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その(1)より

薬を処方する医師が錠剤をみて何であるかすぐわかる例は、実際のところあまり多くないのではと思っている。というのも、処方はするものの、実際に薬を患者さんに渡すのは薬剤師さんであり、薬の詳しい説明も、ナースや薬剤師さんが行ってくれる事が多い。日本に勤務していたときは、薬を処方すると、カラー写真付きの薬の説明文章がついていて、「わかりやすくていいな」と思ったものだが、こちらに来て、そのようなものにお目にかかった事がない。アメリカで薬を処方されると、多くの場合、オレンジのプラスチックの容器に薬を入れて患者さんに渡る。容器に内服方法が印字されたラベルが貼ってあるのだが、以前に字が読めない患者さんを担当したことがあり、ラベルはあっても似たような容器をいくつも渡されては混乱しても仕方がないな、と思った事がある。

また、実際の薬の大きさや形状、実際に患者さんが内服する錠剤数を自分の目で確認出来たのも、「あてっこクイズ」の成果だと思っている。ファーストラインと言われる抗HIV薬レジメンの多くが1日1回内服が可能なものである。今では一日一錠のオプションも登場しているが、まだ種類は限られている。先日1年ぶりに外来にやってきた、若いHIV患者さんを前任者から引き継いで初めて診た。外来では「薬はちゃんと飲んでいる」「問題ない」と言っていた彼だが、血液検査の結果を見ると、明らかに治療に反応していない。驚いて電話をしてみると、「実は嘘をついていて、ここ1ヶ月薬を飲んでいない」とのこと。理由を尋ねてみると、「毎日毎日何錠も薬を飲むのが辛い。精神的に拒否してしまう」とのことだった。彼の治療レジメンは一日一回内服のもので、ファーストラインとされているものではあったが、錠剤数は3。HIV外の薬も含めて一日何錠も内服している患者さんも診ていると、一瞬「これだけでも?」とも思ったが、まだ若いし、HIVの診断そのものも受け入れられていないのかもしれない。毎日3錠の薬を目にするたびに、HIV感染の事実をつきつけられて、辛いのかな、などと色々考えてしまった。治療薬の指導をしてくれるナースとも相談し、患者本人の希望もあってカウンセラーにみてもらうとともに一日一錠の薬を試してみる方向で検討しているのだが、錠剤数の負担、いわゆる”pill burden”についてあらためて考えさせられた出来事であった。

小林美和子

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小林美和子

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