妻の妊娠も5ヵ月を過ぎた頃でしょうか。ニューヨークでの初新年を病棟で患者さんやナースと共に迎え、ちょっとへこんだものの、第一子の性別が分かる時期が迫っており、ニューヨーク大学病院でのエコー検査の日を心待ちにしていました。1月6日に実施したエコーの結果、性別は男。長男と分かり、というよりは、特に目立った奇形がないことが分かり、ほっとしていたのを思い出します。しかし問題はそこではありませんでした。
雇用者を通じて加入している民間保険、一般的にはどうなのか分かりませんが、少なくとも私の病院の場合、契約が毎年更改されます。保険会社と雇用主(病院)が毎年交渉し、その年の契約内容を決めます。契約内容は被保険者にはBenefit(福利厚生)と呼ばれる形で、毎年どこがどう変わったか説明されます。
その年、新年を迎えて契約内容が変更されました。それに伴い、保険者番号も変わり、新たな保険カードが家に届きました。同じ保険に同じ雇用主を介して加入していながら保険者番号が変わる、ということ自体が今でも良く理解できないのですが、どうもその年は大きな変更があったようで、とにかくそうだったのです。エコー検査が実施された時に提示したのは、昨年から使っていた古い保険カード。勘の良い方はもうお気づきかもしれませんが、これがまた新たな面倒を引き起こしたのです。
起こった面倒を説明するために、もう少し保険の話をします。保険契約内容には、診療の自己負担割合にあたるCoinsurance(日本だと普通これが3割ですよね)、診察ごとに払わなければいけない一定額であるCo-payに加え、Deductible(免責金額)というものがあります。Deductibleとは、保険が効かない金額のことを指し、一年の上限額が予め設定されています。
例えばそれが年間500ドルだとします。そして出産のために入院し、2500ドルの請求書が来たとします。その際、最初の500ドルはDeductibleになり、保険が効きません。すなわち、まず500ドルは自己負担しなければなりません。残りの2000ドルに保険がかかることになり、Coinsuranceが2割だと、400ドルがさらに自己負担として追加されます。結果として900ドルの自己負担が生じることになります。Deductibleは年間の金額ですので、その年に再度入院したとしたら、次は全額保険が効きます。
私の場合、そのDeductibleが年間300ドルでした。そして、エコー検査の請求書は、Deductibleを全て使いきった形で、約350ドル。これでDeductibleは、その年に控えた出産を含め、もう適用されないことになります。しかし、しばらくして届いた別の診療での請求書に、なぜかまたDeductibleが適用されています。300ドルを二回、計600ドルのDeductibleを同じ年に支払っていることになります。多分保険会社の単純な事務手続きミスなんだろうと気軽に考えていましたが、事態はもう少し複雑で、思った以上に解決にも時間がかかりました。
(次回に続く)