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アメリカで得られないものが日本にあるように、日本では得られないものがアメリカにはある。感染症、予防医学、公衆衛生学について、ニューイングランドでの日常を織り交ぜつつ、考えたことを記していきたい。

青柳 有紀

Clinical Assistant Professor of Medicine(ダートマス大学)。国際機関勤務などを経て、群馬大学医学部医学科卒(学士編入学)。現在、アフリカ中部に位置するルワンダにて、現地の医師および医学生の臨床医学教育に従事。日本国、米国ニューハンプシャー州、およびルワンダ共和国医師。米国内科専門医。米国感染症専門医。米国予防医学専門医。公衆衛生学修士(ダートマス大学)。

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2012/04/23

Preventive Medicine Residency 1

今日は、一つ大きな仕事をやり遂げて、充実感に満ちた日でした。

感染症のフェローシップと並行して行っているLeadership Preventive Medicineのレジデンシーに関連して、私が現在の職場で進めている医療の質の向上(Quality Improvement, QI)を目的としたプロジェクトの採否を検討する会議があったからです。何人ものreviewerが注目する中でプレゼンテーションを行い、質疑応答を経たあとに、その場で投票が行われ、病院の正式なプロジェクトとして承認されるかどうかが決定されます。胃のあたりが痛くなるのを感じましたが、何とか全員一致で承認を取り付けることができました。

 

Preventive medicineの専門医教育は日本では一般的に行われておらず、また過去に米国でこの分野のレジデンシーもしくはフェローシップを修了した日本人はごく僅かであるため、日本では確立された一つの医学分野としてあまり認知されていないのが現実です。Preventive medicineは、「予防医学」という日本語に訳すことができるため、例えば糖尿病や心疾患などの予防するための医療を指すのだろうと一面的に捉えられがちですが、実際にpreventive medicineが扱う領域はそれよりも遥かに広いものです。専門医の認定を行うAmerican Board of Preventive Medicineによれば、preventive medicineとは以下のように定義できます:

“Preventive Medicine is the specialty of medical practice that focuses on the health of individuals, communities, and defined populations. Its goal is to protect, promote, and maintain health and well-being and to prevent disease, disability, and death. Preventive medicine specialists have core competencies in biostatistics, epidemiology, environmental and occupational medicine, planning and evaluation of health services, management of health care organizations, research into causes of disease and injury in population groups, and the practice of prevention in clinical medicine.”

(「予防医学とは、個人、コミュニティ、そして特定の人々の集団の健康に焦点をおく医療行為を専門領域とするものである。予防医学の目的は、健康と福利を守り、促進し、維持することであり、また疾病や障害、そして死を防ぐことでもある。予防医学の専門家は、以下の領域を核として、秀でた能力を有している。すなわち、生物統計学、疫学、環境および労働医学、医療サービスの立案と評価、各種医療機関の管理、集団における疾病や傷害の原因についての研究、そして、臨床医学における予防の実践である」)

 

現在、全米で70以上のACGME(卒後医学教育認可評議会)によって認可されたpreventive medicineのレジデンシーもしくはフェローシップ・プログラムが存在していますが、各々のプログラムによって焦点とする教育内容にかなり違いが見られます。私が所属しているダートマス大学のプログラムは、Leadership Preventive Medicineと名付けられており、QIとアウトカムリサーチを担う人材の育成を主な目的としています。なぜ”Leadership”という単語が加えられているかといえば、任意の医療システムにおいて質の改善を担おうとする者は、必然的に高いリーダーシップを有し、かつ目的の実現のためにそれを発揮することが求められることから、リーダーシップを養成するための専門的な教育の機会がプログラム組み込まれているためです。

 

ダートマスの Leadership Preventive Medicine Residencyがその他の点でユニークなのは、それがcombined programであるということで、このプログラムで学ぶためには、そもそも既存のダートマスのレジデンシーもしくはフェローシップ・プログラムに属している必要があります。私の場合は、感染症フェローとして1年間勤務したのち、2年目からこのプログラムに並行して所属しています。同期は私を含めて6人ですが、彼らがそれぞれ所属しているフェローシップおよびレジデンシーは、リウマチ科(1名), 集中治療(1名), 病理学(1名),感染症(3名)といったように様々です。

 

通常、米国における感染症フェローシップは2年間を要しますが、combined programであるダートマスのLeadership Preventive Medicine Residency(2年間)と合わせると、1年短縮して計3年間で米国感染症専門医試験と予防医学専門医試験の受験資格、およびダートマス大学から公衆衛生学修士号(Master of Public Health, MPH)を得ることができます。なぜMPHが取得できるかというと、preventive medicineを理解および実践する上でコアの知識となる、疫学や医療統計学、公衆衛生学といった分野の教育の必要性から、ダートマスに限らず多くのpreventive medicineのレジデンシー・プログラムにおいてMPHがカリキュラムの一部として組み込まれているからです。

 

では、その費用はどのような財源から賄われているのでしょうか。ダートマスで公衆衛生学の修士号を取得しようとすると、通常は授業料だけで約5万6千ドルがかかります。多くのpreventive medicineのレジデンシー・プログラムは連邦政府からの補助を受けており、MPHが取得可能なプログラムは、基本的に米国市民以外の応募者を受け付けていません(米国でpreventive medicineの専門医教育を受けた日本人が極めて少数なのはこうした理由もあります)。ダートマスにおけるLeadership Preventive Medicineはいくつかの特殊な事情から、全米でも数少ない外国人にも門戸を開いているプログラムとなっており、フェロー(あるいはレジデント)としての職務に対する通常の給与に加えて、MPHの授業料が全てカバーされます(このような、外国人に対してもMPHの取得の機会を与えているプログラムは、ダートマス以外では私の知る限りミネソタ州のメイヨークリニックのプログラムしかありません)。

(続く)

 

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