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ワシントン州ではコロナ禍以前から遠隔診療が盛ん

 私が所属しているワシントン大学病院は、米国北西部における最高の高次医療機関として機能しているため、ワシントン州のみならず周囲の僻地の州(アラスカ、モンタナ、アイダホ、ワイオミング、オレゴン)の高次医療も担当しています。

 広大なアメリカで、何百キロ・何千キロもの距離を患者さんに移動させて外来に通ってもらうのはとっても大変なことであるため、ワシントン大学病院では Telemedicine (遠隔診療・オンライン診療)をコロナ禍前から盛んに活用しています。

オンライン診療はケアの機会を広げる

 アメリカの僻地を想像してみなくても、外来に平日日中に時間通りに来る、というのはとても大変なことです。

・自宅から病院までの距離が遠い

・障害があり移動に制限がある

・車がない

・付き添ってくれる家族や友人がいない

・仕事がある

・育児や介護で家を離れられない

etc…

オンライン診療は、そういった不利な立場に置かれているかたにも診療の機会を広げることができています。また、外来の混雑軽減や診療可能な患者数の増加にも確実につながっており、昨今の米国の外来診療では当たり前にある選択肢として定着しています。

 

実際のオンライン診療の流れ

  1. クリニックの予約を取る

    • 退院時に予約がされたり、他の外来から紹介されたりします。その際に、遠隔診療(オンライン診療)が適切であるかどうかをクリニックが判断します。その判断をする際には、外来アシスタント、外来看護師、医師のあいだでコミュニケーションがあります。

  2. チェックインする

    • 外来アシスタントが、その日の外来患者一覧からオンライン診療の患者さんにコンタクトして、Zoomに接続できるようチェックインします。

  3. Zoomを使って診察する

    • 診察予約時間になったら、患者はMyChartと呼ばれるオンラインプラットフォーム(ウェブサイトまたはアプリ)から、医師はその患者さんの電子カルテから、Zoomにアクセスします。この3年間で、みなすっかりZoomでのオンラインミーティングに慣れましたので、ほとんどの場合スムーズに進みます。

    • 米国の予約外来なので、30-45分程度の時間が確保されています。

    • レジデントやフェローが診療する場合は、アテンディング(指導医)も診察する必要があるので、指導医にプレゼンして方針を確認して、最後に患者さんと指導医とで全員一緒に話し合ってまとめます。

    • 必要に応じて、検査をオーダーしたり、薬を電子処方箋で患者さんのかかりつけ薬局に処方します。

  4. 診療後のフォローアップ

    • 必要に応じて、次回の外来を予約する。

    • 患者さんは、新しく処方された薬剤を受け取りに行ったり、検査を受けにいく必要があります。

フォローアップ外来や併診に力を発揮

 その患者さんがその病院に対してまったくの初診である場合、とくに未解決の症状や疾患がある場合は、やはり最初は病院またはクリニックに来てもらって、対面でお話しして身体診察や検査を同時に受けてもらうほうが多くの場合理にかなっています。

 ただ、ある程度の治療方針が決まっている場合や(退院後のフォローアップや定期外来など)、ある診療科には対面で定期的に診てもらっていて、他の診療科になにか相談がある場合は、オンライン診療が便利に使えます。

 私が研修している感染症科では、退院後のフォローアップや他の診療科との併診(コンサルト)にオンライン診療が大活躍しています。

 骨や関節に細菌が感染して数週間〜数ヶ月の抗菌薬治療が必要な患者さんも、ある程度落ち着いたら自宅に退院して、治療終了予定日まで自宅で抗菌薬を内服したり、腕にPICC(腕から挿入する中心静脈ライン)をつけて自宅で抗菌薬を点滴したりするのですが、ちゃんと治療が上手くいっているかを外来で確認します。患者さんのPICCを訪問ケアしてくれる業者や看護ステーションのおかげで成り立っています。

 また、他科の医師からのコンサルトも、オンライン診療の得意分野です。もともと診察所見や検査データがある程度揃っていますし、

 

遠隔診療のLimitations

 オンライン診療には、直接対面での診療と比較して不利な点やデメリットもあります。

  • デバイスやシステムの操作に慣れる必要がある

    • ときに高齢の患者さんでは、Zoomのログインや画面の操作・音量調整などが上手くできず、電話でのやり取りに急遽変えなければならなかったこともあります。患者さん自身での操作が心もとない場合、家族が手助けできる環境だと上手くいきます。

  • 身体診察が充分にできない

    • 体温、血圧、脈拍、呼吸数などのいわゆるバイタルサインと呼ばれる非常に基本的かつ重要な診察ができません(患者さんが介護施設にいて看護師さんが付き添う場合は可能ですが)。また、もちろん聴診や触診もできません。

    • ただ、オンライン診療のビデオ画面を通してでも、患者さんの見た目(元気そうか辛そうかなど)、呼吸のしかた、皮膚のようすなど、一部の診察はでき、医師の判断にとても役立ちます。

  • 処置や検査がその場でできない

    • 外来や最寄りの民間検査ステーションに行かないと、血液検査や画像検査はできませんので、それが手間や診断の遅れにつながることもあります。

    • 血液検査や画像検査が必要でも、(例えば定期検査など)それほど急を要さない場合は、オンライン診療のあと、患者さんの都合のいいタイミングで検査だけを受けにきてもらうこともよくあります。そうすると、病院での待ち時間が短縮できます。

    • 創傷を切ったり縫ったり、はたまた注射をしたり、といったことが予測される場合は、対面診療のほうが好都合です。

 

 こういった理由から、急を要する症状や疾患、何らかの処置(創傷処置、抜糸、注射、点滴など)が予想されるときは、対面診療に軍配が上がるでしょう。

 

オンライン診療を学ぶ

 ほとんどのレジデント・フェローは、上記のようなオンライン診療で充分できること・できないことを意識しつつ、実地でコツを身につけていっていると思われます。それに加えて、各学会もオンライン診療についてのガイダンスを提供しています。

米国内科学会 American College of Physicians (ACP):

https://www.acponline.org/practice-resources/business-resources/telehealth-guidance-and-resources

米国感染症学会 The Infectious Diseases Society of America (IDSA):

https://www.idsociety.org/clinical-practice/telehealth/telehealth/

まとめ

 今回は、大学病院外来でのTelemedicine(遠隔診療・オンライン診療)の活用について紹介しました。

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