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青柳有紀

ブログについて

アメリカで得られないものが日本にあるように、日本では得られないものがアメリカにはある。感染症、予防医学、公衆衛生学について、ニューイングランドでの日常を織り交ぜつつ、考えたことを記していきたい。

青柳有紀

Clinical Assistant Professor of Medicine(ダートマス大学)。国際機関勤務などを経て、群馬大学医学部医学科卒(学士編入学)。現在、アフリカ中部に位置するルワンダにて、現地の医師および医学生の臨床医学教育に従事。日本国、米国ニューハンプシャー州、およびルワンダ共和国医師。米国内科専門医。米国感染症専門医。米国予防医学専門医。公衆衛生学修士(ダートマス大学)。

Certificate in Travel Health ™(CTH®)とは、International Society of Travel Medicine (ISTM)が主催する旅行医学の認定試験のことです。ISTMは旅行医学の国際学会で、毎年一回開かれる総会に合わせてこの試験も行われます。今年の総会は自宅から車で2時間半ほどのボストンで開催されたため、私もこの試験を受けてきました。

 

ISTMのウェブサイト(http://www.istm.org/)にあるCTH®受験者のための案内によれば、この認定は「旅行前ケアおよびコンサルテーションに関連した、(旅行医学に)固有の知識体系に精通したプロフェッショナルであることを認めるもの」とされています。CTH®試験は以前から行われていましたが、今年から「10年ごとの更新制度」が新たに導入されました。ISTMは旅行医学分野における専門性の維持という観点から生涯教育の重要性を唱えており、その一環としてCTH®を位置づけています。更新方法には現在のところ2種類の方法が示されており、(1)10年後のCTH®試験に再度合格するか、(2)ISTMが定める教育活動を通じて一定の単位を取得するか、のいずれかにより可能となります。アメリカの専門医資格試験(例:米国内科専門医試験など)は一般的に10年ごとの更新なので、新たな知見とともに変化しつづける医学領域におけるある種の専門性を証明する認定試験として、これは妥当な決定と言えるでしょう。

 

CTH®がユニークな点は、それが決して医師だけを対象にしているわけではないという点です。北米では、トラベル・クリニックにおけるケアは医師だけでなく、しばしphysician assistantやナースによっても行われており、こうした医療従事者もCTH®試験を受験することが可能です。現在、私が所属している病院にもトラベル・クリニックがあり、pre-travel consultationから帰国後のケアまで広く扱っています。したがって、CTH®は「認定医」試験ではありません。また、学位や学会の称号でもないので「○○ ○○, MD, CTH」といったような記載はすべきではなく、ISTMもその使用に関してはホームページ等で詳細に規定しています。また、専門医資格とは異なり、CTH®を取得しているからといって、(少なくとも私が知る限り)医師として仕事に就く際にポジションを得やすくなるとか、サラリーに反映されるといったこともないようです(CTH®を取得していなくてもトラベル・クリニックに従事することは可能で、実際には取得していない医師の方が多いように思われます)。

 

CTH®を目指す理由はそれぞれ異なると思われますが、私自身の理由は、(1)試験への準備を通して、最新の情報も含めて自分の旅行医学分野の知識を整理しておきたかったこと、また(2)試験会場が2時間半で行けるボストンだった、というただ2点に尽きます。ISTM総会の開催国は基本的に毎年異なり(昨年はフロリダで、一昨年はハンガリーでした)、 2012年の開催地はシンガポールです。つまりCTH®を受験するためには、決して安価ではない受験料(ISTM会員の医師だと450ドル。会員でないと650ドル!)に加えて試験会場までの渡航費用を工面しなくてはならず、金銭的にもまた時間の面でも、決して気軽に受験できる試験とは言えないのが現実です。こうした状況にも関わらず、果敢にも日本から世界各地にCTH®合格を目指して飛び出していく方々の志の高さには頭が下がる思いです(ところで、日本でCTH®はどのように認識されているのでしょうか?)。

(次回は試験対策について書いてみたいと思います。)

 


4件のコメント

  1. ごく最近、旅行医学について関心を持ち始めたのですが、国際的な資格があるとは知りませんでした。次回の試験対策を楽しみにしています。

  2. ブログ、参考にされていただいています。
    2012年のシンガポールの試験を受験予定で今、勉強中です。
    渡航者のワクチン接種をやっているのできちんとした勉強もやってみたいと思って
    受験を決めました。総合内科ですがいろいろチャレンジしたいです

    • Nakamura様:お役に立てば幸いです。旅行医学で扱う疾患、例えばマラリアなどは、遭遇する頻度は少ないものの、ご承知の通り、決して見逃してはいけない疾患ですし、日本のどこの外来にも患者さんが来られる可能性があります。総合内科で働いていらっしゃる先生方がCTH対策から得られるものは多いのではないでしょうか。良い結果を心から願っています。

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