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新道悠

ブログについて

日本でも徐々に拡がってきている緩和医療と、高齢化が進みながらもあまり馴染みの無い老年医学について、米国でのフェローシップを通じて学んでいく予定です。 私自身、卒後8年目での渡米で、日本での医療をよく知る医師の一人として、日米の医療の違いなども含めて、日本人の先生にシェアしていきます!

新道悠

2012年に千葉大学医学部を卒業後、福岡県の飯塚病院/頴田病院にて初期研修医と総合診療専門医(家庭医)の専門研修を行う。 卒後8年目の2019年よりNYのMount Sinai Beth Israel 病院の内科にてレジデンシーを行い、2022年からMount Sinai Hospitalの老年/緩和フェローとして勤務中。

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アメリカの病状説明(Goals Of Care discussion)とは?

アメリカでの緩和ケアチームの重要な役割の一つに Goals Of Care discussionと言われる、医療チームと深刻な病気を持った(もしくは病状がかなり悪い)患者さん/家族とのコミュニケーションをサポートする役割があります。

日本で言うところの「病状説明」に近いような気がしますが、アメリカだと日本と若干異なり、「患者さん自身が病状をしっかり理解した上で、自分の意思で治療方針を決定する」ことが定着しています。

そのため、ただ「病状の説明をするだけ」といより、本当に会議みたいな込み入った話し合いになります。(Goals Of Care DiscussionやGoals Of Care Meetingと言う言葉がぴったりです)

これだけ聞くと「病状の説明だけなら専門科じゃなくてもできるんじゃない?」と思いますが、緩和ケア科が一般的にコンサルトを受けるような病状がかなり深刻なケースでは、そもそも複雑な医学的な情報をどのように患者さんと家族にわかりやすく伝えるか、それに伴う患者さんの様々な感情へどう対応するか、「何が患者さん/家族にとって大切か?」を踏まえた患者さん/家族の意思決定のサポートをすると言う具合に、かなり高度なコミュニケーションが必要とされることもあり緩和ケア科がコンサルタントとして機能します。

一般的にコンサルトを受けるような具体的な例を挙げると、

「ある患者さんが心肺停止状態で病院に運ばれて、心拍再開後に集中治療室に運ばれて急性機治療を受けたものの、その後の検査で低酸素脳症が判明(一般的に機能回復の可能性がかなり低い)。家族と今後の治療方針について、現行の治療継続かホスピス/緩和ケアへの移行かの話し合いをしたい(アメリカでは抜管/呼吸器の中止が可能なのでそこも含めて)」といったように、病状もかなり悪い中で、現行の治癒/回復を目指した治療を継続しても望むような効果が期待できず「ケアのゴールを見直した方がいいかもしれない(Goals Of Care)」と主治医チームが感じたときにコンサルトを受けます。

ちなみに、病院で緩和ケアがこれらの重篤な病気/疾患を持っている患者さんのケアに関わると、ICU滞在期間の短縮/入院期間の短縮/患者満足度の向上につながり、医療費の削減にもつながることが知られています。(1)(2)

確かに、実際緩和ケアのフェローとして働いていると、緩和ケアチームが介入することで、患者さん/家族の集中治療室(ICU)から在宅ホスピスへの移行を手助けしたり、主治医チームと患者さん/家族のコミュニケーションを橋渡しすることで感謝されたりすることも多いので、データに出ている効果を日々の仕事でも感じることがあります。

参考:
(1) Morrison RS. “Palliative Care Leadership Centers’ Outcomes Group. Cost savings associated with US hospital palliative care consultation programs.” Arch Intern Med. 2008 Sep 8;168(16):1783-90.
(2)Casarett DS. “Measuring Families’ Perceptions of Care Across a Health Care System: Preliminary Experience with the Family Assessment of Treatment at End-of-life Short Form (FATE-S),” J Pain Symptom Manage, 2010; 40:801-809.

Goals Of Care Discussion (病状説明)のコミュニケーションツール

 

今回は、このGoals Of Care discussionで緩和ケアフェローが学ぶコミュニケーションのテンプレートであるREMAPについて解説します!(今回はRとE)

ちなみに、この「深刻な病状を患者さん/家族と話し合う」コミュニケーションのツールはVital Talkと呼ばれる複数の学会が運営しているサイトからも見ることができます。

本家のVital Talk自体もコミュニケーションのワークショップをしているほか、各専門科に特化したGeri Talk (老年/緩和ケア)やOnc Talk(腫瘍内科)などもあります。

REMAPで深刻な病気/病状を患者さん/家族と話し合う

我々緩和ケアのフェローは、深刻な病気・病状を話し合う際のフレームワークとしてREMAPと言うツールを教わります。(頭文字)

R: Reframe ->「病状わかりやすくまとめる」

患者さんや家族が「医学的に何が起こっていて、それが自分(家族)にとってどう言う意味なのか?」をきちんと理解することは重要です。

その理解を助けるために、情報を噛み砕いてシンプルにまとめて伝えるのがReframeです。

ここでよく使われるテクニックを紹介します。

  • ASK TELL ASK:

1つ目のASK:「今までのところどのように病状について説明を受けていますか?」

患者さんや家族の大まかな理解の具合をはかれるのはもちろん、結構オープンな質問なので患者さん/家族がどのような事が気になってるのか?なども一緒に教えてくれる場合が多いです(それに合わせて次のTELL部分を調整できる)。

また、患者さん以外に参加している人たち(家族、友人、パートナーなお)にも話を振る事で(「今のことに付け加えたいことはありますか?」など)、実は話したい事がある人のことも把握できたりします。

TELL:「シンプルなサマリー+そのことが患者さん/家族に取って何を意味するのか?」

全体像がわかるような(“Big Picture”ってやつですね)シンプルなサマリーを心がけます。(例えば一番最初のASKで「全く何も知らない」場合などは少し詳し目の説明が要る事がありますが)

そんな時に心がけるのがHEADLINE(新聞などの見出し)を考えるようにサマリーを作ること。

例えを挙げると。

「感染症がかなり重篤で、集中治療を受けている現在でも体の各臓器が機能しなくなってきています。現状の通りの治療を続けていても、亡くなる可能性が高いです。」

「今回のCT検査で、癌が他の臓器にも転移している事がわかりました。この検査の意味するところは、この癌は根治することはできないと言う事です。」

→患者さんたちの元々の病気の理解度や、経過などで、ここまでシンプルにできるかは変わりますが、基本的には「全体像がわかるような」サマリーを伝えます。

また、その事が「患者さん(家族)に取って、何を意味するのか?」も組み込む事が大切です。

2つ目のASK:チェックインもしくは、TELLが伝わっているかの確認

→例えば、TELLで伝えたニュースで明らかに患者さん/家族が感情的になっていそう(ショックを受けてる様子など)な場合には、「驚いたと思いますが、今どのようなことを考えていますか?」のように内容の理解を測ると言うよりは感情面のチェックのASKをすることもあります。TELLが正確に伝わっているか不安がある場合には、「私の説明が十分だったか確認したいので、例えば他のご家族に今聞いたことを説明するとしたらどうやって伝えますか?」みたいに理解の具合をダイレクトに聞くこともあります。

E: Expect Emotions→「感情に対応する」

基本的にミーティングのどの段階でも感情は発生しうるので、その都度対応をしていきます。

と言うのも、人は基本的に感情的になっているとそれ以上新しい情報を頭に入れたり、何かを冷静に判断することなどが難しくなるため、患者さん/家族などの感情を示すような言動/行動などは見逃さず対応していく事が大切です。(無視して話を進めてはいけない)

ここで役立ついくつかのテクニックを紹介します!

  • NURSE statement:感情に対応する代表的なテクニックの頭文字
NAMING:「驚いているようですね」→名前を付ける事で、感情を言語化する。
UNDERSTANDING:「驚いたり、ショックを受けるのは当然の事です」→感情を抱くことに理解を示す。
RESPECT:「(例えば感情的になりながら家族を心配する事を述べた場合)このような状況にあっても、ご家族のご心配をされるのは、いかにご家族を大切に思われているかがよくわかります」→感情を示すような言動/行動に対する敬意。
SUPPORT:「(積極的な治療はできなくとも)私たちチームが今後もサポートしていきます」→緩和ケアが介入するようなケースは、かなり病状が悪く積極的な治療が困難なケースが多いですが、「積極的な治療の選択肢がない」ことは「サポートできない」わけではない。(見捨てられた感を払拭する)
EXPLORE:「その発言はどのような意味ですか?(もう少し詳しく教えてもらえますか?)」→発言の意図を探る(Explore)
  • I WISH statement:「私も、もっと良いニュースを伝えられればよかったのですが、残念です。」→例えば、末期癌患者さんへの説明で「もっと他に根治を目指せる治療方法はないのか?」などの、「残念ながら他の選択肢がない」ような場合に使う事が多いです。
  • SILENCE:感情を表出している場合、それを許すような時間/スペースをとるために意識的な沈黙。やってみると、沈黙してる時間はなんとなく気まずく感じてしまって、何か言いたくなりますが、そこをこらえます。

まとめ

今回は、アメリカで緩和ケアのフェローが習う、病状説明(Goals Of Careミーティング)のコミュニケーションスキル/テクニックについて紹介しました。

筆者は純日本人、英語は第二言語なので、最初はかなり不安もありましたが、複雑な病状説明も細かくスキル/テクニックに分けて練習をしていくことで上達していくのを実感しています。

次回は、REMAPの残りのM・A・Pについて解説していきます!

 

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