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青柳有紀

ブログについて

アメリカで得られないものが日本にあるように、日本では得られないものがアメリカにはある。感染症、予防医学、公衆衛生学について、ニューイングランドでの日常を織り交ぜつつ、考えたことを記していきたい。

青柳有紀

Clinical Assistant Professor of Medicine(ダートマス大学)。国際機関勤務などを経て、群馬大学医学部医学科卒(学士編入学)。現在、アフリカ中部に位置するルワンダにて、現地の医師および医学生の臨床医学教育に従事。日本国、米国ニューハンプシャー州、およびルワンダ共和国医師。米国内科専門医。米国感染症専門医。米国予防医学専門医。公衆衛生学修士(ダートマス大学)。

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前回も触れましたが、僕は医学生になる以前に社会人をしていました。

25歳の時に、若手国連職員を増やす目的で行われている外務省のアソシエート・エキスパート制度を通して国連教育科学文化機関(UNESCO)の職員となった僕は、最初の2年間、南部アフリカのナミビア共和国で働きました。担当した複数のプロジェクトの中で、特に関心をもって取り組んだのが、当時から大きな問題だったHIV/AIDSの予防に関するプロジェクトでした。

僕が駐在していた頃のナミビアの成人人口におけるHIV感染率は20%以上で、一部の調査で、20から24歳の年齢層では、その感染率は39%にのぼるというデータもありました。当時の僕のオフィスの裏手にはPolytechnic of Namibiaという大学があり、学生たちがUNESCOの建物の一階にある図書館を毎日のように利用していたのですが、希望に溢れ、見た目はとても健康そうな彼らの1/3が、およそ7年以内にAIDSを発症して死亡するかもしれないということに、強い衝撃を感じたことを覚えています。

群馬大学医学部の3年時に学士入学したのは29歳の時ですが、入学試験を受けると決めた時から、自分が将来国際医療、特に感染症を志すことは明らかでした。感染症フェローとしてダートマスで勤務している今、その選択をしてよかったと思っています。臨床医学にはさまざまな領域がありますが、専門化が進む中で、臨床感染症を専門的に学ぶ魅力を自分なりにまとめてみると、次のようになります。

1)感染症はcommonである。

患者さんはいろいろな理由で病院に来られますが、特に入院患者さんの場合、その多くが感染症の治療目的で入院になることが多いです。先進国における死亡原因としては虚血性心疾患や脳血管の疾患の割合が大きいものの、発展途上国においては死亡原因に占める感染症の割合は顕著に大きくなります(WHO, The Global Burden of Disease: 2004 update)。今、僕の手元に内科学教科書で有名なハリソンがありますが、項目別に色分けされた部分を比べてみても、最も多くのページが割かれているのは感染症の章です。それだけ学ぶことも多く、興味が尽きることがありません。

2)すべての臓器について、子供から大人まで

臨床における専門化は基本的に扱う臓器別に発展してきましたが(例:眼科、耳鼻科、循環器科、皮膚科といったように)、最近では解剖学的部位に基づいて、さらに専門化傾向がみられる気がします。NYで内科レジデンシーをしていた頃にこんなことがありました。胆道系の疾患疑いで消化器科にコンサルトを依頼したのですが、電話に出た指導医が「僕は肝臓が専門だから胆道系が専門の○○先生にお願いしてくれないかな」と言うのです。彼らは全員、消化器内科のフェローシップを修了した消化器内科専門医です。依頼したコンサルトの内容も診断に関するもので、特殊な手技を必要とするものではありませんでした。このように、消化器内科一つとってみても、その内部では様々な専門領域があり、実際の臨床現場ではそういった敷居で分かれた医療が提供される傾向にあります。

翻って感染症科はどうでしょうか。HIVや熱帯医学の極めて特化した分野を除いては、感染症でありさえすれば専門医なら対応できます。感染症の医師は、どんな臓器だろうと、そこに感染が起こっていると考えられる限り対応します。中枢神経系、眼、耳、鼻、口、心臓、肺、胃、肝臓、脾臓、腸管、筋、皮膚、血液、等々。細菌、ウイルス、真菌、原虫など、あらゆるタイプの病原体に対応します。「どんな臓器でも診る機会がある」。これは感染症科を志すの最大の魅力だと思いますし、上に述べた医療の専門化という文脈において、より大きな意味を持つと思います。

現在所属しているダートマスには小児感染症の専門医・指導医が3名おり、感染症フェローは日常的に小児の患者さんを診る機会があります(小児感染症フェローがいないので、僕を含めた(成人)感染症フェローがコンサルトを担当する)。小児科のレジデンシーを受けていないので小児感染症専門医試験の受験資格はもらえませんが、かなりの症例を経験することができ、このプログラムの特徴になっています。つまり、「すべての臓器について、子供から大人まで」診ることができるのです。

学ぶべきことは尽きず、常に高いレベルの医療を提供することは簡単ではありませんが、感染症にはやはり他には代え難い魅力があると思います。

2件のコメント

  1. 感染症科は院内でも確かに独特の集団ですよね。 ふと疑問に思ったんですが、「細菌学教室:Microbiology」の人達とはどういったインターアクションがありますか? 僕の育った名古屋大学では名物の細菌学教授がいて、院内でも色々と影響力があり臨床にも口を出していました。 アメリカではそういうの見たこと無いんですが、、、?

  2. うちのMicrobiolgyのディレクターはMDで、週1回の感染症科のカンファレンスには必ず参加しています。微生物学やdiagnostic testに関する話題がでるといつも貴重なインプットをしてくれますし、なくてはならない存在です。その他、週1回、フェロー&アテンディング向けにmicrobiolgy roundというのがあって、その週に結果がでた興味深い例について、プレートとか、グラム染色とか、顕微鏡を覗きつつ、講義してくれます。検査室のスタッフとは良い関係を維持しないと、IDの医者としては上手く働けない気がします。コンサルト業務をしている時は、毎日何回も彼らに電話することになります。「まだオフィシャルにレポートをだせないけど、これはほぼ間違いなく○○菌だろう」といった、いくつものやりとりが陰で僕らの間にあって、だからこそコンサルトされた症例に関してはアウトカムに違いがでるのだと思います。

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