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ブログについて

アメリカに住み始めて既に20年以上が経ちました。気がついてみたら、アメリカで生まれた4人の子供たちはすっかりアメリカ人として成長し、今年の秋には3人目が大学に入学します。今は、「日本」のことが恋しくてたまりません。趣味:テニス、サッカー、ジム、音楽鑑賞、読書(歴史物、特に日本の近・現代史)。尊敬する人:坂本龍馬。

津田 武

信州大学卒業。フィラデルフィア小児病院にて小児科レジデント、循環器フェロー修了。その後基礎研究に従事。2004年よりAlfred I. duPont Hospital for ChildrenにてStaff Cardiologist とし、臨床と基礎研究に専念。米国財団野口医学研究所常務理事(医学教育担当)。

津田 武のブログ
2012/01/14

私がなぜアメリカで小児科医として働いているのか?(1)

私は、現在アメリカ東海岸デラウエア州ウィルミントン市にある小児病院(Nemours/ Alfred I. duPont Hospital for Children)に小児循環器のスタッフStaff Cardiologistとして2002年から勤務している(2004年から常勤)。この小児病院は、フィラデルフィア空港から車で南に25分位の場所に位置し、フィラデルフィア市内にあるトーマス・ジェファーソン大学医学部の小児科本部としても機能している。小児科に関しては、大学病院本院には外来、NICU、一般新生児室と若干の小児病棟(急性期)を残すのみとなった。具体的には、小児病院が医学部の小児科を買収したようなものであり(ジェファーソン側からすれば、うまく赤字部門を厄介払いした)、大学とは経営的には全く独立した機関として運営されている。この辺の背景は、州政府間の複雑な政治的な駆け引きもあり、その詳細はここでは割愛する。現在は、病院の大規模な拡張工事の最中であり、2014年に新しいキャンパスが完成する。(http://nemours.org/content/nemours/www/about/location/nchaidhc/expansion.html

私は、この小児病院へ毎日ニュージャージーの自宅から車で約45分かけて通勤している。この小児病院は、全デラウエア州、ペンシルバニア州東南部、ニュー・ジャージー州南部、そして北部メリーランド州をカバーする第3次の総合小児医療センターと位置づけられ、分院を含め総勢300名近くの小児科専門医(各種外科医、麻酔医、放射線科医、病理医も含む)から構成されている。この他にレジデント、フェローと言われる研修医、修練医が150名ほど所属している。地域の最大のライバルは、私が研修をしたフィラデルフィア小児病院(CHOP)で、規模は私たちの病院より更に大きい(おそらくあらゆる面で全米一と言えよう)。アメリカと日本の小児医療の最大の違いは、まずこの規模の差であろう。一方、日本の小児医療があの少ない人数であれだけの成果を出しているのは大いに賞賛に値することであり、この事実はもっと正当に評価されるべきである。

私が属する心臓病センターNemours Cardiac Centerは、左心低形成症候群のNorwood術を考案したDr. William Norwoodにより1998年に開設された比較的若いプログラムであり、現在15床の全室個室の一般病棟と10床のCICU (Cardiac Intensive Care Unit) から成り立っている。陣容としては、外科医3、循環器医14、麻酔科医5人の医師から構成されており、年間で160から200例の開心術を行い、心臓移植も毎年平均1、2例行われている(2011年には6例施行された)。我々の下には11名のNurse PractitionerとPhysician Assistantが働いており、彼女らはレジデント・フェロー医師と同等の職務を遂行し、彼女達の存在なくしては病棟診療は成り立たない。現在の私の役割は、主に外来・病棟診療と基礎研究(テーマ:心不全、Cardiac Remodeling)であるが、時々レジデント、フェローの教育にも携わる。個々の循環器医は、年に4~6週間ほど病棟を担当するが(日本での病棟医長に相当する)、ここでの医師の役割は戦線における小隊長さながらである。日々の入院患者を診察しその病態の動向を正確に理解し、それを分かりやすくスタッフと患者の家族に伝えると同時に、利用可能ベッド数を把握しつつ、テキパキと入退院に関して部下に指示を出し、円滑に病棟を運営することが求められる。

指揮官のもうひとつの重要な任務として、チーム全体の「士気Morale」を高め、それを維持してゆくことがある。これは社会人としてはごく基本的なことであるが、日本の医学界では残念ながらあまり認識されていない。私がこの病院で学んだ貴重な教訓は、ごく当たり前のことであるが、それは「挨拶Greeting」、「笑顔smile」そして「感謝acknowledgment」の大切さである。上司から笑顔で「ありがとう」と言われて、気を悪くする部下はいないと思う。もう一つ大切な要素として、「教育Teaching」がある。私は、主に医師としての判断の根拠Reasoningを部下に教える。上司が部下に信頼されなければ、チームは正しく機能しない。医師が、医療者Clinician、現場監督Manager、そして教育者Educatorの3要素が必要とされると言われる所以である。

(つづく)

2件のコメント

  1. 北村由起子 より:

    初めてコメントさせていただきます。
    東京の小児専門病院のERで勤めております。
    小児を相手に、かれこれ25年になりますが、その中で、いつの頃からか、
    フィラデルフィアの小児病院に対する憧れがずっとありました。

    15年ほど前にハワイの小児病院で1か月ほど研修をする機会がありましたが、
    挨拶や笑顔、教育が、日本のそれと大きく異なり、とても楽しかったことを
    思い出しました。

    先生の20年におよぶアメリカでの医師生活のいろいろをまたアップしていただけると
    幸いです。

    私は今年、大学院を修了しました。
    小児プライマリケア実践を主体として実習などを行いました。
    アメリカのNPのようには、まったく及びません。
    (しかも日本にはその制度もまだありません。)
    いつか、アメリカのNPの様子を見て、少しでも、日本のそれになっていけるように
    したい、という希望を持っています。

    では、またのアップを心待ちにして・・・。
    ありがとうございました。

    北村由起子

    • 津田 武 より:

      北村先生、コメントありがとうございました。フィラデルフィア小児病院のレジデントとフェロー研修では、楽しかったことよりも、苦労したことの方が圧倒的に多く思い出されます。そんな経験の中で、アメリカの医学教育の素晴らしさ、日本の教育の良かったところや足りなかったところをいろいろ感じました。現在の自分が今アメリカの小児病院で現役として働いている理由は、自分がアメリカに同化したからではなく、日本で医学教育を受けたという独自のidentityがあるからこそだと思っています。私の仲間は、そのユニークさを評価してくれています。小児科医という仕事は、日本でもアメリカでも、本当に真面目な人しかできない仕事だと思います。

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