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桑原功光

ブログについて

大阪出身の妻と2児の子育て奮闘中。子育ては最高の小児科学の教科書です。モットーは“think globally, act locally, and love your family”。小児科・神経科・医学教育を世界で学び、グローバルな視野を持つ後進を育成することと、息子たちとアイスホッケーを生涯続けることが夢です。

桑原功光

北海道砂川市出身。2001年旭川医科大学卒業。1年間の放射線科勤務の後に岸和田徳洲会病院で初期研修。都立清瀬小児病院、長野県立こども病院新生児科、在沖縄米国海軍病院、都立小児総合医療センターER/PICUと各地で研鑽。2012年-2015年 ハワイ大学小児科レジデント修了。2015年-2019年 テネシー州メンフィスで小児神経フェロー、臨床神経生理学(小児てんかん)フェロー修了。2019年9月よりミシガン州デトロイトのChildren's Hospital of Michiganで小児神経科&てんかん医として勤務開始しました! 日米両国の小児科専門医&米国小児神経科・臨床神経生理学専門医

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2020年も残りわずかとなりました。我が家にとって、今年は緊急帰国で始まり、コロナウイルスで終わった激動の1年でした(緊急帰国についてのエピソードは以前のあめいろぐで述べました )。年々、時が経つのが加速度的に早くなっているような感じがします。

https://ameilog.com/norimitsukuwabara/2020/02/07/012909

感慨深かった今年のできごとのひとつは、ワシントンDCで心臓外科医として勤務されている北原大翔先生が監修されている留学情報ウェブサイト ”Team Wada”の留学医師ライブインタビューに出演できたことです。

https://www.youtube.com/watch?v=PcICckvvIm8

このインタビュー出演を通じて、臨床留学に関わる本邦最新のデータを発信したところ、臨床留学に興味がある日本中の医学生、医師たちから反響を呼んだことで、2020年12月13日には「アメリカ留学希望者必見! 海軍病院の全てがわかる 海軍病院徹底解説」の特別番組の解説者としてもお声がかかりました。

https://www.youtube.com/watch?v=J5Gbgl2TEL8

この海軍病院の特集番組がウェブサイトに解禁されたとたん、24時間もたたないうちに1000人の視聴者を突破して、さらにその数は増え続けています。こうした反響は自分でも予想外で、多くの方から連絡や質問を受けました。チームWADAチャンネルを運営している北原先生には本当に感謝しています。

また、12月26日(土) 夜8時(日本時間)から、4時間の生放送ライブ【WADAフェス2020】があります。夜8時30分から9時の30分間に、ライブでまた出演する予定です。臨床留学に興味や質問のある医学生や医師の方はチャットからの質問が可能なので、ぜひご参加ください。

https://www.youtube.com/watch?v=as30tH95B_Y

こうした発信を続けていたところ、とある臨床留学を目指す医学生から「志望動機書(Personal Statement(PS))はどのように書くのが良いのでしょうか」と質問を受けました。私は現在、ミシガン小児病院の小児神経科レジデントの面接官のひとりでもあるため、数多くの志望動機書に目を通します。しかし、心に響く志望動機書に出会う機会はそれほど多くありません。どんな動機書が心に響くのか、と言われると一言で説明するのは難しいです。しかし、面接官の立場として、その志願者が医師としての「ノブレス・オブリージュ (noblesse oblige)」をわきまえているかどうか、ということは最低限確認したいと努めています。私は動機書や面接を通じて「ノブレス・オブリージュ」を全く感じることができない候補者には、高点数は与えておりません。

「ノブレス・オブリージュ」とは、もともとフランス語であり、直訳すると「高貴さには義務が伴う」という意味です。日本語で言う「位高ければ徳高きを要す」にあたります。地位を与えられた人は、それに相応しい品のある行動が求められ、自己犠牲の精神を持たなければいけないという覚悟を諭した言葉です。

最近になり、2019年マンガ大賞に選ばれた「ブルーピリオド」を読んだのですが、その3巻の「縁と糸」の話が非常に印象的で、アメリカに来た意味をあらためて見つめ直すいい機会となりました。東京藝術大学を目指す高校3年生の主人公である矢口八虎は、予備校で絵を学んでいたある日、イメージ課題として「縁」を題材に絵を描くことになります。縁から「糸」を想起した八虎は糸をモチーフに絵を描き、それを予備校の先生に見せたところ、「矢口にとって縁は糸の形してた? 本当にしてたならそれでいい」と問われて、八虎は困惑してしまいます。八虎はそこでやっと、自分に与えられた題材の真の意味と本気で向き合っていなかった自分の甘さに気づくのでした。

志望動機書を書いた人であればわかるのですが、動機書とは「自分との対話」です。自分と向き合うことは決して楽なことでなく、むしろ苦痛なことが多いのが実情です。「人を助けたい、困っている人を救いたいから医師になった」と、みんな面接ではいくらでも体裁のいいことばかり述べます。でも、その「無私の精神」はどこまで本気でしょうか? どうしてあなたは臨床留学を目指したのでしょうか? 私自身、時にその答えがわからなくなる中、私なりの「ノブリス・オブリージュ」と向き合うことになるできごとが最近ありました。

私は初めて会う患児とその家族には、自分の背景を含めた自己紹介から会話を始めることにしています。不安を抱えた多くの患児や家族にとって、アジア人である私がどんな人間なのかを理解してもらうことは、信頼を確立するための大事な第一歩なのです。さらに、私の名前である “KUWABARA” は多くのご家族には覚えづらいため、”Dr.NORI” と名乗っています。ただ、「ドクター・ノリ」ではなく、英語風に「ドクター・ノーリ」と間延びして発音しています。デトロイト郊外には、北米最大のアラブ人コミュニティである「ディアボーン」という街があり、私もそこのクリニックに週1回通っています。患者の大多数はアラブ人なのですが、ある日、ある患児の父親にいつもどおりに「ドクター・ノーリ」と自己紹介したところ、その父親に「先生のお名前はアラブ語のようですね」と言われました。その意図を尋ねたところ、「先生のお名前であるヌーリとは、アラブ語で「光」という意味です」と教えてくれました。どうもノーリがヌーリと聞こえたようです。そう説明された刹那、目が開かされる思いがしました。両親から与えられた私の名前「功光(のりみつ)」の一部にも、偶然とはいえ「光」があります。アメリカまで一緒についてきてくれて私をずっと支えてくれている妻と息子たちの思い、遠く離れている日本の家族の思い、過去に出会ったさまざまな人たちの思い。その思いに応える「光」でありたい。過去の縁という名の点がやっと確かな線として目の前に啓示された瞬間でした。アメリカでの生活でいろいろ迷い、悩むことも多い日々の中、そのアラブ人の父親に逆に救われた気分になりました。

北海道の両親も高齢となりました。さらに父が体調を崩して入院してから、母もひとりで寂しく感じているだろうと思い、先日、電話したところ、そんな思いは全くおくびにも出すことなく、逆に鼓舞されました。

「あんたはもう45歳だよ。次の10年間、55歳までが人生の勝負だよ。やりたいことがまだアメリカであるんでしょう? 今やらないと、この先ずっと後悔するよ。あなたは今、試されているんだよ」

コロナ災禍の中、ミシガン小児病院で新しいMaternal Fetal Center (周産期母子センター) がスタートします。それに合わせて、胎児から新生児にかけての神経疾患を扱う”neonatal neurology (新生児神経学)”を立ち上げてくれないかと私に依頼があり、2021年の始動に向けてその準備を進めているところです。母の言う通り、次の10年が私の人生の勝負の時でしょう。

私が生まれた時に、両親がどんな思いを私の名前に託してくれたのか。「あなたにとって縁はどんな形をしていますか?」と聞かれたら、私はこう答えます。「闇を照らす『光』です」と。

私は自分が選んだ小児神経科医という仕事に誇りを持っていて、何よりもこの仕事が心から好きです。

ミシガン州デトロイトから、こどもたちの未来に祈りを込めて。

4件のコメント

  1. 元気ですか? チョードリー先生と学ぶの本買いました!ミシガンにいるのかな

    • 稲岡努先生、お久しぶりです。お元気でしょうか。今は東邦大学でご勤務でしょうか?

      私は現在はミシガン小児病院(ミシガン州デトロイト)で小児神経科医をしております。チョードリー本をご購入いただき、ありがとうございました。おかげさまで好評のようです。

      私は今でもアイスホッケーをしています。テネシー州にいた頃より再開して、ミシガン州に異動した後も続けています。アメリカでもアイスホッケーが盛んな土地です。アメリカではアイスホッケーは「生涯スポーツ」です。体当たり(チェック)さえなければ、一生できるスポーツだと感じるようになりました。私の息子たちもホッケーに夢中です。

      アイスホッケーと小児神経の関連についても過去のブログで述べました。よろしければ覗いてみてください。
      http://ameilog.com/norimitsukuwabara/2017/05/17/120059
      http://ameilog.com/norimitsukuwabara/2017/05/24/120001
      http://ameilog.com/norimitsukuwabara/2020/05/14/185109

      またいつかお会いできる日を楽しみにしております。ミシガン州にお寄りになることがあれば、ぜひご連絡ください。ご案内いたします。

  2. 私の娘は神経芽腫再発で闘病しています。日本では治療できる薬もなく、アメリカでは標準治療としてされている治療も日本では認可されておらず、認可を待っている余裕はない状況です。なんとかしてアメリカでの治療を受けることができないかと、調べています。セントジュード小児病院での治療が出来たらと思っていますが、どのようにして治療の申し込みをしたらよいのでしょうか?
    突然、このような事を桑原先生へメールして失礼だとはおもいますが、何卒、よろしくお願いします。

    • 鈴木礼子さんへ

      娘さまのこと、さぞご心配なことと存じます。
      セントジュードがある疾患の患者を受けつけているかどうかは、
      以下のウェブサイトで確認できるようです。
      https://www.stjude.org/treatment.html
      一度、ご担当の先生に相談されてはいかがでしょうか?
      娘さまの無事なご快復を祈っております。

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