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青柳有紀

ブログについて

アメリカで得られないものが日本にあるように、日本では得られないものがアメリカにはある。感染症、予防医学、公衆衛生学について、ニューイングランドでの日常を織り交ぜつつ、考えたことを記していきたい。

青柳有紀

Clinical Assistant Professor of Medicine(ダートマス大学)。国際機関勤務などを経て、群馬大学医学部医学科卒(学士編入学)。現在、アフリカ中部に位置するルワンダにて、現地の医師および医学生の臨床医学教育に従事。日本国、米国ニューハンプシャー州、およびルワンダ共和国医師。米国内科専門医。米国感染症専門医。米国予防医学専門医。公衆衛生学修士(ダートマス大学)。

2011/12/20

アメリカ

公衆衛生大学院の秋学期が終わり、今週は一般感染症のコンサルト・チームで働いている。

 

アテンディングのJeff (Parsonnet)は、一昨年までフェローシップ・プログラム・ディレクターを務めていた人物で、僕をフェローとして雇ってくれた人でもある。去年までの一年間、外来でも彼は僕の直接の指導医だった。

 

おそらく誰にでも、人生において目標とするような医師が何人かはいると思う。僕にとっての彼もそうで、一緒に働いていて何度その鋭い洞察と診断力に驚かされたか数えきれない。優れた医師なら誰にでも共通する特徴だが、「一を聞いて十を知る」のが彼だ。

 

冗長なプレゼンテーションが嫌いで、フェローや他のアテンディングの話を最後まで聞かない。無駄な抗菌薬治療は絶対にしない。時にはこっちがヒヤヒヤするくらい大胆にスペクトラムを絞っていくし、必要ないと判断すればすぐに抗菌薬を切ってしまう。それでいて、絶対に大きな判断ミスはしないし、状況によっては矢鱈に用心深くアプローチする。ダートマスの感染症科のファカルティの中でも彼は一目置かれていて、尊敬の念を込めて人は彼を「ミニマリスト」と呼ぶ(プロフェッショナルとして優れた条件の一つは、同僚に尊敬されているということである)。

 

彼は、ハリソン内科学(17版まで)の骨髄炎の章の執筆者でもある。彼と骨髄炎の症例を担当する時はいつも特別な気持ちになる。なぜならそれは、僕にとって考えうる限り(僕が現実的に手に入れられる限りにおいて)最高のトレーニングを意味するからだ。それは形容し難いほど贅沢な時間だし、実際に僕はこの国で専門医教育を受ける大きな意味をそこに見い出している。

 

もう一度人生をやり直すとしても、僕はこの国に来ることを選ぶと思う。

 

3件のコメント

  1. 私の師事してる小児肝臓医も66歳にして無尽蔵のエネルギーで持って臨床に研究に活躍してる人です。彼も至極ミニマリストです。余計なことはしないし、”Cover your ass”なコンサルトは全くしない。感染症にコンサルトすることなんてめったにありません。コンサルトするぐらいならある程度診断をつけて転科させます(川崎病とか)。フェローも若手の指導医も言います。”彼が病棟担当の時は、夜勤当直の人の仕事はただひとつ。患者が死なないようにすること。次の日の朝に彼が診ることさえ出来れば、どんな状態でも彼が治して、患者は大丈夫だから。” ミスを許容しないアメリカの研修システムにおいて、こういった土壌で修行できるのは天佑だと思います。 
    彼にも世界で第一人者と言われる病気があって、その疾患を彼と診る時は背筋が伸びます。まあ、彼の場合は懇切に教えることはなく、”黙って見てろ”と言った職人かたぎなスタイルですが。

  2. 浅井先生の文章を読みながら、先生が師事するアテンディングの姿を思い浮かべていました。僕らが、尊敬すべき指導医かつ世界の第一人者と言われるような人たちと一緒に働くことができるのは、やはりこの国にいるからだと思います。先生はそれを「天佑」と言ったけど、同時に、それは先生自身の手で掴んだものでもありますね。

  3. ミニマリストでいられるのは本当に優秀で勇気がないといけませんよね。私のトレーニングでは残念ながらそういうメンターには出会えませんでした。先生方がうらやましいです。うちはどうも訴訟から身を守るDefense medicineになっている人が多いです。

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