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(この記事は2012年2月10日 CBニュース http://www.cabrain.net/news/ に掲載されたものです。)
医学部卒業後すぐに渡米し、既に10年が過ぎようとしています。勢いで飛び出してきたものの、時に立ち止まっては、来し方を振り返り、行く末に思いをはせる日々を送っています。専門医課程も終わりが見えてきた今、医師としてのキャリアの大きな岐路が近づいてきています。米国に残るのか、日本へ帰るのか-。研修の忙しい日常の合間に、その答えを探す様子をつづりたいと思います。
■「冒険と挑戦」を求めて
「どうして、米国に来て医師をしているのか」と聞かれたら、答えは難しくありません。「冒険と挑戦がしたかったからだ」と答えるでしょう。恐らく、島国日本に生まれたならば、誰しもが抱いたであろう、海の向こうへのあこがれ、さまざまな文化が混在する多様性の国への興味、米国臨床研修への好奇心-。どれも漠然としたものでしたが、医学部を卒業したばかりの血気盛んなころのわたしにとって、動機はそれだけで十分でした。
もちろん、当時は長期的なキャリアまでしっかりと計画していたわけではありません。当初は、「小児科医として、臨床と研究の両方をしたい。日本では、特に小児科は臨床が忙しく、両立は難しいと聞く。米国なら小児専門病院があり、臨床と研究の両立が可能だ」ともっともらしく周囲に言っていました(特に家族の説得に)。今思えば、何と的外れな説明でしょうか。日本のハイレベルな研究が、臨床に近いところでも行われていることすら当時は知りませんでした。
■多くの友人が日本に帰った訳
日本を飛び出して10年がたちました。最近は「米国に渡った訳」よりも、「米国に残っている訳」を尋ねられることが増えました。
米国に来てから、多くの日本人の友人ができました。最初の町ボストン、そしてニューヨークで、さまざまな分野の人と知り合いました。しかし、米国に落ち着いたかに見える彼らの多くが、日本へ帰ってしまいました。その訳を探していた時、日本に帰って行く友人の一人が、別れ際にこぼしたことがあります。「これで、今後は『どうしてここにいるのか』という問いに、答える必要がなくなる」。
「どうして米国に残っているのか」という問いは、つまり「どうしてここにいるのか」という、突き詰めてしまえば、その人の存在理由を尋ねる問いです。日常的にこの問いの前に立たされると、じわじわと効いてくるボディーブローのような心理的圧迫になります。それはまるで小学校で、休み時間に自分のクラスではない部屋に行った時の、何とも言えない居心地の悪さと似ている、と言えば分かっていただけると思います。
別に誰かが毎日質問してくるわけではないのです。しかし、人が日常を重ねていくと、つまらないことにつまずくものです。駐禁を取られたり、自転車を盗まれたり-。そんな時、「どうしてこんな国にいるのか」という思いが、自然と自分の中にわいてしまうものです。それは裏を返せば、「別に日本も悪い所じゃないのに、なぜそこにいないのか」というのと同じことです。「今ここにいる場所のほかに、いてもいい場所がある」という事実は、現在地をオプションの一つにしてしまいます。オプションを選ぶには理由が必要です。そして、自分の存在理由を説明することは、そんなに簡単なことではありません。それが、多くの友人たちが帰って行った理由の一つだと思います。
■「なぜここにいるのか」の答えを求めて
では、わたしが米国に残っているのはなぜか。小さな要素はたくさんあるのですが、はっきりと公言できるほど大きな理由は存在しないように思います。自分に正直になればなるほど、今の自分は成り行きに任せているというのが真実かもしれません。渡米して医師としてのトレーニングを始めることができて以来、幸運にもステップアップを続けることができ、今の専門医フェローシップに至っています。トレーニングが続いてきたから、そのまま残っている、というのが現状を正確に表しているかもしれません。
わたしが学生のころは日本の医学教育の見直しが大きな注目を集めていて、米国の臨床教育の良さが評判になっていました。渡米後10年近くがたち、臨床研修も修了に近づいてきています。とても良い教育を受けられたと思いますが、それと同時に、日本も米国も、一医師の活動の場としては根本的には同じではないかと思うようになりました。患者さんと一対一で向き合って、人として正しいことをする。臨床医として活動していくなら、米国でも日本でもあまり変わらないということに気が付いたのです。学生を終えたばかりの当時の自分には見えないことでした。
このように思えるようになった今、この先、トレーニングを終えた後も残るかどうか、本当のところ、よく分からなくなっています。今後、どれだけ自分が米国という場になじんで、居心地が良くなるか、ということが最大のカギになってくるでしょう。「自分はなぜここにいるのか」という問いに素直な答えが見つかるまで、もしくはそういう問いから自由になるまで、わたしの「冒険と挑戦」は続いているのかもしれません。
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