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熊倉純子

ブログについて

NICU(新生児集中治療室)で、毎日多くの事を学び、よい仲間に囲まれながら楽しく働いております。そんな中で、日々経験したことや、気がついたことについてお伝えできたらと思います。

熊倉純子

東京都出身。高校時代に1年間アメリカへ交換留学。日本赤十字看護大学卒業後、慶應義塾学病院で6年半ほど小児科新生児領域で看護師として勤務。看護師のキャリアを考える中、 アメリカの医療看護事情に興味を持つ。RN (Registered Nurse) ライセンス取得後、アメリカへ看護留学し、 OPT(オプショナルプラクティカルトレーニング)としてフロリダ片田舎の総合病院小児科にて1年間勤務。一旦日本に帰国し、日本看護協会に1年間勤務するも、再び渡米、アインスタインメディカルセンターNICUへ2年半勤務後、現在のペンシルバニア大学病院NICU勤務にいたる。

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(この記事は2016年11月7日に 活動的な高度な自律的なナースのための情報サイト 日経メディカルAナーシングhttp://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/anursing/ameirogu/に掲載されたものです。該当記事をご覧になるには会員登録が必要です。)
 

 

アメリカでは11月の大統領選挙を控え、民主党か共和党どちらの候補者が当選するかに大きく注目が集まっています。私の住んでいるペンシルベニア州フィラデルフィアでも民主党大会が開催されたり、ニュースなどでは連日選挙の話題で持ちきり。選挙権のない私も人ごととは思えません。2009年の留学中にはバラク・オバマ氏が大統領に当選し、当時通っていた学校の黒人教師が非常に喜び、西海岸から東海岸のホワイトハウスで行われた就任演説に駆けつけたことを思い出します。初の黒人大統領に次ぎ、今度は初の女性大統領が誕生するのか目が離せません。

さて、私が、ペンシルバニア大学病院NICUで働き始めて、もう少しで2年が経ちます。大学院進学への学費補助といった福利厚生などを含め、職場環境は良いです。また、医療者・患者ともに人種文化的背景が多様であるため、外国人の私でもわりと働きやすい環境といえます。進学などの理由でしばしばナースの入れ替わりがありますが、後輩(年齢は様々である上に、日本のような先輩後輩関係は全くありません)もたくさんでき、人にも仕事にもすっかり慣れました。

36床に100人以上の看護師が所属

今回は、私の勤務するNICUでの看護師の働き方について、少し紹介したいと思います。今の職場では、大部分のナースが7~19時または19~7時の2交替勤務をしています。同じフルタイムでも72時間と80時間採用(2週間ごとに給与が支払われるため就業時間も2週間換算)とがあるため、少数派ではありますが、8時間勤務と12時間勤務を組合わせて勤務しているナースもいます。シフトの初めに毎回、「ハドル」(スポーツの試合中の作戦会議的な感じです)というミーティングがあり、前のシフトのチャージナース(日本でいうリーダー)が中心となり、次のシフトの2チーム全体への申し送りをします。「ハドル」はシフトの切り替え時以外にも、複数のチームメンバー(医師、看護師、呼吸療法師など)がともに処置を行う場合や、厳しい状況が予測される出産立会いの直前などに行います。手短ではあっても、他職種チームのメンバーが個々の役割を明確にし、チームで協力するという意識をもつ意味でも、とても有意義なものだと感じています。

シフトの始めに行う「ハドル」では、チャージナースからの連絡事項の後、その日の勤務帯のナース全員で、各ナースの受け持ち患者を話し合いによって自分達で決めます。現在働いている病院の病棟はNICU病床数30床とTransitional Care Nursery (日本でいうGCU−新生児治療中間室)6床の計36床に対し100人近くものナースが配属されています。そのため、患者へのケアを継続する目的で、病棟を赤・青の2チームに分けたチームナーシングを導入しています。NICUでの看護師配置数は看護師1につき患者数1~3人で、実質、各勤務帯で患者約9人の大部屋に対して、働くナースは3~4人のイメージです。Transitional Care Nurserynでも1日を通して最大で看護師1人につき患者3人の配置です。

 日本では、NICUの患者がGCU(新生児治療回復室)に移ると、途端に看護師配置数が少なくなり、看護師1人の受け持ち患者数が極端に多くなります。アメリカでは通常、看護師配置数は日勤帯と夜勤帯で変化しないため、日勤帯、夜勤帯とで業務量に極端な差はなく、シフトをまたいだシームレスなケアが行えるように思います。通常の受け持ちに加え、入院担当ナースはたいていケアの少ない“軽め”の受け持ち患者2~3人を担当し、自分が入院をとるまでに手が空いていれば、何回でも分娩の立会いに行きます。こればかりは運のようで、立会いに行く回数はシフトにより全く異なります。

「終わらなかった仕事は次のシフトで」の方針で残業ゼロ

さらに、リソースナースという通常受け持ち患者を持たないナースが病棟全体を見て回り、必要に応じてナースのサポートをしてくれます。業務量の負担が大きいナースのサポートに入ったり、人手の必要な処置や分娩があるときに適宜ナースのサポートをします。その他、日本と違って特徴的なのは、CNA(看護助手)が予め割り当てられた患者をナースとともに受け持ち、担当ナースと連携してケアを行います。CNAの業務範囲は病院単位で異なるようですが、現在私が勤務するNICUでは、安定している患者のバイタルサイン測定や、オムツ交換、哺乳などをしてくれます。このように日本よりサポートが多く、だいぶゆとりのある配置となっています。このような体制であるからこそ、24時間面会を可能にしたり、家族にゆっくり対応する時間を確保できたり、残業ゼロという職場環境を実現できているといえます。

ちなみに、アメリカの看護師は文化的にシフト勤務の感覚がとても強いので、「自分の勤務時間が終われば、終わらなかったことは次のシフトの仕事」という考えが強く、申し送りする方も依頼された方も当然のことと受け止めています。そのため、前のシフトのナースが残業してまで仕事を行うということは滅多にありません。

さて、具体的な担当患者の決め方ですが、NICUの入院患者の入院期間は数カ月に上ることもあるため、基本はできるだけ同じナースが同じチーム内の患者を継続して受け持つようにします。それに加えて、どのような患者(例えば、人工呼吸管理下の患者、入院直後の急性期の患者、または、いろいろなお産に立会って経験値を上げたいという要望など)を担当したいかの希望をナースたちに聞き、それを考慮し決めていきます。新人ナースがオリエンテーション中の場合などは、プリセプターとともに優先して患者を選びます。ただ、中には患者と看護師の相性のようなものもあり、患者家族の方から、「受け持ち看護師を変えてくれ」「この看護師は嫌だ」といった、アメリカの患者ならではの主張を聞くケースがあります。基本的には、患者の好みで担当ナースを変更しないというのが今の病棟のスタンスですが、状況がエスカレートした場合などは、ナースを患者からのハラスメントなどから守る意味で、止むを得ず担当を変更することもあります。

いくつかのアメリカの病院で働いてきた中でもこの受け持ち患者の決め方は初めてのことですが、誰かに受け持ちを割り当てられるのでなく自分達で決めるということは、1日12時間仕事をしていく上で、少なからずともポジティブに作用しているように思います。

米国のNP、CNSの歴史の長さに惹かれて

少し、私のこれまでの経緯を振り返ります。私のアメリカ生活は、高校時代に1年間の交換留学を経験したことに始まります。日本でナースとして6年半働いた後に米国の看護師免許(RN)を取得して看護留学をしました。その後、一度は日本に戻り日本看護協会で勤務しましたが、やはり臨床で働きたいと思い、2012年からは本格的にアメリカに腰を据え、ナースとして働いています。日本の看護大学卒業後、ナースとして3年ほど働いた頃から、「このまま看護師を続けていくと経験は豊富になりそうだが、専門職としてより成長するには大学院進学がよいのではないか」と考え始めました。しかし当時、大学院のコースは研究や教職員になるためのプログラムは多くありましたが、臨床看護を極めるためのプログラムはほとんどなく、また、認定看護師コースや専門看護師コースがありましたが、小児、新生児分野に限っては、資格が創設されたばかりで実際にコースを修了した看護師が現場でまだほとんど活躍していないを頃でした。

そんな中、アメリカではナースプラクティショナー(NP)や専門看護師(CNS)と呼ばれる看護師が長年臨床で活躍していることを知り、それだけ歴史が長いからには需要もあり活躍しているに違いないと思い、自分もそのような環境に身を置き、学びたいと考えました。将来的にNPになるためには、RNの資格が必須となること、また、アメリカのRNがどのように働いているのかを知りたいという思いから、まずはRNの免許を取得し、働き始めました。現在の職場はアメリカでナースとして働き始めて3つ目の病院です。それぞれの病院での勤務を通して、地域や病院の規模、病院の形態により、患者層は大きく異なり、業務内容も看護師へ求められるものも少しずつ異なることを知りました。

アメリカでナースとして働くからには、大学病院のように組織が整っており、かつ医療内容はもちろんスタッフ教育にも力を入れている病院で働きたいと考え、現職に至ります。最近はNPプログラムよりも専らMPH(公衆衛生学)プログラムに興味を見出しているところです。

2件のコメント

  1. 熊倉様
    大変興味深い内容をありがとうございます。
    私は将来的に海外で摂食嚥下の教育的活動をしたいと考えております。
    日本ではCNとCNSの資格を有しております。
    今後の活動に関し相談させて頂きことは可能でしょうか。
    よろしくお願いいたします。

    • 西依さま、コメントありがとうございます。CNとCNSを有されているとは正にその道のエキスパートですね。私は主に小児領域特にNICUでの経験が大半なのでその中でお伝えできることは、アメリカでは多くの場合 Speech-language pathologists (SLPs) という職種が嚥下に関するアセスメントや指導を行なっているということです。名前だけ聞くと Speech-language なので一見わかりにくいのですが。。私の職場で SLPs はナース、ドクターたちとコミュニケーションを図りながら仕事をしています。私の知る限りでは、ナースのバックグラウンドを必要としていないようでナースとは別の独立した職種というようになっていると思います。お役に立ちそうな以下のリンクを見つけたので参考になさってください。http://www.asha.org/slp/ 
      http://www.asha.org/Students/Speech-Language-Pathologists/

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