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4. 分野別施策と個別目標

7. 小児がん

(取り組むべき課題)

「小児がん拠点病院(仮称)を指定し、専門家による集学的医療の提供(緩和ケアを含む)、患者とその家族に対する心理社会的な支援、適切な療育・教育環境の提供、小児がんに携わる医師等に対する研修の実施、セカンドオピニオンの体制整備、患者とその家族、医療従事者に対する相談支援等の体制を整備する。」

この一文に含まれている内容は、現在国内で小児がん患者を診療している大多数の医療機関において、一通りは整備されています。しかし、あえて「拠点病院」という名称をあげて、「指定」という強い言葉を用いているのは、現状の大多数の小児がん診療施設の体制は不十分で、質・両ともにさらに高いレベルの診療支援体制を備えた、少数の病院に患者を集中させたいという患者家族と行政の意思があるからです。現在200以上あると考えられる、小児がん診療施設のなかで、いくつの施設が小児がん拠点病院に指定されるかは不明ですが、全国で年間に2000-2500人しか発生しない患者を集約するのに、拠点数が50は必要もないのは明らかです。欧米の拠点施設では年間で小児がんの新患を100以上受け入れています。日本でも新患数100を基準に考えると、20前後の拠点で十分全国で発生する小児がん患者を診療できる計算になります。しかし、既存の医療施設の人的リソースを移動させ集約するのは非常に困難な作業です。厚生労働省、大学病院を管轄する文部省、小児がん関連の各種学会、小児がん臨床研究グループなど、多くの組織がこのビジョンに賛同して協力することが不可欠です。

私は以前、比較的人口が大きく面積も広い県にある医療機関で小児がん診療に携わっていました。その県には、現在5つの小児がん診療施設があります。多く見積もっても県の小児がん年間発生数は75人、拠点病院は県でひとつあれば十分という計算になってしまいます。しかし、県には地理的に離れた政令指定都市が二つあり、では拠点も二つに、いやいや地理的には、明確に3つの地区にわかれているのだから拠点は3つ、という具合になれば、各拠点病院の新患数は20台から30台ということになってしまいます。

ちなみに、全国の小児がん年間発生数を2500として、単純に都道府県人口から計算すると、100人以上小児がん新患が発生するのは、都道府県人口が500万人を超える上位9都道府県に限られます。つまり、残りの38の府県の小児がん患者は府県をまたぐ集約化の影響を受ける可能性もあります。では、拠点病院の設置要件を小児がん年間新患数50まで一気に下げてみるとどうでしょうか。驚くべきことにそれでも34の県は、自県で発生する小児がん患者だけでは要件を満たせません。

「小児がん拠点病院を整備したのち、小児がん拠点病院は、地域性も踏まえて、患者が速やかに適切な治療が受けられるよう、地域の医療機関等との役割分担と連携を進める。また、患者が発育時期を可能な限り慣れ親しんだ地域に留まり、他の子どもたちと同じ生活・教育環境の中で医療や支援を受けられるような環境を整備する」

このパラグラフでは、日本中のすべての患者を少数の拠点病院へ集中させることの限界に対し、拠点病院と地域の医療機関でネットワークを構築し、小児がん診療の異なるステージに応じて、拠点病院と地域の医療機関が異なる役割を果たすことで、解決を行うという方針を示しています。これも、概念的にはわかりやすく、説得力があるのですが、実際には小児がん患者という非常に特殊で稀な患者の診療に、どこまで地域の医療機関が参加できるかは不明です。

小児がん専門医が拠点病院に異動してしまった地域の施設では、もう小児がん患者をサポートできなくなるかもしれません。拠点病院への症例の集約化によって、小児科研修医が小児がん研修をしたり、総合小児科医が小児がん診療に参加したりする機会が減れば、地域の小児科診療機関で、小児がん患者のサポートがいまよりも困難になります。

そういう意味では、集約化によるメリットの裏側にはいくつものデメリットがあり、小児がん専門医が地域にはいない状況で、いかに患者やサバイバーを地域でサポートするかという、新たなコンセプトが必要となってきます。

(続く)

寺島慶太

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