Skip to main content
ピーターソン由紀

ブログについて

ピーターソン由紀

2000年にテネシー大学マーティン校より看護学士取得、アリゾナ大学病院で心臓血管外科ステップダウンユニットに2年間勤務後、心臓血管ICUに10年間勤務。2012年よりミシガン大学病院ECMOプログラムでECMOスペシャリストとして勤務。2016年より同プログラム、ナーシングスーパーバイザーとして勤務。

★おすすめ

(この記事は2018年9月21日に 活動的な高度な自律的なナースのための情報サイト 日経メディカルAナーシングhttp://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/anursing/ameirogu/に掲載されたものです。該当記事をご覧になるには会員登録が必要です。)

私は、アメリカの病院で「ECMOスペシャリスト」として働いています。ECMO(Extracorporeal membrane oxygenation)とは、自己肺の代わりに体外式膜型人工肺を用いてガス交換を行い、生命を維持する治療のことです。日本ではあまり聞き慣れない職種だと思いますが、ECMOスペシャリストは、ECMOを医師以外が管理できるように特別に訓練された看護師や呼吸療法士のことです。現在のところ国家資格ではなく、病院単位の認定資格となっています。現在の病院では、年間100例以上のECMOの患者を管理しています。私は、ECMO開始から離脱まで全過程に携わっており、日々学ぶことが尽きません。 

今回は、アメリカ留学からこれまでの道のりの前半として、アメリカの正看護師免許(RN:Registered nurse)を取得し、働き始めるまでの苦労を紹介します。

日本でICUの看護師として働いて3年目の頃に、「これから看護師としてどうしようか、このままでいいのだろうか」などと考え始めました。当時、看護系の様々な学会に、アメリカの有名大学の教授などが招かれており、アメリカの看護の事情などの講演を聴く機会があり、アメリカの医療・看護に強い興味を抱きました。そして、実際にアメリカの看護師の仕事を見てみたいという思いが強くなりました。

今から20年以上前の当時、特に印象に残っているのは、アメリカでは、「心不全の患者でもドブタミンの点滴治療を受けながら家に帰る」という話を聞いたときのこと。「え?カテコラミンを使いながら退院できるの?」と、とても驚いたのを覚えています。今では、何てことないことかもしれませんが。

日本の看護師免許をアメリカで有効化する場合、登録したい州の看護協会(Board of Nursing; BON)に申請し、日本で受けた看護教育が十分であったかについて書類審査を受けた後、アメリカの看護学生と同様の国家試験(NCLEX)を受けて合格しなければなりません。また、授業科目名や授業内容が日米で異なる場合も多々あり、授業時間数の不足などの不備を指摘された場合は、アメリカの看護学校で指摘された授業科目を履修し、単位を取らないといけません。(関連記事:米国の看護師免許はどうやって取得するの?

留学資金が底をつき、看護学部長に直談判

私が、最初に悩まされたのは英語力です。私は留学した当時、アメリカの大学の講義内容を理解できるほどは英語力がなかったため、大学の英語学校で、半年間英語の勉強をしました。さらに大学に入学してからは、一般教養で足りない単位が多数あり、それを取るのに1年半かかりました。RN-BSNコース(正看護師[RN]が大卒の看護学士[BSN]になるための短期コース)に入ることを考えていたため、まずはアメリカの看護師免許が必要であり、免許を取るための手続きをしていたのですが、思った以上に時間がかかりました。

アメリカに住んだことのある方ならお分かりかと思いますが、アメリカでは、日本では考えられないような間違いが起こったり、また、間違いをした担当者から謝罪もなく、こちらがやり直さなくてはならないようなことがしばしばあります。

私の場合も、アメリカのNCLEX(日本でいう看護師国家試験)を受けられるようになったのが、免許を取るための手続きを開始してから1年近く後となりました。RN-BSNは専門学校、短期大学卒の看護師が臨床経験をしたのちに看護学士を取得するコースですから、アメリカでのRN免許が必要になります。看護の授業を受講するための手続きをする時点でRNの免許がなかったために、RNの免許のない通常の学生と一緒に、すべての授業を受けなくてはならないことになりました。

ただ、この時点でアメリカに来て2年が経っており、金銭的にこれ以上大学にいる期間を延長するのは難しい状況でした。ほかの留学仲間からは、アメリカでは黙っていては何も始まらないが、担当者にいろいろ事情を話すと道を探してくれる可能性があることを聞いていたので、ダメ元で、大学の看護学部長に、日本での看護師の経験と、この状況では資金不足で大学に通えなくなるかもしれないことなどを相談しました。

その結果、基礎看護1と2については、試験に受かれば講座を受講しなくてもよいことになり、試験に合格したため、卒業までもう3年かかるところを2年で終えられることになりました。

看護の基本は同じでも、文化が違うと求められるスキルも変わる

肝心のRN免許取得については、看護学部の新学期が始まってしばらくした頃、やっと国家試験(NCLEX)を受ける許可が下りました。ただ、当初はRN免許の取得後はRN-BSNコースに入ることを考えていましたが、自分の英語力不足を痛感していたためRN-BSNコースには進まず、そのまま、まだRNの免許のない学生たちと同じ授業を取ることに決めました。

というのもRN-BSNコースは、すでにRNとして働いている人のためのコースであり、実習などをすることはほとんどありません。実際に学生としてベッドサイドに行ってみると「血圧を測ります」という簡単な会話ですら、英語でなんと言うのだろうかと、コミュニケーションの一つ一つに疑問を持っていました。

また、日本とアメリカの文化、習慣の違いから、看護の基本は同じでも具体的なやり方が異なることが多々ありました。20年ほど前の経験ですので現在の看護事情と異なるとは思いますが、例えば清拭一つとっても、方法が全く違いました。

当時の日本ではまず、温かいお湯に浸したタオルで患者さんの身体を拭き、次に、石けんをつけたタオルで清拭し、最後に綺麗なお湯を使って石けんをふき取る、という流れでした。ところがアメリカでは、洗面器にお湯とシャワージェル(液体の石けん)を入れて、ウォッシュクロスで患者さんの身体を拭くだけ。「え? 石鹸をふき取らないの?」と驚いたことを覚えています。アメリカで初めて学生として患者さんの清拭をした際には、日本の方法で行ったため30~40分ほどかかってしまい、あまりに時間がかかるので、同級生が心配していました。

短期間で、まだまだ知らないことがたくさんあることを感じ、このまま学生として実習をすることが、私の今後にとってプラスになると思ったのです。

いろいろ苦労をした結果、幸運にもNCLEXに受かり、在学中にRNの免許を取得できました。その後、大変ながらも何とか卒業でき、卒業後RNとして実際に働くことになりました。

次回は、その後、ECMOスペシャリストになるまでの道のりをご紹介します。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。


バックナンバー