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ノール玲子

ブログについて

日本にはないミッドレベル医療従事者(Mid-Level Provider)が、どういう風に医療貢献できるか、勤務経験を元に書いていきたいと思います。

ノール玲子

医者でもない看護師でもない、ミッドレベル医療従事者—フィジシャンアシスタント(PA)。アルダーソンブローダス大学PAプログラム卒業後から救急医療科勤務。

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11月のある朝はこういう風に始まった。隣のカウンティから交通事故で、トラウマレベルI(最重症レベル)の意識不明の患者が移送されてくる。もちろんこの患者は、外科医と救急医で診察。救急隊に話を聞けば、車停止中に後尾衝突され、溝に転落。診察結果はくも膜下及び硬膜下出血と肋骨骨折。救急医がこの患者で忙しい時に、Chest Pain Centerから、”Reiko, Come to Chest Pain Center STAT!!(レイコ、いますぐ胸痛センターに来て!)”とアナウンスされる。”どうしたの?”とナースに聞けば、EKGを突き渡される。見ると、発作性上室性頻拍(SVT)、脈拍180−200。すぐに患者の部屋へ行く。話を聞くと、胸に圧迫感を感じ目が覚め、脈が速い気がして救急に来たとの事。問診・診察の間、ナースに頼んで、アデノシン6mgを注入してもらう。モニターと患者の顔を交互に見る。一瞬心拍が停まる。3−5秒後に、ピッピッピッとモニターが音を鳴らし始める。脈拍86。短くて、長い3−5秒。患者さんに、”大丈夫?気分はどう?”と聞いた途端、ぽろぽろと彼の目から涙がでてきた。ほっとしたのか、よっぽど怖かったのか・・。しばらくの間、EKGのチェック、患者の状態、SVTが再出現していない事を確認した頃に、忙しかった救急医が部屋に来た。”大丈夫?” ”うん、SVTだったから、アデノシン6mgあげたよ。EKGは虚血のサインやST上昇なし。SVTも再出現していないから、このままモニター続けて、循環器科の先生に連絡しようかと思ってた。でも、先生の手が空いたんだったら、バトンタッチするけど?” ”了解”

こうして、その患者の受渡しの後は、捻挫など軽傷者の診察がしばらく続いた。午後2時過ぎに”咳がでる。”と言う男性の診察。英語が話せない患者なので、通訳をいれ問診をすると、実は、南米からの不法移入者で10日程前にニューヨーク経由でジョージアに来たらしい。さらに話を聞くと、体重減、食欲減、夜汗、微熱が続いているらしい。”あー、やばい。結核か??”と頭の中を駆け巡る。ナースに頼んで、陰圧室に移動。頼んだ検査は、CBC, CMP, CXR, TB, HIV, Blood culture, UA(血算、生化、肝機能、胸部レントゲン、血液結核菌培養、HIV、血培、尿検査)。胸部レントゲンを見ると、両方の肺とも真っ白。Pneumonitis(肺臓炎)として、すぐに救急医にプレゼンする。一緒にレントゲン見ると、彼も、”なんてこった。”の一言。すぐ、病院の当直医に連絡して入院。3週間後の今でも、まだ状態が良くならずに入院している。ただこの患者は、入国管理局に逮捕されたくないが為に、色々話してくれないらしい。

ほっとするのもつかの間。今度は、上半身だけ蕁麻疹がでた警官が来る。覚せい剤所有者を逮捕し、刑務所へ移動中に、いきなり体が痒くなり上半身に湿疹。呼吸困難がないので、ステロイド剤、H1&H2ブロッカーを静注。20分後には蕁麻疹もひいたが、その後すぐ、同じ犯人に接触した他の警官も同じ症状で救急に来る。ナースに頼んで刑務所へ連絡してもらう。犯人は頑固として何も白状しない為、原因不明。警官達がいた部屋は浄化してもらう事にする。

こうやって始まった一日は、12時間勤務が早く感じられる。SVTの管理はやっぱり怖かったが、SVTを担当したナースから”You are the only other white coat.(医師以外にはあなたしか白衣を着ていない。)”と言われたのが忘れられなかった。ミッドレベルがどこまでやれるか試された様な一日だった。

4件のコメント

  1. 臨場感あふれる記事ですね! ERの研修を思い出します。

    ところで、ノールさんの病院はレジデントとかフェローはいますか? 自分のいたNYの病院はPAがたくさんいて、レジデントと仕事を分担していましたが、レジデントやフェローがいない病院ではPAの役割も少し変わるのかと想像しています。いない病院ではより医師に近いことができるかもしれませんが、どうでしょうか? 例えば、上記のケースだったら、(特に小児科ではまれなので)やはりアテンディングじゃないとアデノシンの静注はしないと思います。

  2. 浅い先生。コメントありがとうございます。
    残念ながら、私の病院にはレジデント、フェローはいないんです。だからからもしれませんが、ミッドレベルのAutonomyがかなりあります。IV CCB,BB,Heparinなどもオーダーしますし、稀ですが、必要であれば、Codeをする事もあります。ただ、わたしの病院では、ミッドレベルは4ヶ月以下の乳児は診れない事になっています。場所それぞれと思いますが、やっぱり大学病院やTeaching Hospitalになるともっと役割が変わると思います。

  3. アデノシン静注までPAがやってしまうのは、レベル高いですねー。私はCardiologyのアテンデイングですが、うちの病院のERではアデノシンはレジデントですね。PAがする事はありません。レジデンシーがない病院だとPAのする事もかなり拡がるんでしょうね。うちの病院も胸部外科のPAは、動脈グラフト採取に関しては全米でもトップだそうで、講演にもよくまねかれるそうです。
    ミッドレベルとはNPも入るのでしょうか?私はNPと仕事をする事は多く、PCI後の管理病棟はNPチームが担当ですが、私は責任者なので毎日ラウンドしています。彼女たちはアデノシンの静注もできます(笑)。
    ノールさんの記事、とても興味深いです。今後もおもしろい記事を楽しみにしています!

    • ゆみ先生。コメントありがとうございます。

      はい、ミッドレベルはNPも入っています。今のERはバイトも入れるとPA7人NP4人います。24時間ミッドレベルカバーです。

      ゆみ先生はCardiology Attendingなさってるんですね。卒業後に、ある有名大学病院の胸部外科PAの仕事面接させてもらったのですが、面接が11時間だったの覚えてます。オファーもらった時に、”家庭持ちには時間的にはむりだと思う。”と言ってお断りしました。だって仕事時間が、週5日ずっと13時間+ポケベル週2−3日、オンコール各3週間ごとって言われましたから・・・(爆)。でも、今でも、胸部外科には興味はあります。お仕事がんばってください!

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