の患者さんに対する入院治療の際も、病状を”安定化”させることが法律で課されているので、治療の初動時にどのような保険を持っているかということを気にすることはほとんどありません。もともと病院には急性期の患者さんのみ入院しており、治ったらどんどん退院させるのがアメリカの病院システムですので、EMTALAの下では保険の有無に関わらず急性期の患者さんは退院するまで一定の治療を受けることが基本的に可能になっています。

レジデント達が最初に保険に関して知らされるのは、朝のスタッフミーティング等でしょうか。ケースマネージャー(各患者さんの退院のプロセスを手伝ってくれるコーディネーター。前職は看護師の人が多い)から「この患者さんは無保険である」という一言で少しプレッシャーをかけられます。無保険者の費用は現実的には病院が負担することになる場合が多いので、ケースマネージャー達はそうした患者さん達にはなるべく速やかに必要最低限の治療を施し、速やかに退院させて病院の負担を抑えるという任務が病院の方から課されています。どこまでが”必要最低限”かというのはもちろん医師が判断することなのですが、例えばいつもだったら「入院している間に検査してしまいましょう」というようなことをなるべく外来検査・治療に回すようにすることはよくあります。ただこうした方針は、「治ったらすぐ帰す」式のシステムにおいては全ての患者さんに当てはめるのが病院としてはもともと好ましいという側面もあります。実際に保険の有無という非医学的な要因が治療方針の詳細に影響することは否めません(詳しくは次回の投稿を参照)が、レジデントの判断レベルで「保険がないために入院中に絶対に必要な検査・治療を控えた」という不快な思いをしたことはほとんどありません(公営病院だから必要なresourceがなかったというような例はありますが)。

さて入院してから数日、急性期を脱して病状も回復をたどり、退院後の行き先を考える時が、レジデントが保険を一番意識する瞬間です。退院後にリハビリや長期介護施設に行く必要があるが保険がないという患者さんは、残念ながらそうした施設はEMTALAの範疇外になってしまうので入居を拒否されてしまい、ソーシャルワーカーと一緒に可能な限り身寄りと何かしらの在宅サポートを探すことになります。よく見かけるのが、家に帰ることは不可能とみなされた無保険者の患者さんで、介護施設の受け入れ先がない場合、安全に帰宅できるまで急性期の病院に入院し続けるという例。急性期治療のための医療機関に長期間入院すると莫大な費用がかかるため、病院によっては「病院側が費用を負担してリハビリ施設に行ってもらう」というウルトラC的な手段を使う場合もあります。

また退院した後の外来でのフォローアップをスケジュールする際に、保険が無い人は同じ病院のクリニック(または入院中に担当していた医師のクリニック)に掛かることができず、公営病院の外来に紹介されて行くということは日常的です。このため入院中に掛かっていた同じ専門医の外来に退院後にすぐに掛かることができず、公営病院の外来を通して再び紹介状を貰ったりしなければいけないなど煩雑な手続きが患者さんと医師を悩ませます。こうした「退院後の医療サービスのギャップ」こそが無保険者の入院治療における最大の不利益だと思います。外来診療と保険はレジデントにも大きな問題で毎日のように関わってくるので、これもまた改めて詳しく書きたいと思います。(続く)

2件のコメント

  1. 豐田智子 より:

    現在、看護倫理研究のために文献を読んでいまして、そこに‘nurse case maneger’という言葉が出てきました。どのような役割の看護師なのか検索していたところ、当ブログがヒットしました。大変参考になりました。ありがとうございました。

  2. 川名 正隆 より:

    豐田様
    記事を読んでいただきありがとうございました。お役に立てて何よりです。

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