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青柳有紀

ブログについて

アメリカで得られないものが日本にあるように、日本では得られないものがアメリカにはある。感染症、予防医学、公衆衛生学について、ニューイングランドでの日常を織り交ぜつつ、考えたことを記していきたい。

青柳有紀

Clinical Assistant Professor of Medicine(ダートマス大学)。国際機関勤務などを経て、群馬大学医学部医学科卒(学士編入学)。現在、アフリカ中部に位置するルワンダにて、現地の医師および医学生の臨床医学教育に従事。日本国、米国ニューハンプシャー州、およびルワンダ共和国医師。米国内科専門医。米国感染症専門医。米国予防医学専門医。公衆衛生学修士(ダートマス大学)。

最近、日本の研修病院でも、積極的に海外の医師を招聘して研修医向けの教育を行うところが増えてきました。

僕は、医学部を卒業して渡米するまでの約1年間、神奈川県茅ケ崎市にある茅ヶ崎徳洲会総合病院で研修医として勤務していました。久しぶりに昔の日記を読み返していたら、当時のことを綴った文章があったので、ここに掲載してみたいと思います。そして、数回に分けて、良く耳にする「大リーガー医」という概念について考えてみたいと思います。

日記は2006年11月6日の日付なので、今からちょうど5年前のものです。

 

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つい先日まで、僕の働いている病院にUCSFのLawrence Tierney教授がレクチャー目的で約2週間滞在していた。

UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)のティアニー教授といったら、内科医なら知らない人はいないくらいの有名人で、Current Medical Diagnosis and Treatment (CMDT)という定番のテキストのSenior Editorを務めている人物である。そういう人が2週間も滞在して午前中はみっちりレジデントの為にレクチャーをしてくれるのだから、うちの病院も捨てたものではない。

で、肝心の内容は、これまた本当に夢のように充実した時間だった。ケーススタディが中心だったけど、いくつかの特徴的な症状からシステマティックに鑑別診断を挙げていって、それを絞り込んでいく方法に強い印象を受けた。まさに「知識の宝庫」といった感じで、”I give you pearls…”と嬉しそうに関連する情報を列挙していくのだが、よくもあれだけ沢山のことを明確に記憶できるものだなあと、ただただ感心した。

2週間の間には、レジデントが症例を発表する機会もあって、僕が紹介した症例は、出産1週間後に突然発症した激しい前頭部痛で来院した女性のケースだったのだけど、CTやMRV(磁気共鳴静脈造影)の資料を見せる前から、ちゃんと「上矢状静脈洞血栓症」という診断を鑑別に挙げていたのには驚いた。日本の感染症内科の第一人者の青木眞先生も、彼のことを「世界最高の内科医」と表現していた。

彼は、時々レクチャー中に「この問題は難しいから当てたら100円あげるよ」といって、問題の正解者にコインを与えた。僕の今年の獲得賞金総額は400円で、賞金王だった。

写真は、僕のCMDTに彼がサインをしてくれているところ。


9件のコメント

  1. Dr. Tierneyは沖縄県立中部病院にも招聘医として訪れていて、僕もラッキーなことに何度かプレゼンをさせてもらいました!本当にすごい先生で、色々感動させてもらったのを覚えています。一つ思い出したエピソード…僕の医師のあり方の原点とも言える言葉があります。せっかくなので次の機会にブログに書かせていただきますね。

  2. 知り合いのUCSFのレジデンシー出身のアテンディングに彼のことを聞いたら、「あー、鑑別診断の神って感じだよね。VAのレジデントの症例リポートの時は、いつも“なぜ?”、”なぜ?”って質問して、考えさせるようにしてたよ。素晴らしい先生だよね」って言ってました。

    医学生が、一定のトレーニング期間の間に少しでも多くを学ぼうと、研修病院を吟味して選択するのは当然のことで、だから限られた時間とはいえ、世界最高水準の指導医からの教えを受けられる施設の人気が高くなるのは当然だと思います。沖縄中部も、そうやって優秀な研修医が集まってくるし、茅ヶ崎徳洲会の仲間も意識の高い人たちばかりでした。

    先生の「原点」となったエピソード、ぜひ聞かせていただきたいです。

  3. それはすごい人ですね。学ぶ側の研修医の資質も問われているのではありませんか。研修の充実は教える側と教わる側の協調作業だと思います。それを超えて素晴らしいのはスーパーマンですね。

    • コメントをいただきどうもありがとうございました。学ぶ側の研修医の資質も問われているというのはおっしゃる通りだと思います。採用する側の方々の苦労も大変なものがあると想像しております。ただ、研修病院としての魅力が高い施設ほど、より多くの志望者を集めることができ、それによって資質に優れた研修医を集めることができるのは確かだと思います。

  4. Tierney先生には一度だけ学生の時にお目にかかりました。日本中の学生に影響を与えている方なんですね。
    小児科には何故かそういう有名な人がいないのですが、どうしてでしょうね。鑑別診断が複雑になりえないのでしょうか? 診断をつけるのに、職人技のようなスキルは必要ないのかもしれません。

    • 小児科にもNIHのGreat Teachers(公開臨床症例検討会)に呼ばれるような人はいると思いますよ。ちなみに、僕が今まで読んだ臨床医学書の中で、最も面白いと思ったのは小児感染症の症例検討集で、著者の鑑別診断を含めたアプローチのあまりの素晴らしさに感動して、出版社に連絡を取って結局自分で翻訳することになりました。ということで、小児科でも素晴らしい方々は沢山いらっしゃいます。ちなみに本は来年4月発売予定です。また詳細をあめいろぐでも発表しますね。

  5. 私がレジデントをしていた湘南鎌倉にもTierney先生がレクチャーをしにきていました。箱根の温泉宿がお気に入りであったと記憶しております。私も先生のサイン入りのCDMT(2001年度版)をもっております。捨てられないので、いまだに本棚に飾ってあります。

    • 湘鎌にも来ていらしたのですね。確かにお時間があるときは箱根や静岡方面に足をのばされていたようです(あと、BSの大リーグ中継)。徳洲会は研修医教育へのinvestmentを惜しまない組織だと思います(このことについては、また機会を見つけて書きたいと思います)。

  6. Tierney先生ですか、懐かしいですね。Tierney先生と出会ったのは約20年程前、彼が東京国立第二病院(当事)の伊藤先生(米国家庭専門医)に招待されて1年間来られた時です。それが、彼の日本での最初のティーチングで、第二で毎日Moning conference をされていたようです。それが終わると、聖路加病院でも、ティーチングをされていました。私は、金曜日だけ、彼の後を金魚の糞のようにくっついていって、その知識のおこぼれをちょうだいしていました。

    聖路加でのティーチングで、英語で堂々とTierney先生にコメントをつけていた日本人スタッフ医師がいたので私はびっくり。その人が後で、青木眞先生と分かり、数年後、アメリカの研修病院からaway elective で青木眞先生が当事働いておられた新宿の国立病院まで、ご指導を受けに行ったことがありました。その後、Tierney先生と青木眞先生が友人同士になられたことを知って、またびっくりです。

    当事、Tierney先生に、どうしてそんなにいろいろな鑑別診断ができるのか、とお聞きしたことがありました。彼は、平然と、「インターンの時にいろいろな鑑別診断を覚えたんだよ。」というお答えでした。彼は、当事、UCSFで10年連続 Best teacher 賞を受けていました。まさに大リーガー医でした。

    Tierney先生と青木眞先生という2人の傑出した医師達に指導をしていただく機会を得て、本当にラッキーでした。

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